目に入る光が眩しくて、体をひねった。
懐かしい匂い。畳だ。
薄く目を開けると、机の足が目の前にあった。

(・・・ここは?)

ぼんやりとする頭で考える。
なんだか思考が定まらない。
視界もぼやけて、ここがどこなのかすぐに分かりそうもなかった。

なんだかとても暑い。
今は確かに真夏だからそれもしょうがないのだろうけれど。
普段の暑さとは何かが違う。・・・体が、熱い。

そう自覚して手を動かそうとした時、ひんやりとしたそれに気がついた。

「っ・・・」

かしゃんと乾いた音を放って後ろ手に私の自由を奪っているのは、手錠。
なんで、こんなものが?
おもちゃ、ではないずっしりとした金属の感触。
それは熱くなる体とは対照的に冷たく、異質なもののように思える。

どうして?
こんなもの、私も含めて普通の人が持ってるわけない。
それじゃあまるで、どこかのドラマみたい。

「・・・あ、石田、さん?」

荒くなる息の中、ふと頭に浮かんだのはあの陽気な警官。
ああ、そういえばここに居る前に最後にいたのは、商店街の居酒屋で
確かそこに石田さんもやってきて・・・一緒に、飲んだ、ような。

だとすると私が何かやったのだろうか?
いや、彼のことだ。あんな場面で私に手錠をかけるわけがない、けれど。

「は、ぁ・・・」

よくよく見回すと、どこかの家の和室のように見えるこの部屋も、まるで生活感がない。
狭い部屋の中央に四角い小さな卓袱台と、隅っこにブラウン管の小さいテレビ。
それだけだ。
この風景は、どこかで見たことがある。それがどこだったか・・・。

「んっ・・・」

思い出す前に、自分の体の異変に感覚が集中してしまった。
意識が覚醒したからか、さっきよりもおかしくなっている。
熱い、けれど、それに加えて手足のしびれるような感覚。
手錠のついている手首も、それに触れる度に体がじんと疼く。

無意識のうちに、体が楽な方にへと動く。
そう、楽になりたい、それなのに。
私の腕は使い物にならない。

「あ、ぃ、石田さ・・・」

思わず、思い人の名前を呼ぶ。
彼が近くにいるなら、呼んだら助けてくれるかもしれない。
当然のように、あたりはしんと静まり返っていたけれど。

震える足に懸命に力を入れて、目の前にあった卓袱台に寄りかかりながら立ち上がろうともがく。
けれど私の今の体ではそれも辛くて、思わずそのまま机に突っ伏してしまった。
一体私の体はどうしてしまったのだろう?なにかの、病気だろうか?

いろいろな考えが頭をよぎり、去っていく。
なんだかひどく疲れる。そのまま、私は目を閉じた。
ひんやりとした木の感触が心地いい。

「あっ・・・!?」

その時、偶然に触れたそこが、ぞくりと私の体に快感を走らせる。
どうして、こんなことで。
しかしぼうっとする頭で、考えることを放棄するのはさほど難しくなかった。

息が荒いのが、自分でもわかった。

机の端に、下半身を擦りつける。
ジーンズの上からでもひどい位の快感が背筋を駆け上がって喉を震わせる。
昂ぶった体が、漸くそれを開放できる手段を見つけたようだ。

けれど、たりない。
操られるように、辺りを見回す。
私の足は、無意識のうちに角の方へと向かう。
早くキモチヨクなりたい。

膝立ちになっている両足は、畳で擦られた痛みも感じない。

「ひぁあ!あ、っあぁ」

ゆるゆると動く腰が止まらない。
軽い台は、私が動くたびに小さく逃げるように動く。
その刺激も、鋭敏な私の体は快感と感じてさらに動きが強くなる。

下着と自身が擦れて、水音が耳を犯す。
過敏になった私の感覚は、大好きな匂いをみつけた。

「あ・・・せ、ふく・・・?」

視点の定まらない瞳で捉えたのは、無造作に机の端にかけられていた、警察官の制服。
ぞくりとした。
頭で何かを考える前に、私はその制服を顔と肘でたぐり寄せる。
大好きな、石田さんの匂い。

