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下克上始まってた


一言。

青春だなー毎日部活お疲れさんー。

この心の距離感たっぷりの一言が俺の大学生活を変えることになったなんて、誰が想像しただろうか。



オッス、オラ名前!職業は大学生という名の学生ニート、特技は見なくても味で板チョコのメーカーを当てられること、休日はもっぱら2chでクソスレを立てて一日が終わる悲しい生き物だ!
本当に何の下心もなくて、不意に口から出た言葉だったんだ。いつものように眠くて仕方ない教授の話を耐え抜き、帰りにコンビニのアイスでも買って帰ろうかなと思っていた。我が家の近所にある高校のジャージを着た子供たちがおにぎりの具で揉めているのを横目で眺めながら、目的のアイスを手に取り会計を済ませたところまでは良かったんですけどね。
ドン、と。
長身揃いの高校生たちの中で比較的小さめの子が俺にタックルをかましたお陰で、俺のアイスはin theスカイ。「すすすすみません!!!」と元気よく頭を下げた少年に、乾いた笑いと共に気にしないでくださいと返す心の広い俺。今時の高校生に文句でも言おうものなら即カツアゲコースだからな…もう…。
心なしかぺしゃっとしたアイスを持ち直し、さて帰ろうと愛想笑いを浮かべながら言ったのが冒頭の台詞。普通ならこれでもう終了のハズだった。

この流れのせいで烏野高校男子バレーボール部の雑用係をやることになるなんて、神様だって予想出来ないと思う。



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「名前さん名前さん!」
「何だい日向くん」
「スパイクの打ち方を教えてください!」
「何度も言うが俺は運動音痴ですよ日向くん」
「でも相手チームに対しての観察眼はピカイチだって先生言ってましたよ!」
「ホラ…普段から研究のために微生物を相手にしてるから…」
「だから俺のスパイクで気になる所とかあったら!言って!ください!」
「テメー日向ずりーぞ!名前さん俺のトスも教えてください!」
「おおふ…」



わいわいがやがや。
最初に言っておくが俺はこんな春高を目指すレベルの高いチームに教えられるほど実力も何もない、というか運動神経の欠片もない。それなのに何でこうなったのか。最初はただ懐かれてるだけだったのに、彼らの練習試合を見に行ったのが運の尽き。足を捻ったのをひた隠しにしようとする影山くんの怪我を指摘してしまった俺氏=この場にいる誰も気付かなかったという現実=すごい観察眼のある人だ!!
ブリッジしながら絶望した。
幸いなのがここのコーチである鵜飼コーチが事情をわかってくれている所なんだが、事情を理解した上で部員たちのモチベーションが少しでも上がるならと押し切られてしまった俺涙目。これだから大人って汚いんだぜ…。



「名前さんどうやったら俺身長伸びますか!?…!!!アッ、すすすすみません何でもないです!!」



何だこの残酷な問いは。途中で俺とぴょーんと後ろから飛びつき、質問を投げかけた自身の身長があまり変わらないことに気付いたのであろう日向くんのどもり具合が更に俺を傷つけた。成長期にゲームやら何やらで夜更かししたので!自業自得なんです!気にしてません!と血涙を溢れさせながら返答したら三年生達に大層哀れみを込めた目で見られた。クッ、この巨神兵どもめ。
大体大学生になった今でさえ慢性的に寝不足なんだから、万に一つの可能性すらない。


「そう、大学生活はレポート実習テストのサイクルでしかない魔の巣窟…レポート終わんねえ…」
「! じゃあ一緒に勉強会しましょ!俺頭悪くて合宿に行けないかもしれないんです…。でも名前さんと一緒なら頑張って勉強します!」
「ええー…」
「ププ、名前さんも馬鹿の勉強は見たくないってさ。というわけで僕とならいいですよね?」
「俺の株価が大暴落するからヤメテ」
「別に名前さんは身長平均でもいいんじゃないですか?何かこう、犬的な」
「待とうか影山くん。その話は結構前に終わったよ?犬って何?」
「何言ってんの?名前さんはどう考えても狸デショ」
「月島くんそれ轢かれて死ぬ!」



俺、職業柄レポートは静かにやりたいタイプってだけの話で、レポートが積み重なってる今じゃなかったら勉強会でも何でもバッチ来いだったんだけど。むしろバレーよりそっちの方が得意分野ですよ俺は。更に言うとこの言い争いは俺の心を抉るだけだと何故気付かないんですか。年下の少年たちにボコボコにされるとかもうホントやっていられないそこで笑いをこらえている鵜飼さんには後でビールを奢ってもらうしかない絶対に許さん。

でも何だかんだでこの幼気な子供たちのもしかして迷惑ですか…?という捨てられた子犬のような目に弱い俺は、断るという選択肢は初めからなかったのです悲しいね。