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俺氏、ハンターの世界に行くの巻その2

地下に向かうエレベーターの中、これは本格的にヤバイやつなんじゃないかと気付いたのはついさっきである。

キルアからのまさかの拉致という暴挙を受けた俺は、今回キルアが受けるハンター試験の内容を半分腐っている脳内から引っ張り出してみた。よく考えてみて欲しい。俺さ、一次試験から詰んでいる。何時間も走ったり階段をのぼったりする苦行なんてたとえ一千万貰ったって断るレベルの話だ。つまり俺わざわざ受けたって一次試験でサヨナラバイバイって事なわけなんですよ。故に余計な時間を使わず帰りたいんだが、問題はキルアに何と説明するかである。まさか今から受ける試験の内容を知っているとも言えないし、この時点で詰んでいるどうしよう。


「キルアくんもし体力勝負とかだったら俺帰るよ」
「じゃあこのスケボーに乗れば?」


半笑いで紐つけて引っ張ってやろうかと言ってくるキルアくん本当に反抗期すぎませんか。その時はお願いしますよと返す俺も俺だが。プライドが来い。

それにしても人が多すぎて息苦しいんだけどここ換気とかしてるんですか。地下だからしてるわけないですねわかります。結果的に気持ち悪くなってきた。俺、普段は敷地面積と人の比率がおかしすぎる場所に住んでいるゆとり仕様だからなあ、と壁に背中を付けて膝を抱えた。人口面積にするとゾルディック家ってどんなもんなんだろうか。執事さん達も合わせれば結構いくのかな。
家から出た自由が嬉しいのかすたすたと遊びに行ったキルアを横目に、今なら逃げれるんじゃないかと邪なことを考えたのが悪かったのだろうか。変な音が頭上から聞こえると思って見上げたのが運の尽きだった。


「カタカタカタ」
「…!?、あ、イルm」


顔面針まみれの長身の男が目の前にいたら誰だってビビると思う。俺、ちょっと泣きそうになったもんな。一瞬遅れて凝した俺の目に映ったのはよく見知ったイルミだった時の微妙な気持ちに名前を付けたい。お前のセンスどうなってんの?家庭環境が生み出したセンスなの?
シー、と俺の口元を自分の指で塞ぐ我が弟の指元には念字で“俺がいることはキルアに秘密にして”と書かれていた。


「ま、まあわかった。でも俺途中で消えると思うからキルアのことよろしくな」
「カタカタカタ」


念使えばいけるでしょ?と簡単に言うお前の血は何色だ。どれだけ反動がきついと思っているんだ。念能力の中身を考えるのが面倒だった俺の能力は単純明快。極端に逃げることに特化した能力。この世界で生きるためには力よりも逃げ足に尽きるなと考えた俺は間違っていない。
確かに能力を使えば一次試験は突破できるかもしれないが、逃げる以外で能力使うと反動がきついのである。それは勘弁して欲しい。


「ナマエ、これ飲む?」
「…それ誰からもらってきた?」
「あそこのオッサン」


両手いっぱいにジュースを持って帰還したキルアに遠い目を向ける。それ俺の記憶が正しければ下剤たっぷりジュースだろ?いかにも怪しいオッサンが配っているものを飲むとか親の顔が見たいんだが。12歳にして猛毒も電気も拷問も効かない体になっているキルアからすればこんな下剤なんかあってもないようなもんなんだろうな。


「えっ、お前こんな軽い下剤も駄目なのかよ!」
「基本的に俺一般人だということを忘れずに生きていこうか」
「わかってるっつーの!だから俺から離れるなよなー」
「ぷらっと出かけたのお前じゃん理不尽すぎる」


何か俺と似たような年のやついてさー!と元気に話すキルアくんは年相応でかわいらしいのが腹立つ。話しかけられなかった辺りもコミュ障爆発しているね俺と一緒だね。あと突っ込みたくないからスルーしてたけどそれ絶対主人公じゃん?ゴから始まってンで終わる髪の毛が重力に逆らっている系男の子じゃん?


「始まっちゃうよ…」


俺が持久走とシャトルランが始まる直前特有のお腹の痛みを抱えて苦しんでいる中、俺の中での危険人物ナンバーワンであるヒソなんちゃらさんとイルミが牽制しあっていたなんて知る由もなかったのであった。俺は青い果実にはなれないのでエンカウントはなるべくというか全力で避けていきたい所存。ああ、お腹痛い。