「えっと・・・Mr.武士道!! よかったらこれ!!」

上ずった声が女部屋から聞こえる

だが、その数秒後に溜め息

「だめだわ・・・もうちょっと自然な感じに・・・」

続いて、念仏のごとくブツブツと呟く声

ビビはまた大きな溜め息をついた

自分が思いを寄せる男にバレンタインのチョコレートを買ったのはいいものの、渡し方に試行錯誤すること1時間

練習ですら声が上ずっているのだから、いざ本人を目の前にしたらどうなることやら


「えっと・・・これ・・・」

・・・・・・・・・

『主語と述語がないじゃない!!』


「・・・バレンタインのチョコよ ちゃんと食べてよね!!」

・・・・・・・・・

『私は一体誰なの!!?』


セリフを言ってみては、自分の心の中でツッコむという流れ作業

もはや自分らしい言葉を見失いつつあった

ナミ曰く

「そんなもの、本人を目の前にして思ったことを言えばいいじゃない」

だそうだが・・・

あいにく、ビビは生まれつきの心配性 それも極度の

本人を前に無言になってしまったらどうしよう。という思いが勝り、練習せずにはいられないのだ

「この状態じゃ、いつまでたってもMr.武士道にチョコレート渡せないわ」

自分で自分に言い聞かせるも、出るのは大きな溜め息ばかり

「・・・彼の前でこんな溜め息ついていたら、何て言われるかしら・・・?」

どうした? と心配してくれるだろうか?

幸せが逃げるぞ? と非現実的なことを言うだろうか?

それとも・・・


「”辛気臭いからやめろ” だな」


背後で声がする

明らかに、ビビに向かって向けられた声

まさかと思い、恐る恐る振り返ってみると・・・

「ミ・・・Mr.武士道!!?」

「俺なら、溜め息ついてるお前にそう言うぞ」

ドアにもたれ掛かった状態で腕を組んで、こちらを見ているゾロがいた

い、いつから!?

「いっ・・・いいいっ・・・いつ・・・!?」

「あ? ついさっきだよ お前が溜め息つく前」

ってことは・・・練習内容は聞かれてない?

そのことにホッと胸を撫で下ろすも、次に浮かんだのはハテナのマーク

「その顔は・・・どうして俺がここにいるのか分からない・・・って顔か?」

腕を組んだ状態のままピタリと言い当てるゾロ

そして、ビビに向かって不敵な笑みを見せた

その表情に、ビビの心拍数は一気に上昇する

心臓が・・・握り潰されそう・・・

「ナミにビビが部屋にこもって出てこないから、見て来いって頼まれたんだよ」

「ナミさんが!?」

「あぁ 自分で行けって言ったら俺じゃなきゃ意味がねーんだとよ 何言ってんだ?あいつ」

ビビは目を見開いたまま、酸素を求める魚のように口を開閉する

そのナミからの頼みごとに隠されたビビへのメッセージは

『本人目の前に、思ったこと言って渡しちゃいなさい☆』

そんな類の内容だろう

ビビは顔から血の気が引いていくような感覚に陥った

「で? なんで溜め息なんかついてたんだ?」

ゾロがビビに歩み寄りながら問いかける

その質問にビビの体がビクリと跳ねた

「そ・・・それは・・・」

『あなたにチョコレートを渡す方法を考えていたからです』なんてことは絶対に言えない 

口が裂けても言えない!

気付けばゾロはビビの目の前まで来ていた

引きつった表情のままゾロを見上げるビビ

対するゾロは不思議そうな表情のまま

もう・・・やけくそだ!!

ビビは後ろ手にまわしたチョコレートの箱を強く握り締めた

「あ、あの!!」

「ん?」

心臓が破裂しそうだけど まともに顔が見れないけど


「こ、これ!! バレンタインのチョコレートです よかったら食べてくださいッ!!」


目を瞑りながら勢いよく、箱をゾロのほうへ差し出す

い・・・言ったっ!!!

今のゾロの表情を見るのが怖くて、目を瞑ったままのビビ

だが・・・


「フッ・・・」


と頭上で微かに笑う声

ゆっくりと目を開けて、見上げると


―――――不敵な笑みを浮かべたゾロ


そして一言


「―――合格だ」


「えっ?」と思わず声にしてしまった瞬間、強い力が体にかかる

前のめりに倒れこむビビの体を、ゾロはしっかりと受け止めて、抱きしめる

ビビとゾロとの間に挟まれたチョコが、つぶれてしまうのではないかと思うくらいの勢いだった

「お前、遅ぇんだよ」

「えっ?」

「もう1時間も練習してんのに、一向に俺に直接言ってこねーし」

「えぇ!?」

「抑えるのに苦労しただろ」

「ま・・・まさか・・・」


「悪ぃな 始めっから全部聞かせてもらってたぞ」


今度こそ、本当に血の気が引いた


ということは、自分らしくないセリフの数々と自分ツッコミの一人コントを


「聞かれていたんですか!!!?」

「だって、お前声デケェんだよ」

うわうわっ!! 恥ずかしいっ!!

顔を両手で覆いたいが、ゾロと自分の間に強く挟まれた両手はビクリともしない

「俺は小1時間前から、こうしたくってウズウズしてたぞ」

そう言ってまた強く強く抱きしめる

ビビは整理の付かない頭の中をかき混ぜて、言葉を探す

「そ・・・それは・・・」

「ん?」


「ご、合格ってことは・・・喜んでもらえているということで・・・いいんでしょうか?」


「当たり前だろ」


そして耳元で囁かれる言葉




「・・・ありがとう」




小1時間は、貴方を想う気持ちの表れです。

(この後もしばらくは離してもらえませんでした)




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バレンタイン企画
やっぱりゾロは強行突破で安定☆w



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