学パロ










「ちょっとあの、先輩なに、を・・・」
「うるせェ」

私の後ろの勉強机がガタンと音を鳴らす。
使われていない教室独特の、埃のつんとしたにおい。
それから、これは絵の具だろうか。
どこかで嗅いだことのあるような匂いが充満したこの空き教室は、優等生の先輩がいつもサボりに使っている場所だった。

魔が差したからって、呼び出されて簡単に迎えになんて来るんじゃなかった。
先輩と二人きりになれるかも、なんて馬鹿な考えもいいところだ。

「せんぱ、」

教室の入口からちょうど反対側、中庭に面した窓の下に座り込んでいた先輩にちょいちょいと呼ばれ、迂闊にも誘いに乗ってしまった。
息を吐くように短く声を出して、彼は私の言葉を制した。
シー、と口元に指を立てる姿を視界に入れてしまい、固まる。

「目ェ閉じろ」
「うう」

決して障ることなく耳元で響く声。
先輩は、分かっていてやっているのだろうか。
きっとそうだ、学内で先輩が目立たなかったことなんて一日だってないのだから。

そしていつしかその言葉に従って瞳を閉じている私がいる。
一体、何をしにきたんだ私は。

私の唇に、先輩の唇が重なる気配。
暇を持て余した先輩はたまに私を呼び出してはこういったスキンシップをする。
私と先輩の関係を考えれば、完全に過度なのだが。

何度か軽く触れた後、先輩が愉快に笑う声が聞こえた。

「ガチガチだな」
「いつもいつも何のつもりですか・・・ロー先輩」

急に、今しがたしていたことへの背徳感が押し寄せる。
当たり前だがここは学校で、私たちは恋人じゃない。
私の、片思いだった。

「さァな」

別に舞い上がったりはしない。私の他に誰が居るかなんて知らないし、多分何人いても驚きはしないだろう。
暇つぶしにされているとわかっている。
が、いつも通りの先輩に対して、強ばった私の体は簡単には動かない。

「やめてやろうか」
「・・・・・・」
「名前が自分からおれを振り解けるなら」

私が自分のことを好きなのだと先輩は気づいている。
けれどそれを知っていて、この現状から逃げ出せないでいる私が一番最低だ。あまつさえこのままでもいいかなとも思う。
自分の意地汚さにはほとほと愛想が尽きてしまった。

「・・・最悪です」
「素直なのはいいことじゃねえか」
「先輩を蹴り上げて逃げろってことですか」

おれを?おまえが?
そう言って彼は唇の端を上げる。
完全に無理だってわかっている顔だ。
間違いないので何も言えないのだけれど。

「しませんよそんなこと・・・」
「だがそんなことになったら地の果てまで追いかけて逃がさねえ自信がある」
「はあ・・・まあ性格上なんとなく理解はできます」
「そうじゃねえ」
「え?」

なんとなしに聞き返すと、さっきまでの笑顔を消した端正な顔が目の前にあった。
だから、私はこの顔に弱いのだ。
最初に見たのは、この学校に入学した時に見た、スピーチをする先輩だったから。

「ここまでさせておいて分からねえか」
「なん・・・え?」

一瞬だけあたりを静寂が包んで、どこかの教室から聞こえてくる生徒の声がとても近くに感じられた。
頭の中で私は自分に都合よく解釈しすぎてはいないだろうか?
再び重ねられた唇によって余計に分からなくなった。

なんなんですかそれ。どういう意味なんですか先輩。
ぐるぐると思考が渦巻く中私の顔も相当面白いことになっていたようで、唇を解放してしばらく私のことを黙って観察していた先輩は吹き出していた。
人の顔を見て笑うなんて、などと攻める余裕は私にはない。

「考える時間をやるよ」

その言葉の真意を尋ねる前に、午後の授業開始の鐘が鳴り始めた。
なるほどそれは優等生キャラを演じてきた私にとって初めての授業のボイコットへの誘いだ。
大仰なチャイムの音が規則的に流れていく。
教室に残してきた教科書のことや隣の席の友人のこと。次の時間の授業のこと。あとで教師に注意されること。
いろいろ頭に浮かんだけれど、この場所から動いてしまうことのほうがもったいないように感じた。
長い長い余韻を残してチャイムが終わり、再び教室に静寂。
これでこの空き教室に誰かが来る可能性も今まで以上になくなった。

「時間切れ」
「後輩を悪の道に誘うとは最低な先輩ですね」
「勘違いするな。お前が選んだんだ」
「そうですね」

今度は私の方から口付ける。
予測していなかったのか、いつもよりも反応が鈍いのがおかしかった。







201805

誰が為に鐘は鳴る

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