机の角に、制服の裾の方が意図せずに引っかかる。
イケナイことをしていると分かっていた、けれど、私ではもう止めることはできないのもわかっていた。

「ふ、ぅん・・・ぁ、石田さん・・・っ」

制服の首元に顔を埋めて、ごり、と机で下半身を強く擦る。
固くて、痛い。
でもそれがどうしようもなくキモチイイ。

さっきまでとは比べ物にならないくらいの快感。
石田さん、石田さん、石田さんの匂い。
頭がくらくらするほどの雄の匂い。
思わず襟の端を口に含む。布と、若干の汗の味。
ああ、唾液が染み込んでいく。あとできっと怒られる。
止まらない。欲望も、カラダも。

「あ、ぁあ!石田さっ・・・も、イっ・・・!」
「なあにしてるの?」
「っ・・・!!」

耳元に、熱い吐息。
欲を含んだ声に、私の体はびくんと硬直する。
イカせて、もらえなかった。一番に思ったのはそれだった。

「ね、名前ちゃん?」
「あ・・・、いし、だ、さん」

のろのろと顔を上げて振り返ると、そこにはうっすらと笑みを浮かべる石田さんの姿。
羞恥と、後悔で顔に熱が集まるのがわかった。

「ねえそれ、そんなに気持ちいい?」

彼は、顎をしゃくって私の下で皺になっている制服を示す。

「ぁ・・・」

見られて、た。
恥ずかしさと、罪悪感がどっと押し寄せる。

「制服、これじゃあ使い物にならないなぁ」

口の端を上げながら、彼は私の口元に手を伸ばす。
その手の冷たさに、ぞくりとした。

「こんなに涎垂らしちゃってさー。そんなに机が好き?」

おかしそうに彼は笑う。
その低い声の、掌から伝わった振動に鼓膜が震えて、刺激になる。

「いいこと教えてあげよっか」

彼の顔はもう笑っていない。

「その制服、俺の同僚のだよ」
「え・・・」

私の目が、驚きで見開かれる。
だって、そんな。じゃあ、わたしは。

「せっかく俺が助けに来たのに、君は全く知らない男の匂いで気持ちよくなってたんだよ?」

どうしようか?
彼は私の耳に唇を押し付けて低く囁いた。
体が小さく震えはじめる。

「あーあ。泣いちゃった?」
「ぅ、あ・・・ごめんなさい、ごめ、石田さん、ごめ、なさい・・・っ」
「んー、どうしようかなぁ」

彼はめんどくさそうに、私を横目で見る。
いやだ、そんな目で見ないで欲しい。
嫌わないで、石田さん。
その一心で、彼に縋る。

「なんでも、する、からぁ・・・!」
「・・・なんでも、か」

一瞬、彼の瞳に欲望の灯がちろりと灯る。

「じゃ、舐めて」
「え・・・」
「君を見てたらさ、わかる?俺の、舐めて、咥えて?」

ゴクリと喉が鳴る。
まるで、待ち望んでいたみたいで浅ましい。


気がついたら、私は彼の取り出したそれに懸命に舌を這わせていた。

「はは、名前ちゃん犬みたい」
「ふ、ぅく、っ」
「あーもー、唾液塗れでぶっさいくな顔」

彼が頭上からありとあらゆる罵声を浴びせてくる。
けれど、その所々で彼が息を呑む間を感じて、私はそれだけで嬉しくなった。

「っ・・・下手くそ・・・もっと奥まで入れてよ・・・」
「んぶ・・・っ!ぁ、か・・・はっ」
「そーだよ、やれば、できるじゃん」

彼が私の頭を押さえつけて、喉の奥に硬くなったそれを押し付ける。
激しい嘔吐感、けれど、彼が気持ちよくなるのなら。

「ん、も、いい」

突然、彼は私の髪を引っ張って自身から離す。
いきなりのことで、私は頭の整理ができずにただただ新鮮な空気を吸い込む。

「はは、ひどい顔。・・・最初は中に出してあげる」
「ぁ・・・」

待ち望んだ言葉に、私の下半身がずくりと反応する。
彼の一言一句にいちいち反応してしまう体が憎らしい。
私のジーンズを器用に脱がせた彼は、それでも中心には触れないようにしているようだった。

