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うちの翔くんが可愛すぎて辛い


「名前くん、今日一限言ってたやろ。はよ起きな遅刻やで」


俺の朝はいとこの声で始まる。
全く意味を成さない目覚まし時計であり、ライフラインのスマホが軽快にゲームBGMを鳴らす。電話口から聞こえてくる翔くんの声は今日も今日とて眠気の欠片も感じさせない。対して俺は当然パジャマ姿だし布団の中だ。そんな俺の年齢、プライスレス。いい年こいた大学生のくせに高校一年生であるいとこに起こしてもらう毎日ですわ。昨日は遅くまで飲み会と言う名の合コンをしていたせいで余計に頭が痛い。


「うん…起きる…」
「だからこっちの大学にせえ言うたやろ。毎日毎日電話で起こすボクの身にもなって欲しいわ」
「すまんすまん」


とある事情で俺の家の子になった翔くんの朝は早い。毎回毎回起こしてもらうのも悪いなと思ってはいるのだが、どうせ朝練という名目で自転車を回すのだから問題ないと言ってくれる翔くんマジ天使。口下手で引っ込み思案な翔くんの小さい時は俺の後ろをおどおど付いてきたものだが、今はもう察して欲しい。縦に成長しすぎじゃないですかねえ…。いつからか兄さん呼びから名前呼びに変わってしまったし、これが兄離れ…か…と悲しみに暮れている。
何はともあれ翔くんがいなかったら俺は単位をいくつ落としていたかわからないので感謝しかない本当にありがとう。


「今日もありがと。翔くんも怪我しないようにな」
「……今週、」
「ん?」
「今週、大会、あんのや。そっちで」
「え、まじで?絶対見に行くわ差し入れ何がいい?というか見に行ってもいい?」
「別に構わんし差し入れもいらん」


通話終了。
細かい場所や時間全く聞いてないんですけど…ググれって事かな…と思ったら数分後に内容をまとめたメールをくれた翔くんが可愛すぎて辛い。こんなに可愛かったらモテモテなんじゃないの兄さんに紹介して。切実に。
程よく何でもそこそこ出来た俺にとって自転車がとことん出来る翔くんは憧れの対象でもある。そこそこ出来るのはなんの長所でも無いし、身長が俺の三分の二くらいしか無かった頃(ここ重要)から自転車に並々ならぬ努力を注いでいた彼の大会は楽しみじゃないハズがない。どんなにレポートが山になっていても見に行くわ白目。

おばさんが亡くなってから狂ったようにペダルを回し続けた彼を笑った奴は全員しばき倒した若かりし俺…年上という権限をフルに使っていて恐ろしい。ついでに今なら絶対に勝てない。

どうせ行くならルールとか勉強しようとパソコンを開いた俺に誰かレポートしろと言ってあげてください。



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「名前さん!」
「おお、真波くん」
「今日も惣菜なんですか?体に悪いですよ?」
「一人暮らしの大学生はカップラと半額の惣菜が生きる糧なんですう」


今日の晩御飯を調達し、ぷらぷらとマイホームに帰っていた俺と出会った健全な男子高校生である真波山岳くん。見たまんま翔くんと一緒で自転車競技部なんだろうな、と思う。だっていっつも自転車乗ってるし、むしろ自転車しか乗ってないのでは?という緩さ。そういえば箱根学園って全国制覇してる学校なんだっけ?よくわからないがそういう垂れ幕を見たことがあるようなないような。


「今度大会あるんだっけ?」
「ハイ、そうですよー。もしかして見に来るんです?」
「親戚の子が出るみたいだから行きたいなとは思ってる」
「わあ、楽しみですね」


にっこり人の良さそうな顔を浮かべているこの少年がまさか強豪校のレギュラーでまさか羽が生えてくるという人外でまさかあの意味わからないくらい速い翔くんといい勝負をするだなんて今の俺には何もわかっていなかったのだった…。