穏やかな昼下がり

ゴーイング・メリー号もゆったりとした雰囲気に包まれている

・・・はずだった

「よっしゃ!! ビビ、行くぞ!!」

そういって右手をブンブンと振り回す、麦わら帽子の船長

「えぇ? あ、はい」

その横で戸惑いながらも返事をする、水色髪の王女

『どうしてこんなことになってしまったんだろう』

王女ビビは、さっきのやり取りを思い出していた

それは、昼食が済み、それぞれが思い思いの行動をしていたときのこと・・・

ビビはカルーと甲板にいた

ウソップに改造してもらった孔雀スラッシャーと布切れを片手に

ゾロに教えてもらった

『武器は手入れすることが大事なんだ』と

せっかく新しく改造してもらったのだから、自分も手入れというものをしてみよう

そう思い立ち、とりあえず磨いてみようかという結論に至ったのだった

階段のところに座り込んで、スラッシャーを丁寧に磨いていく

前とはデザインも違うようだ

伸びるようになったから、これで前より攻撃範囲は広くなるはず

少しは、彼らに迷惑をかけずに済むだろうか?

アラバスタへ一直線に向かう船の中、ビビはそんなことを考えながら、ひたすら手を動かしていた

すると・・・

「ビービ!! 何してんだ?」

突如、目の前に逆さになったルフィの顔が現れた

一瞬、驚いて叫びそうになったが、なんとか堪えて持ち直す

「武器の手入れをしているんです」

そう言って、手元の布をヒラヒラと振って見せると「ふぅん」という相槌が帰ってきた

「お前の武器、何か前と違うぞ?」

ルフィはビビの膝の上にある孔雀スラッシャーを見ながら言う

興味なさそうに見えて、意外とこういうところも見ているのだから不思議なものだ

改造前のなんて、本当に数度しか見せたことないのに

「えぇ ウソップさんに改造してもらったんです」

「パワーアップしたのか!?」

「えぇ」

パワーアップという響きに反応したのか、ルフィの目は輝いている

「なぁ、それどうやって使うんだ?」

「これは投げると伸びるんです 触れたら切れますよ」

ビビは右手でスラッシャーを投げる手振りをして見せる

ルフィは伸ばしていた首を縮め、ビビの前に降り立った

「そんじゃあ、俺と同じだな」

「俺も腕、伸びるもんな」といって右腕を伸ばして笑顔を浮かべるルフィ

「えぇ、同じですね」

その光景が何だか微笑ましくて、ビビは笑みを見せた

「そんじゃあさ、勝負しようぜ?」

「え? 何をですか?」

「どっちのほうが長く伸びるか」

「そんなのルフィさんに決まってるじゃないですか」

「ゴムなんですから」とビビは勝負を断る

が・・・

「そんなの、やってみなきゃ分かんねーじゃねーか」

ぶすっとした顔で言うと、ビビの腕を取った

有無を言わさず引っ張り、階段から立ち上がらせる

「あっちに向かって伸ばすんだ いいな?」

「えぇ!? ちょっと待ってください」

ルフィの横に並べられたビビは、慌てて離れようとするが

ただ前を見て笑顔を浮かべているルフィが、離してくれるわけがなくて・・・

「ビビと勝負、初めてだな」

そう言ってニシシと笑いかける少年に、もうビビは何も言えなかった

代わりに小さく笑ってみせる

「んじゃ、せーので行くぞ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「その前に腕を放してもらわないと、スラッシャーを投げられません」と講義したビビの腕を「あ、そうか わりぃわりぃ」と言ってルフィは離す

そして冒頭に至るのだった


ルフィが右手を大きく回しているのと同様に、ビビはスラッシャーを回した

「それじゃあ、せーので飛ばすぞ?」

「あ、はい」

負ける気しかしないが・・・仕方がない

「せーの!!」

ルフィの声と同時に、スラッシャーを投げた

先端はそれなりの距離を進んだ後、甲板に突き刺さる

一方、ルフィの右手はまだまだ伸びていた

やっぱり・・・

「ほら、やっぱりルフィさんのほうが伸びるじゃないですか」

ビビの言葉に、ルフィは腕を戻して「う〜ん」と唸る

そして出てきた言葉は

「そんじゃ、ハンデやるよ」

「えっ?まだやるんですか?」とビビが思ったのは言うまでもない

「3歩!! 3歩進んだところで投げていいぞ」

「3歩進んでも変わりませんよ」

「いいから!! いくぞ!!」

ルフィはさっきと反対側のビビの隣へやって来て、また右腕を振る

ビビは仕方なく、3歩前へ進んだ

そしてスラッシャーを回す 

風を切る音のリズムに乗ってきた頃

「よし!! せーの!!」

ルフィの合図がかかり、思い切り投げる

キンッという刃物が木に刺さった音と、ドン!!という物を破壊した音が同時に甲板を支配した

「えっ?」

前方を見ると・・・


ルフィの腕が倉庫の壁に突き刺さっていた


「えっ!?」

「あ〜、倉庫に当てちまったよ」

ルフィは腕を伸ばしたまま、麦わら帽子越しに頭を掻く

「ビビのは・・・おっ!! ビビのほうが遠いな」

そう言われて、刃物の先端を見ると

確かに、ルフィが突っ込んだ倉庫よりは遠くに刺さっているが・・・

「ルフィさん これはノーカウントでは・・・?」

「何言ってんだよ 勝負は勝負だろ?」

「ビビの勝ちだな」そう言ってニシシと笑うルフィ

そこで思いつく

もしかして、わざと倉庫に突っ込んだ?

だが、あえてそれは口にしなかった

言ったとしても、否定されるに決まってるし、そんなルフィの小さな優しさが嬉しかったから

「ルフィさんに勝てたんですか? 嬉しいです」

何も気付いていないフリをして、笑顔を見せた


穏やかな風が、そんな2人を包み込んでいた



3つ進んで手を伸ばす

(どれだけ進んで手を伸ばしても、触れられないんだろうけど)
(あなたのことだから、きっと)

(戻ってきて、手を掴んでくれるだろう)




* * * * * * * * * *

たぶんルフィは勝負事に手を抜かないと、書いてから思った


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