※社会人設定 最近疲れがどっとくるようになった。
例えば学生時代は、平気で寝ないで遊べた。大学終わりにバイト6連勤しても尚且つ唯一の休みの日さえ遊びに行けた。
休みなしでも苦にはならず、体力底なしなんじゃないかってくらい、1日満喫しまくってた。
「ただいまー。」
だが今は疲れを感じるようになった。悲しいことに年を取ってきたんだと思う。そうは言っても周りからしてみればまだ小僧の粋なのだが、生意気にも学生を小僧と言える年齢にまでは達している。
今が1番いい時期だと思う。大きな仕事に参加させてもらえてる。ここの頑張り次第で俺の人生も変わると思う。恋愛だってそうだ。鈴音とは、高校からだ。高3の夏から付き合いだした。大学の時は遠距離だったけれど、社会人になってから同棲を始めた。もう、2年半。大きな喧嘩もなく、自分で言うのもなんだが、円満だ。多分1番充実してる時期だ。
「おかえりなさい。」
残業続きで、日付が変わる少し前ぐらいに帰って来ても、鈴音は食事もとらずに待っていてくれる。
「ご飯温めるね。」
「おー。さんきゅー。」
いいえー、と大して気にしたそぶりも見せずに鈴音は台所に消えていく。自宅というものは無条件に気分を楽にさせてくれる。身体に疲れがのしかかってくる。キビキビと動いていたお昼が嘘のように、足取りは重く、背中は丸くなっていく。
今すぐにでもベッドに飛び込んで眠りにつきたい。
それでもご飯も食べずに帰りを待っていた彼女のことを思うと、眠気も吹っ飛ぶから不思議だ。背広を脱ぎ、リビングへと向かった。
「いただきます」
鈴音だって、決して暇なわけではない。俺と同じで朝から仕事をして、ヘトヘトになって帰路につく。それなのに、何も言わずに夕飯を準備してくれる。
一人暮らしをしていた時は、家に帰っても誰もいなくて、それを寂しく感じたりもした。
今は必ず鈴音がいて、嬉しくもあり、申し訳なくも感じる。
友人宅に泊まりにいくこともなく、遅すぎない時間には帰ってくる。
「ありがとな、鈴音。」
「ん?別にお礼を言われることでもないよ。私が貴大君と一緒にご飯食べたいだけだから。」
嫌な顔一つせず、いつも笑顔を向けてくれる。
「・・・いいっ」
「え?なに?」
「い、いやっ、べつに。」
本当によくできた彼女なんだよこれが、いやまじで。高校で料理部入ってたから腕はもちろんいいんだけどさ。それ生かしてパティシエになっちゃったりして、たまに作ってくれるシュークリームがこれまた美味で。
いい歳してまだ甘党男子?とか思われるかもしれないけど、それでもいいくらい美味しいもの作ってくれるの。しかも貴大君だけだよ、とか彼氏の特権にもほどがある。
性格もおっとり系で、これまた可愛い顔してんのね?いや、フィルターかかってるとかそんなんじゃねーし。付き合う前からすげーモテてたもんな。それが、まさか付き合えたなんて、今でもびっくりだわ。
女子はみんな及川に骨抜きにされると思ってたから、告白された時は心臓出るかと思った。しばらく実感しなくて、逆に距離置いたし。
そんな彼女とももう8年。
となると考えることはひとつ。
結婚だ。
最初はこんなに続くと思っていなかった。遠距離になって、自然消滅だろうなって。でもそんなことなくて。帰省すれば必ず会ったし、なんなら二十歳の時に意図せずして互いの両親を紹介した。
それから地元に帰る時には互いの両親に顔を見せに行っていた。親、公認。
あとは仕事が落ち着いたら、プロポーズしよう、と最初はぼんやり思っていた。
でも、この間電話で松川に「交際期間が10年とか長いカップルだと、この人は私と結婚する気がないのかな、って突然破局したりするらしいけど、おたくらは恋人仲大丈夫?」と心配され、不安に駆られてしまった。
一向にプロポーズされないで何年も付き合っていると、結婚する気無いのではないか、と思う女性もいる、と。
いやいや、鈴音に限ってそれはない!とその時に言えなかったのは、鵜呑みにして凹んだからだ。
俺的にはこのまま結婚するものだと思っていたから、少しでも否定的な意見を聞かされると不安で仕方ない。
その日はすぐに電話を切り、慌てて宝石屋に駆け込んだ。サイズとかまだ測ってないのにすぐに値段を確認するなんて、貧乏社会人はマジきつい。
そしたらいくらだったと思う?牛丼1300杯分だぜ?牛丼に例えんなって?細いこと気にすんなよ。
続けざまに銀行の口座にもアクセスして、残高も確認したっつーの。大丈夫だったけど。
そんなこんなで一つ安心して、さりげなくその店にデートで寄って、関係ない指輪はめてるところ、サイズを盗み見た。それで次の日の夜には買いに行ったんだから、店員のお姉さんにも覚えられてて恥ずかったわ。
ちなみにその指輪っつーのはカバンの中でもう1週間も眠っている。それまでの行動力は早かったのに、いざプロポーズで行き詰まっている。
どんな言葉で伝えようか、ずっと迷っている。
「あ、あのさ、鈴音?」
「んー?どうしたの?」
食器を洗う後ろ姿に、声をかける。
鈴音は手を止めず、けれども優しそうな声で答えてくれる。
今日こそは言う。今日こそは。
1週間、毎日頭の中で言葉を考えていた。
「お、・・・ま、まい。」
「・・・どうしたの?」
「お、俺のために・・・」
「・・・うん。」
心臓がばくばく言ってる。落ち着け俺、やればできるぞ貴大。鈴音は水を止めて振り返る。あー、もうなにそのピンクのエプロン可愛いな。てそうじゃねーし。
「味噌汁、作ってくれ。」
あ、言えた。
「・・・。」
けれど鈴音は眉を寄せて黙り込んでしまう。まって、怖い。
「さすがに洋食の時はお味噌汁合わないと思うよ。パスタとか。」
「・・・そうね。」
マジレスすんのかい。
確かにそうだわ、パスタに味噌汁違うな。違う。じゃあそん時はオニオンスープにしてくれってか。んなばかな!
