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一生寝ていたい


この学校の方針は次世代のヒーローを育成すること。
流石名門と言わざるを得ない設備に、誰だって知っている現役プロヒーロー達の授業。中でも目を見張るのは、あのナンバーワンヒーローであるオールマイトが教師としてこの学校に勤めていることだ。移動してきて初めてその事実を知った時は流石雄英…と若干ドン引きしたのは仕方ない。
俺の心理的問題としてダントツ一番を誇っていたいとことの関係もまずまず。普通に話しかけられれば話すし、当初のぎこちなさはもうなさそうだった。


そんなこんなでA組のヒーロー基礎学である人命救助訓練のサポートとしてお呼ばれした俺だよ!
本当はそのオールマイトが来るはずだったのに、通勤途中で制限ギリギリまで体を酷使してしまったらしい。
もう最初から最後まで嫌な予感しかしない展開だったが、基本的には相澤先生達が生徒達の面倒を見ている間の雑用みたいなものだ。きっとなんとかなる。ハズ。多分。


「一かたまりになって動くな!!!」


まあなんともならないわな。
13号さんの熱い語りもそこそこに訓練が始まると思った矢先、普段何事にもローテンションな相澤先生の怒号が響き渡る。
黒い霧からぞろぞろと出てくる敵に、ああ今回もか…と思ってしまった非常事態への慣れが辛い。なんかもういい加減俺が疫病神なんじゃないかって気すらしてくるな。


「名字先生は生徒を!」
「はい!」


殆ど無個性に近い俺に何が出来るかって、そりゃあ子供たちを安全なところまで連れていくことくらいで。それも13号さんの後方支援あってでしか不可能だってことが辛いけど。それでもいよいよとなれば最悪生徒たちの盾くらいにはなれるからな。いないよりはマシな筈だ。


「先生は俺の後ろに」
「しょ…轟くん?」


周りに指示を出していた俺の腕をグイっと引っ張った焦凍は庇うようにして前に立っている。キミ俺の避難指示聞いてた?無事に生徒を外に逃がそうとしている俺のちっぽけな責任感なんて一つも聞いていない当人達は、突然現れた敵にも一切怯えずに迎え撃とうとしている。敵の一人である黒い霧の個性の奴にも攻撃を仕掛ける爆轟くんと切島くん。
これが映画とかだったら流石ヒーロー志望の子達だよ〜なんて笑っていられたかもしれない。
でもここは現実で、あの敵達にやられたら死んでしまう。
後手に回った不利は簡単に覆せない。そんな状況でも笑って敵を倒せるヒーローなんて一握り。

そしてここにはオールマイトはいない。


「…っの!馬鹿!いいから皆逃げろ!」
「もう遅いですよ」
「名前兄さん!」


視界を黒が覆いつくして、生徒達の大半は俺の目の前から消えた。



--------


ワープゲートに飛ばされた後、広場に戻ってきた僕たちの目に入ってきたのは、倒れている名字先生と今まさに腕を砕かれている最中の相澤先生だった。


「うん、うんうん、なるほどなぁ。脳無にちょっと小突かれただけでゲームオーバー…弱い、弱いが…使えるなぁ」
「…っ、」


倒れている名字先生の顔を掴み上げてぶつぶつと呟く敵は、この場面に不釣り合いな程不気味な笑顔をしている。まるで新しいおもちゃを見つけたようなその笑みは、僕たちの背筋を凍らせるには十分すぎるもので。
僕が動けない間にも名字先生を開放しようと個性を発動した相澤先生は地面に顔を叩きつけられてしまった。


「どうせ今回はゲームオーバーなんだ…お土産くらいあっても罰は当たらないだろ、なあ黒霧」
「そうですね…貴方がそう言うならそれで構いませんよ」


嫌でも連中の会話で察してしまう。きっと奴らは先生を連れて帰るつもりだということを。
何で先生を連れて行こうとしているのかも、ここまでしておいてあっさり帰ろうとしている事実も何一つ理解は出来ない。でもこのままだと目の前で人が攫われてしまう。名字先生は轟くんの親戚で、そしてきっと彼にとってとても大切な人なんだと思う。普段何を考えているかわからない轟くんだけど、それだけは伝わってきた。


「その手を離せえ!」


そんな人を何もしないで連れて行かれるなんて、僕は何のためにこの力を貰ったのかわからないじゃないか。


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頭から脳みそが飛び出している気持ち悪い人に小突かれて気を失っていた俺ですこんにちは。
正直打ちどころが悪かったり、脳無と呼ばれていたこいつがほんの少しでも力を加えていたらあの世にさよならバイバイしていただろうことは否めない。一般人だから仕方ないね。
相澤先生の足手まといになった事は言わずもがな、もう本当に申し訳なさ過ぎてどうお詫びしたらいいかわからないんだが、その前に今の状況も全然わからない。


「てめェらは楽に倒されると思うな」


もう誰がどう見てもめっちゃ怒ってる我がいとこに、いつ来たのかはわからないけど全然笑っていないオールマイト。それに爆轟くんや切島くんに緑谷くん。
どう見たって最終局面なタイミングで目を覚ましちゃうんだもんな〜こういうところなんだよなあ〜。
とりあえずの悩みは気を失ったままのフリをするかどうかなんだけど、ホントどうしたらいいんだろうなコレ。最早一生寝てたい。