×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

かみさまとおれ


「なあ主よ、俺と一勝負しないか?」
「鶴丸さん君の目の前には膨大な資料と提出期限の迫ったレポートを抱えて三日は寝ていない主がいます。そんな俺に対して今君が発した言葉をもう一度頭で反復してみようか」
「俺と遊んでくれないか?」
「コイツ…」


鶴丸国永という男はつかみどころがない、飄々とした風みたいな男だと思う。全てをわかったうえでからかってくるあたり狡猾な一面も見えなくはないが、基本的には善良で穏やかなのでこういう冗談も笑い話に出来る。
俺が審神者になったのは三年前の話だ。
普通に大学生活を送っていた俺に一通の通知が来たのが全ての始まりだった。運悪く霊力というものが存在した俺宛に、これから審神者として歴史修正者と戦い、これからの未来と過去を守って頂きたいという知らせ。どんな宗教だよ、と笑っていた三日後に俺はもうこっちの世界にいたのだから、人権なんてものは存在しないのだろう。三年も経てば荒れ狂っていた精神もだいぶ落ち着いたが、根底は変わっていない。


「いくら早く帰りたいからと言っても根を詰めると本末転倒だぞ。少しは休んで俺ととらんぷでもしようじゃないか」
「ええ…だって今じゃ鶴丸俺より芸達者だもん。何そのトランプさばきマジシャンかよ」
「まじしゃん?」


パラパラと自身の手でトランプを意のままに操っている鶴丸は良く俺の世界の話を聞きたがった。刀剣男士は基本的には主の事を好いた者として顕現される。俺はこれを自分の霊力を分け与えた結果の弊害だと思っている。主と離れることを極端に嫌う者もいる中で、俺が自分の世界に帰りたいなんて呟きでもしたら大問題だと察した。最悪血を見ることになる怖い。
だから俺は帰りたい思いと政府への憎しみを胸の内に隠し、この三年間笑って過ごした。事実刀剣男士との生活は楽しくないと言えば嘘になるし、彼らが笑えば俺も自然に笑うくらいに親睦は深まっていた。そんな中で死にたいと思ったことが二回程ある。

一つ目は俺の初期刀である加州が、「主は俺を捨てないでね」と言った時。
二つ目は二年ノルマをこなせば帰らせると言った政府から期限延長の知らせが届いた時。

気が狂いそうになった俺をみんなのいい主として繋ぎとめてくれたのが鶴丸だった。俺は皆と違って近代的だから何でも話していいぞ、と俺に全てを吐露させてくれた。そのお陰で今日も俺は正気を保てている。


「一回だけだぞ、何やる?」
「じゃあばばぬきだな」
「二人で!?」


俺が勝負に勝ち、ぽつりと「もう少しだったのにな」と呟いた鶴丸に罰として団子を要求する。コイツのトランプ時のポーカーフェイスは様になっていて大層ムカつく。一応主の部屋なのに団子を寝っ転がりながら食べるのも完全に舐めてかかってきている。よしいいだろう戦争だ。

短刀達の笑い声が響く昼下がり。ここは居心地が良すぎて嫌になる。


----


「真名を知ってさえいればなあ」


ポツリと呟いた男は、闇夜なのにその風貌からか白く浮き上がっているように見える。軽い口ぶりから発された言葉は、意味を知っている者からすればとんでもないものである。
刀に神を降ろす事が出来る選ばれた人間を審神者という。そして神として顕現した刀剣男士は審神者と共に歴史修正者と戦う。その時に審神者は自分の名前を刀剣男士に教えるようなことはしない。政府が歴史修正者と同じくらいに問題視している神隠しを防ぐために最も有効な手段だからだ。刀剣男士が審神者を愛した結果、名を奪い、神として隠す。審神者と刀剣男士の関係は危ういものだと政府は知っていた。余計なことをしてくれる、まったくもって忌々しい。


「主の一番の理解者として傍にいて、まだ足りないのですか」
「ああ、鶴は嫉妬深く、強欲なのさ。きっと俺だけの主になるまでどこまでも縛り付けてしまうだろうなあ」


主はきっと自分が元の世界に帰りたいと願っていることを知っているのは俺だけだと思っているだろう。この本丸にいる全員が知っていることだ。霊力で繋がっている俺たちに隠し事なんて笑止千万。しかし俺に依存している主を見るのは最高に気分が高揚する。
俺たちが主を好いている理由を、生みの親だからでしかないと勘違いしている所を見ると、愚かで滑稽で、最高に愛おしい。男だから恋愛とかないから気楽でいいな、と笑った君へ、どれだけの欲情が混じった視線が送られていると思う?君は気付かないんだろう、俺たちに閉じ込められるまで。


「まあ名を知らずとも主を召し上げる方法なんていくらでもあるでしょう、鶴丸殿」
「そうだな、一期一振。”もう少し”さ」


所詮人の子達の浅知恵でしかないのだ、と神は笑った。