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人生ペケばっか2


「おそ松オークショーン、いえーい」


どこかで聞いたような抑揚、それでもやる気は一切ありませんよっていうテンションで言い切ったのは、僕らと謎に付き合いが長い女性の名字さんである。当の本人は「オラいえーいって続けや」と寝っ転がっていたおそ松兄さんを足で小突いているが、何の連絡もなく急に我が家にやってきた名字さんに対して誰も驚きもしないあたりがもう色々お察し感あるよね。というか僕達も彼女に対してはしょっちゅうアポなし訪問をしているからなんだけど。


「オイ名前何しに来たんだよ」
「やかましいわこの三下長男め」
「何そのテンションクソめんどくっせえ…」


どことなくノリがおかしい彼女が僕たち六人に机の前に並ぶように言ったので、一応いつもの並びで席に着く。それを見てよろしいとでも言わんばかりの顔で名字さんが机から取り出したのは普通のペットボトルだった。しかも飲みかけ。


「こんなゴミみたいな物がなんだって言うんだよ」
「しかも飲みかけ…ありえないでしょ…」
「ええ…名前ちゃんどうしちゃったの…」
「ジュース!?ジュース飲みたい!飲みたい!」


当然のようにワイワイ文句がわいて出てくるが、彼女はどこ吹く風でむしろ僕たちを憐れむような目でこちらを見てくる。おそ松兄さんには肩パンをし、一松にはガンを飛ばし、トド松には笑顔で返し、十四松には撫でながら飲みかけじゃない新しいジュースを取り出す。この格差社会よ。
次に名字さんが発した言葉で僕たち六つ子の時は止まることになった。


「これなんだと思う?」
「どうもこうも飲みかけのジュースだろ?」
「…ハッ…!俺にはわかったぜ名前…!これは飲みかけのジュースに見せかけた秘薬…そうそれこ」
「まあ確かに飲みかけのジュースだね」
「やっぱただのゴミじゃん」


「ト ト 子 ち ゃ ん が 口 を つ け た 飲 み か け の ジュ ー ス」


頬杖を付きながら名字さんに文句を言っていたおそ松兄さんも、完全スルーを決められて涙目になっていたカラ松も、興味をなさそうに猫と戯れていた一松も、ジュースを飲みながらおいしいおいしい言っていた十四松も、話半分にスマホをいじっていたトド松も、当然僕もガバっと名字さんの方をガン見した。彼女がにっこりと持っている飲みかけのペットボトルは、あの、トト子ちゃんが、口をつけて、


「さあさあ盛り上がってきた所で落札開始するよ。諭吉一枚からどうぞ!」
「ちょ、ちょちょちょっと待って!」
「なんでしょうチョロ松くん」
「そんなトト子ちゃんを利用した商売なんてよくないんじゃないかな!?」
「そっか…じゃあチョロ松は不参加ということで…」


彼女はよく僕たちを言葉にするのすらおこがましいレベルのクズと言うが、僕は実際どっこいどっこいで彼女もクズ野郎だと思っている。主にこういう所が。普段はむしろ常識人なのに、僕たち六つ子に関しては同じレベルまで落ちてくるってどういうこと?二重人格なの?と声を大にして言いたい。
「今月はちょっと欲しいゲームがたくさんあって…」と頭を掻く彼女と、声高々に「三枚!」とか「じゃあ俺は四!」とオークションを始めている我が兄弟に頭を抱えた。


「チョロ松よ、口づけだからって甘く見ないほうがいいよ」
「というと?」
「口づけということは微量ながらトト子ちゃんの唾液がこのジュースには入ってるわけじゃん?唾液ってことはつまりトト子ちゃんのDNAだからね?」


名字さんのその言葉に「でぃ、でぃでぃでぃDNA!!?」と形容できないレベルで興奮しているしょうもない馬鹿共のおかげでオークションはどんどん値上がりしていく。こんな非人道的な行いが許されていいハズがないし、何よりもトト子ちゃんの気持ちを考えたらあいつらに悪用されてしまうのはかわいそうだ。うんやっぱり何に使うかわからない他の奴らに取られるよりも僕が手に入れてきちんと処分した方が一番いい気がしてきた。むしろそれしかないんじゃないか?名字さんもそれを望んでいるからこんなに僕に推して来るんじゃないか?


「二十!」
「チョロ松まいど〜」


にっこりと笑う彼女は誰がどう見てもどうしようもないクズなのだといろんな人にお伝えしておきたい。


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「僕思ったんだけどさ〜」
「何?トド松」
「そのペットボトルって名前ちゃんも口つけたんじゃないの?」
「えっ」


トト子ちゃんはみんなの憧れの女の子だからアレだけど、名字さんが口をつけた飲み物って何か妙に生々しい。それも彼女がDNAとか言うからである。いや別によく考えたら回し飲みとかすごいしてるから今更すぎる。もうこれから回し飲みを出来る気がしないんだけど。


「ねえチョロ松兄さん捨てるんなら僕にちょーだい」
「いやあげるわけないじゃん!?」


結局そのジュースを飲むか飲まないか決めかねていたら、一週間後に母さんに捨てられていた。僕の二十諭吉は排水口へと消えた。辛すぎる。