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コンポタが死因


バイト帰りの寒い日、温まろうとコンポタ片手に歩いていたのが悪かったのだろうか。飲み終わった缶を落としてしまい、よっこらしょと拾ったのが運の尽き。視線を上げると眩しい光が飛び込んできて、あ、これ、車だと思った頃には吹っ飛んでいた。ゴロンゴロン転がりながら海外の映画みたいだなと呑気に考えていた私。能天気にも程がある。最後に視界に捉えたのは悲しいくらいひしゃげたコンポタの缶で、お前なんか二度と飲まんからなと誓ったところで意識が飛んだ。病院代が怖いなあと、この時は思っていました。


「ようこそ地獄へ」
「…」
「ああほら鬼灯くん。やっぱり本人まだ混乱してるんだからそんな藪から棒にしちゃ駄目だよ」
「黙れ。人の子一人に相手している時間的余裕が私には無いんですよ。私には」
「何で二回言ったの…あ、ごめんね混乱させちゃって。僕は閻魔大王だよ」
「うそつけ」
「バッサリ!?え!何僕そんなに威厳ない!?」


にこにこ人の良さそうな笑顔を浮かべる巨大な人が閻魔大王とか、我ながら頭おかしい夢を見てるなと客観的に判断する。むしろ隣にいるつり目の額に角が生えている男の人の方が閻魔大王っぽいと思うんだけど。雰囲気とか背中に阿修羅を背負っているみたいですし。


「夢だと思ってるんでしょうがこれは現実です。証拠にほら」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!ちぎれる!!!」


抓るとかそういうレベルじゃない頬への残虐な仕打ちに物理的に涙が止まらない。これ完全にちぎりに来ていますよねやめてください。まだ頬がついているか恐る恐る確認するとなんとか無事だったので泣きそうになった。何だこの人たちは。


「単刀直入に言います。名字名前さん、貴方は先程お亡くなりになりました。死因は車にはねられたことによる事故死です」
「ちょ、待っ」
「待ちません。本来はちゃんとした形式を通って天国行きか地獄行きか決めるのですが、貴方はちょっと特例として地獄で働いてもらいます」
「は……?」
「鬼の子ばかりの地獄で人の子の幽霊がやっていけるとは思えないけど……」
「黙れ無能!!」


無慈悲に閻魔大王(仮)が金棒でぶん殴られているのを見てこの人に逆らったらああなるんだな、と即座に理解した。あんなの当たったら確実に死ぬ。もう死んでいるらしいけども。自分のおかれた状況が嫌でも情報として脳みそに入ってきて目眩がする。


「特例とは…どういう…ことですか……」


聞きたいことはたくさんあるのに絞り出せた言葉はこれだけというなんとも間抜けっぷりに我ながら失笑した。喉今めっちゃカラカラだわ。
もしここが本当に閻魔大王のいる場所だとしたら、天国に行って転生〜という可能性だってあったのではないだろうか。自分が本当に死んでいることが前提だけど。まだ死んだという実感すらない私だけど、何となく車にひかれる!と思った記憶はあるので何とも言えない。いい年こいて「私は死んでない!」と大声を出して暴れるなんて恥ずかしくて出来ないし…。日本人だもの…。


「……まあ、そこは追々お話しますよ」
「鬼灯くんの職権乱用だよホントにもう。二度目はないからね!」
「それ以上言ったら舌を抜いてひき肉にします」


目の前で本当に舌を掴みながら行われているコントをぼーっと眺めながら、自分の今後の行く末を見ているようで目頭が熱くなった。心配しなくてもちゃんとお給料は出しますよ、とかここの役人になれるなんて地獄だと相当のエリートですよ、とかよくわからないフォローを入れてくる鬼灯さんに愛想笑いを返す。神も仏もないな。



当初の予想通り、圧倒的に容赦ない合理主義上司と意味のわからない仕事に死にそうになる私ですがなんとか適応しようと頑張っています。なんで私だけここで働いているんだろうと地獄や天国への審判をくだされている元人間たちを見てつくづく思いますが、頑なに教えてもらえないので諦めました。最近死んだような顔をしているからか鬼の皆さんや動物たちに心配されます。そう思うなら私を驚かして反応を見て楽しむのをやめてください。平和に生きたいです。あ、もう死んでるか。ははは(棒)。