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弟の独白


俺には兄がいる。
至って普通の人で、いつもへらへら笑っている。一度それを言ったら、「へらへらじゃなくてふにゃふにゃと言え、それだけで女子力が上がる!」なんて返されたので、俺の兄は変人なのだろう。
見た目が整っているらしい俺は、よく周りに本当に兄弟?とよく聞かれた。当然怒りしか沸いてこない。一度相手に殴りかかろうとしたら、兄さんがとても悲しそうな顔をして止めてきたのでそれ以来無視を決め込むようにしている。

夕飯に嫌いなものがあるとこっそり食べてくれた。
手を繋いで学校に行ってくれた。
ピアスを開けたいと言ったら開けてくれた。

多少ふざけたりはするが、年以上に落ち着いていて、優しくて、自慢の兄だった。

ナマエ兄さんの言うことは絶対で、間違いはない。
よく怪人に追いかけられて小さな怪我をしている兄さんを俺が守ってやる。
小さい頃からそう思っていたし、そのビジョンも俺にはあった。


「ジェノス、どうした?」
「…なんでもないです、先生」


悲鳴、悲鳴、悲鳴。
爆発音と悲鳴とが交差し、逃げているのか向かっているのかすらわからない。
母と父は俺達を庇って倒れた。逃げろと声を絞り出し、冷たくなっていく両親を前に、15歳だった俺は動けずにいる。
馬鹿と怒鳴りながら俺の手を掴んで走る兄さん。混沌とする人混みをくぐり抜けるように駆けていく。曲がり角を曲がろうとし、視界が光に包まれた所で俺の意識は途絶えた。
目が覚めたらそこに兄さんは居らず、廃墟でたった一人俺だけが倒れていた。後は残骸という名に相応しい有り様が周りに転がっているのみ。泣いて、吐いた。
何故足の速い俺が兄さんを引っ張らなかったのか。あの時の自分を殴りたい。
満身創痍の俺をクセーノ博士が拾ってくれて、今の俺がある。

逃げている時、兄さんは俺は死なないと言った。だから死んでいない。ナマエ兄さんは俺に嘘をつかない。だから生きている。
俺は何年かかっても探し出してみせる。