「……あの、名前」
「おだまり」
思っていたよりも広かった背中から、しゅん、と効果音が聞こえた。
私の腕の中に収まりきらない体は、いつかの面影もなく私よりも大きくてしっかりしている。それなのにどこか昔よりもふわふわだと思うのは、彼の纏う空気のせいだろうか。
私の言い放った言葉にうなだれた頭の、バンダナから反乱を起こした髪の毛がかわいい。
「…そろそろ離してください!」
「やだあ」
「なんで、男のぼくに抱き着いてるんですか!」
もちろんかわいいからなんだけどなあ。けど、肩越しに唇を尖らせるコビーくんにそんなこといったら確実に怒られる。
しばし逡巡して、ええいこれでいいやと思いついた言葉を口に出す。
「かっこいいから」
「な……っ」
ぱ、と振り向いた顔は確かに傷だらけで、うん、確かにカッコイイ。
みるみる下がる眉と瞬時に赤くなる頬のせいでそれも台無し。台無しってわけでは……ないけど?
はた、と気づいたのはその顔の近さで、いつも先に慌てるのはコビーくんの方だから、私は照れるタイミングを逃してしまう。
「あ、わ、ごめんなさい!」
「女の子みたいな声出さないでよかっこいいコビーくん」
「だっ、だって……」
小さなプライドが邪魔をするのか、何も言い返せないコビーくんの首筋にぐりぐりと額を押し付けた。
一体この子は私をどうしたいんだ。
「くすぐったいよ……」
「ごめん、ごめん」
首筋を押さえて更にうつむく彼。
なるほど首は弱いのか。それはいいことを聞いた。
たしかに弱そうな顔してる。
「今絶対いけないこと考えてるでしょ……」
「うふふ」
ジト目で恐る恐る振り返るコビーくんの幼稚な台詞回しがまた堪らない。
かわいい。かわいいかわいい。
「良からぬこと考えてますよ」
「うわあっ!」
「くすぐられたくなければおとなしく抱かれてなさい!」
「名前が抱いてくるのがくすぐったいんです!」
必死に抵抗するけれど、海賊相手に容赦のないこの手が、私相手に力を出せないのも知ってるし。
私って本当幸せ者。
「それになんかいろいろむずむずするし」
「・・・・・・ほう。それはどこかな?」
「あっ!名前、ばか……!」
「かーわいいなあコビーくんは!」
「どこ触って、ひああっ!」
ああ私、どんどん親父になっていく。
それもこれも、全部このピンクの海兵さんが悪いのだ。
20180418
可愛い君
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