だよな!毎日俺のために味噌汁作ってくれとか今時古いよな!!だから古いって言ったんだよ親父のプロポーズ話はよ!お袋もそれではいって答えんだろ!
つーかよくよく考えたら同棲しててほぼ毎日作ってもらってたわ!
「貴大君そんなにお味噌汁好きだったっけ?なんの味噌汁にする?油揚げ?お豆腐?」
「・・・じゃあ両方で。」
「わかった。お味噌汁美味しいよね。」
「最近ブームなんだよな。」
そうなんだー、と鈴音はまた微笑んで残りのお皿を洗い、また1日が終わったのであった。
・ ・ ・
「で、1ヶ月も鞄の中で温めちゃってるわけね。」
「じっくり寝かせて熟成させとくわ。」
飲み干したグラスをテーブルの端に寄せ、タッチパネルで麦のロックを一つ送信する。
あれから3週間。タイミングを見計らって鈴音にプロポーズの言葉を伝えてみた。
「そろそろ和彦さんに会いたいな」「え?お父さん?お父さん最近禿げてきたから貴大君に会うの恥ずかしいって。」とか
「月が綺麗だな」「宮城のほうがよく見えたよ。」とか。
まぁ後者はプロポーズの言葉じゃねーけど。
「鈴音って鈍感だったわ。」
「鈍感天然娘だったの忘れるくらい花巻は切羽詰まってんだ?」
「そりゃあお前があんなこと言うからだべや!」
「そりゃ悪かったって。」
松川は片手を上げて謝罪のポーズを取り、赤ワインを飲んでいる。しかしこいつの色気は一体どこから出てんだか。高校から出てたけど。
結局うまくプロポーズ出来ず、松川にそれを愚痴った。愚痴っていっても軽くな?談笑程度に。そしたら出張でこっちに来るみたいで、久々に会うことになって今に至る。
松川も仕事が順調みたいで、こっちに来るかどうかを考えているみたいだ。
「俺はこのまま鈴音と結婚する気満々だったから、なんか不安になってきたっつーか。もしかしたら鈴音は結婚までは考えてないのかなー、って。」
「そしたら8年も交際しないでしょ。少なくとも俺はね。」
「俺だってそうだっての!」
再び届いた麦を飲み干して、パネルに手を伸ばせば腕を掴まれた。
「飲み過ぎ。」
「飲まなきゃやってられんって。」
「渡、取り上げて」
「あ、は、はい!」
今までずっと黙っていた渡が俺からパネルを遠ざける。そんな渡を睨みつける。
「渡、麦ロック頼んで」
「頼まなくていい」
「渡」
「え、えと、」
渡は見てわかるほどに困惑していた。先輩の言うことが聞けんってか。
「後輩に圧かけんなっての。」
「圧なんかかけてねーよな?渡」
「え・・・あの。」
かけてる。圧。深酒でもしないとやっていけないわ。失敗失敗って。まぁべつに?鈴音が浮気してる、とかなら話はまた変わってくるけど、絶対してないし?そんな焦る事でもないだろうな。
「一回水飲んで落ち着け?花。渡この水ちょうだい。」
「あ、どうぞ。」
「ばかやろー!腹膨れたらどーすんだ!飲めねーだろ!」
「飲めなくしてんだろーが!」
松川は乱暴に水を置いた。
別に迷惑かけねーだろ。やばくなったらタクシーでビュンだっての。そんな遠くねーし。酔ってねーし。
「せ、先輩方落ち着いてください。」
松川と待ち合わせをしていたら、偶然、本当に偶然渡と再会したので、そのまま連行した。今日は予定ないって言ってたし。
「いやいや。鈍感ってかわいーなって思うこともあんのよ?でもさすがに度が過ぎるとそれはもう凶器だわ。武器。全部フラグ折られりゃへこむっつーの。」
「もっとわかりやすく言ったら良んでねーの?苗字変えようとか。」
「(それってわかりやすいかな・・・)」
「言ったわ」
言ったわ言った昨日言った。
「そしたら「私高高所がいいなー」ってさ。」
「誰だよ!」
「それだよ!」
誰だよたっこうどころって!珍しいにもほどがあるだろ!絶対読まれないし2人で改名しようってことじゃないんだわ、花巻にならないかってやつなんだわ。
そんで。「ずいぶん珍しい名字がいいんだな」ってここで否定できなかったんだわ俺!