「石田、さん・・・っも、私・・・」
「なに?」
「・・・早く、ぅ」
「もう我慢できないの?」

意地の悪いわかりきっている質問に、私はためらいがちに頷く。
そうあからさまに聞かれると、まるで私一人が盛っているみたいだ。

「じゃあお願いしないとね?」

カシャリとその存在と主張するような手錠の音を聞きながら、にっこりと私をなだめすかすように彼は微笑む。
どこか余裕のない今日初めての彼の笑顔に、私は見惚れてしまう。

「でも、なんて・・・」
「それくらい自分で考えられるでしょ?」

ふんわりと頭を撫でられながら、じわと涙がにじむのがわかった。
ああ早くしないとまた怒られてしまうのだろうと思う。

彼は私を向かい合わせで膝の上に座らせながら、ゆっくりと腰を撫でている。
小さな快感が、拷問のように続けられると思うと恐怖を感じる。そんな風に、触れないで欲しい。
もっと気持ちいいところを触って欲しい。

目線が幾分か高くなった分、彼が私を見上げてくる。
その黒髪が、さらりと横に流れるのを見ながら、口を開く。

「は・・・石田さんの、で・・・気持ちよくなりた、から・・・」
「ん?」
「っ・・・お願・・・!早く、触って、入れて欲し・・・っお願い、からぁ・・・!」
「・・・あはは、名前ちゃんってば、淫乱っ・・・!」

そう言いながら、私と同じくらい余裕のない声で笑いながら、私の下着の中に手を突っ込んでくる。
今日初めてそこが空気にさらされて、どれだけはしたない液を溢れさせているのかを自覚した。
石田さんの広角が色っぽく上がる。まるで獲物を見つけた肉食動物みたいだ。
さっきまで綺麗だったはずの石田さんの指が、ぬるりとした感触とともにそこを撫で上げていく。

「っゃああ、あっ、んん!」
「うっわぁ、すっごいどろどろ・・・。なんでこんなになってんの?」
「そん、なっ、石田さん、が、あっ、やぁ・・・!」
「俺のせい?それともその制服のおかげ?」

石田さんの冷たい言葉に、忘れかけていた後悔がじわりと広がる。
やっぱり、怒ってるんだ。

「ちがう、の・・・っ!なんか、ぁ、体が、ん・・・おかしくて・・・おきたら・・・は、ぁ」
「え?なに?名前ちゃんって寝てる時もやらしいこと考えてるんだ?」
「きゃ、う、ん、んんっ」

ぬるぬると勃起したそこを執拗に擦られて、意識が飛びそうだ。
彼の言葉に返事もできずに、その首元に顔を埋める。
汗の臭いと、大好きな石田さんの匂い。
それを感じた瞬間、急に体が高みへと上り詰めていく。

「あっ、あっ!石田さんっ!石田さ、も、イっちゃ、ぅ!」
「これくらいで?だめだよ?イったらそこでやめるから」
「あっ!?そん、な・・・っ!あぁ、だめ、そこっん!」

抵抗しようと両手を伸ばしかけるが、乾いた金属の音にそういえばそうだったと思い出す。
体をひこうとするけれど、石田さんのもう一方の手が腰を掴んではなしてくれない。

そこでやめるから、そう言われて私は必死に懇願するけれど、
彼の指は緩まるどころか、音を立ててその一点だけを扱き始める。

「やぁああ!石田さん、ごめ、ごめんなさ、もう、ああっい!っちゃ、ぁ、あぁ――っ!!」

思わず、服の上から彼の肩口に歯を立てる。
びちゃ、と音を立てて絶頂を迎えた体が痙攣する。
だらし無い声が、唇の端から漏れる。
ああ、こっちの服も汚してしまった、と絶頂の余韻が色濃く残る頭で思った。

「・・・名前」
「っ・・・」

今日初めて名前だけで呼ばれて、面白いくらいに肩が跳ねる。
ああ、怒られる。
恐怖と、期待。
けれど、頭を撫でる石田さんの手は、それと反し優しくて、あたたかい。

緊張の糸が途切れて、私は安心して目を閉じる。
それと同時に強烈な睡魔。
寝てはいけないと分かってはいたけれど、本能には抗えず、私の意識はそのまま微睡みの中に沈んでいった。







20130823
多分駐在所の仮眠室的な

混濁

prev index next
P/M!


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -