*サンジの失恋話です それでもいいという方はどうぞ


ナミさんが熱で倒れた

そう言う彼女の声が甲板に響いたのは、まだ太陽の高く上る昼間

駆けつけた俺たちが見たのは、苦しそうに表情を歪めて倒れているナミさんと、彼女の意識を飛ばさないように声をかけ続ける彼女の姿だった

男だらけの海賊船

医学をかじっている野郎どころか、風邪をひいたことがある野郎すらいない

そんな中で頼りに出来るのは、たった1人の少女だけだった

付きっ切りで看病する彼女

国に早く帰らなければならない彼女が「医者のいる島を探そう」と言ったとき、俺は本当に胸を打たれた

まだ16歳の少女がするような決断ではない

国の王女であり、国民の命を背負うには小さすぎる少女が「それがこの船の最高速度だ」と言い切ったのだ

「よく言ったビビちゃん 惚れ直したぜ」

本当に 惚れ直した もっともっと彼女から目が離せなくなった

意味の分からない海賊船に襲われたりもしたが進路に差し支えはなく、船は進み続けていた

気温がどんどん下がっているのが目で見ても分かる

ナミさんの体調も心配だけど、俺は彼女のことも心配だった

何でも1人で背負い込んでしまう子だから、無理をしているのではないか?

彼女まで風邪を引いてしまったら、どうしよう

そう考えると、俺は居ても立ってもいられなくなってしまう

だからせめてもの安心材料

「ビビちゃん 栄養満点リゾットを召し上がれ 体が温まるよ」

これが俺に出来る、彼女への精一杯の気配り

差し出されたリゾットをスプーンで掬い、口へ含むと彼女は満面の笑みを見せた

「おいしい!! サンジさん、ありがとう」

俺まで温かくなった気がした

君が笑ってくれるなら『コック』として『男』として、これ以上の喜びはない

そして島が見えた

上陸しようとしたが、そう簡単にはいかず

島の住人たちに銃口を向けられる始末

まぁ海賊だからそれは仕方のないこと

だが、奴らは引き金を引いてしまった

それが俺やルフィやマリモ野郎相手なら、とくに問題ないのだが・・・

焦点は彼女だった

パンッという乾いた音と火薬の匂い

目の前には、揺れる水色の髪

重たい音と共に、彼女は倒れこんだ

それは、俺の・・・いや、俺たちの怒りの蓋を開けるには大きすぎる引き金だった

「てめぇら!!」

ルフィが手を出そうとしたその瞬間

起き上がった彼女は、その体にしがみ付いた

「待って!!!」

大きな声に、俺も動きを止める

彼女は地面に手を付けて、頭を下げた

「島には上陸しませんから、医師を呼んでいただけませんか?」

その言葉と行動は、俺の目と耳に焼き付いている

一国の王女がするとは思えない行動

だけど無様だとか、威厳がないだとか、そんなことはまったくない

寧ろ、素直に尊敬した

本当に、彼女は偉大な王女だと思った

そしてその後、俺の耳に入った小さな声

「あなたは船長失格よ・・・ ――ルフィ」

小さな声なのに、俺の脳裏にこびり付いた

彼女は王女らしく、俺たちのことを「さん」付けで呼んでいた

彼女が自分の国の兵士以外を呼び捨てで呼ぶのは初めて

それだけ、うちの船長は

――彼女にとって特別だった


分かっていないわけではなかった

あの美しいミス・オールサンデーから受け取ったエターナルポースを、あいつが砕いた時

彼女の表情を見て、分かっていた

今まで数多くの女性を見てきた俺が言うのだからきっと間違いはない

そして、それは俺が君を意識しだすきっかけでもあった


船長は彼女の言葉を噛み締め、彼女と同じことをする

そして、認められた入国

「ね? 分かってくれた?」

住人たちが村へ引き返して行くとき、地面に顔を伏せた状態のまま彼女が船長に話しかける

「あぁ お前すげぇな」

船長の素直な褒め言葉に、彼女は笑顔を浮かべた

きっと、それが彼女の本当の笑顔

16歳という年齢に相応しく、可愛らしい笑顔だった

「やっぱり、船長にはかなわないな・・・」

俺は小さく呟いてタバコの火を揉み消した

きっと君にとっての俺は『自分を助けてくれた船のコック』という風にしか見ていないのだろう

今は、それは辛いけど 大丈夫

それでも俺は、君の幸せを願いたい

国のことも、船長のことも 君が願うのなら、おれはそれを叶えたい

絶対に邪魔しない

だけど、今は・・・


俺は新しいタバコに火をつけた

煙を吐き出しながら、降り続く雪を見つめる

このタバコの火は、俺の凍った心を溶かしてはくれないだろうか?

バカなことを考えながらも、俺はタバコを吹かし続けた



火煙が消す想い

(俺も男だから)
(どうしても君に手を出したくなるんだよ)




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私が考えるサンジは安定の失恋ポジション
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