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何これ完全にデジャヴ


昔から運は悪かったと思う。それこそ無駄に悪い奴らに絡まれたり、それをヒーロー志望の正義感のある奴に助けてもらったり。まあ完全にデジャヴですねわかります。ヒーローという耳に慣れたワード、でもこの世界は前にいた世界じゃない。サイタマ氏やジェノス、ゾンビマンさんは何だかんだで俺を守ってくれていた。でも今回は死亡フラグしか俺には残されていない。

たくさんの個性がひしめくこの現代で、俺は目立たないようにひっそりと生きていく。


俺がこの世界に生まれた第五世代は、ほとんどの人間が個性という超能力を生まれながらにして持っている。生まれ持って得た個性でほとんどの人生が決まってしまうという最高に恐ろしい現代社会。いやまあ逆にそれはそれで人生に無駄な希望やら挫折やらを味わうことがないという長所もあるのか。それでも小さい頃からヒーローに憧れた人間が無個性だったり、個性がヒーローとして不向きだったりしてはたまったものではないと思う。
俺の従兄弟も自分の個性に悩まされている一人だった。


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俺の親戚には従兄弟の兄さんが一人いる。
俺のクソ親父とは違い、普通に結婚して普通に家庭を築いた普通の家だ。小さかった俺はそんな家族が羨ましかったんだろう、よくその家に入り浸っていた。兄さんはいつも優しくて、突然家に来た俺を「ゲームでもすっか」と手を引いてくれた。砂糖みたいな人だと思っていた。実の兄達よりも俺のことを理解してくれている。個性の話も一方的に聞いてくれてただ俺の頭を撫でていた兄さんは、少なくとも俺にとってはヒーローだった。


「焦凍をあの家に近付かせるな」


その小さな幸せもこの親父の一言で消えてしまったが。

次に兄さんの家に行ったら家は売却されていた。すぐに俺のせいだということがわかった。俺の弱さが母さんだけじゃなくて他の幸せな家も傷つけてしまう。生まれてきたことを後悔したのは二度目だった。
そういえば俺は兄さんの個性も何も知らないな、と気付いたのはもう少し後の話。俺はいつだって自分のことしか考えていない。



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真面目で天才でイケメンという人生イージーモードの従兄弟がよくわからない勘違いに身を焦がしていたらしいその頃。
いい年して未だにラブラブな父さんと母さんがワイハに転勤になってから早10年程。当然のように付いていくものだと思われていた俺、まさかの放置。学校のこともあるだろうから〜と親戚の家に預けられた一人息子とか倫理的にどうなんだろうか。グレなかったのが奇跡じゃないか?俺が精神年齢植物で助かったなと言いたい。
親戚の家に引っ越すまえは小さくて優秀だった従兄弟が俺に懐いていてくれたっけなあ…。俺、昔っから運が悪くてさ。学校に行くときに悪い奴らに目をつけられるなんて超日常茶飯事だったのね。神様はいい加減に俺をいじめるのやめてくれないかな。ヴィランを呼び寄せる個性なの?ってレベルで色々巻き込まれて草も生えない。そろそろ死ぬ。
そんなこんなで一度悪質な奴に追いかけられていたら当時一桁歳の従兄弟にエンカウントし、ついでに助けてもらったというこの悲しい現実。個性はまんま人生のパラメータに起因していく。それに気付いたのもその頃。


「でもいくら優秀でもあの親はなー」


俺の叔父にあたる人物は、ヒーロー界でナンバー2というとんでもない化け物だ。そりゃあ自分の息子に期待しちゃうのもまあわかる。ありえないくらい強い個性だからこそ余計に。
ヒーローになりたくなければ普通に働くしかないこの世界で、俺は資格をとって就職を決めた。いわゆる学校の先生である。前の職場は公立でのんびりした学校で大好きだった。生徒もやんちゃなのはごく少数で大体は皆先生の言うことを聞いてくれるいい子ばっかりだった。移動先を開示して目が飛び出たけどな。

「ヒーロー教育の最高峰、雄英高校」

何で?
意味がわからなくて10度見はした。校長も意味がわかっていないみたいで困惑していた。何が「名字くんのことをどうしても引き抜きたいと先方から言われて…」なんだクソが。弱い公立は名門には逆らえない。やってられませんなあ。

ここですっかり性格が捻じ曲がった従兄弟と再会し(デジャヴ)俺のヴィラン引き寄せ体質が遺憾なく発揮され(デジャヴ)色々死にかけたり(デジャヴ)ストレスで胃に穴が開きかけたりする(デジャヴ)なんて今の俺には想像もしていなかったのであった。神を恨む。