松川が、麦のロックを注文した。流石に俺の苦労を察してくれたみたいだ。今日は飲もう。
「で、渡はどうする?」
「え?!俺ですか、」
「そ。渡が花巻だったら、なんていう?桃谷に。」
お茶に口をつけていた渡が驚きながらこちらを見た。俺か・・・と小さい声で呟いて、顎に手を当てる。
「普通に言います。結婚してくださいって。」
「あらやだ素敵。」
「私でよければ。」
松川が口に手を当て、声を高くしながらいった。なんでお前彼女役してんだよ。こんなでかい彼女はパスだわ。
しかしそんなストレートに言えっかな、俺自信ねーわ。
「いや、渡頼もしいわ。」
「いえ・・・流石に相手が鈴音ちゃんだと、正攻法がいいかと、思いまして・・・」
渡の言葉に手を止める。
「言えないからこんな悩んでんじゃん!」
「す、すみません。」
「ホント肝心なところでヘタレなのな。」
渡と鈴音は幼馴染らしい。付き合う前から、ちゃん付けで呼んでいて、先輩という概念は?なんて考えたこともある。
が、長続きの理由には渡も関係している。
遠距離の時に、渡が近くにいたから、鈴音も平気だったのだ、と、思う。
大学も同じだったってんだから、安心。と、ちょっと不安。
「そりゃあ、俺、自分の長所わかんねーし。」
柄にもなく神頼みとかしたっけな。
俺には鈴音しかいないから。
俺、王子様じゃねーし、白馬も持ってない。お城なんて当然無い。それなのに、俺に愛をくれたのは、あいつだけ。
なんて。鈴音のメルヘンが移ったわ。
「まぁ、渡にも嫉妬してた時期あったもんな。」
「え?!俺ですか?!」
そーだよ、こいつ男前だしな。高校の時から。で、さすが幼馴染様って感じ。鈴音の体調不良とか、誰よりもわかるし。で、帰りが遅くなれば、ナチュラルに送ってやってる。
「しかも渡髪伸ばしてイケメンになりやがってよー!」
「あ・・・ありがとうございます・・?」
しかもいま彼女いないんだと。もし俺ら別れたら渡のとこ行くだろうよ、鈴音は。
「俺はそういう、負の感情も口にできる花巻好きだけどな。ヘタレなところも。」
「それ長所か?」
「あの・・・長所は鈴音ちゃんがちゃんとわかってるから、気にしなくていいんじゃないですか?」
「は?」
「いや・・・逆に自分で長所がわかったら、そこばかり自然と強調して、逆に不自然になるかなって・・・」
ほんとこいつさ・・・!
言うこといちいち響くんだよね!
リベロってなんなの?男前ポジなの?!
て言うかなんでいまお前フリーなんだよ!
「お前なんでそんな性格いいのに今フリーなの?!」
「あはは・・・今、仕事が楽しくて、恋はいいかなって。」
「若い!」
「いや、一つしか違わないからね。」
やめだ。やめやめ。
渡が男前、っつーのは昔からわかってた。今更そこ気にしたところでどうにもならない。
「あの、花巻さん。」
「おー。」
「非常に申し上げにくいのですが、」
「何、言ってみ。」
渡はお茶に口をつけて、頭を書いてから、申し訳なさそうに言う。
「普通に、結婚しよう、でいいと思います。」
「だからそれが言えなくて困ってんだろうよ!」
力強くテーブルを叩く。
そして麦を飲み干す。流石にちょっと気持ち悪くなってきた。
「そんな難しいこと?」
「むずい!てか恥ずい!」
だからそれが言えなくて困ってるんだっての。話聞いてた?あ、いや違う。後輩の前でこんなヘタレてて、みっともない姿晒して、恥ずかしい。けど、このプロポーズの結果によっては死活問題になるわけよ、下手したらこのまま破局してフリーになったりでもしてみろよ。俺はもう彼女できないまま、爺さんになって人生を終えるかもしれない。
「もう8年も交際してんだから、自信持てって。」
「そうですよ、花巻さん。鈴音ちゃんが鈍感なの花巻さんよく知ってますよね。小細工とか、かっこいい言い回しとか、鈴音ちゃん気づかないと思います。一言簡潔に言うだけで、あの人には凄い響きますから。」
「でもさ、渡。言う側にも色々覚悟とかあるからさ。」
例えば夜景の見えるレストランで、とか。
ベタ中のベタだけど。そこまではしないけど。特に雰囲気なく家で言う、とかは辞めたい。雰囲気。雰囲気は作りたい。
「かっこ悪いプロポーズはしたくないっつーか。」
逆に雰囲気あるプロポーズやって、記憶に焼き付けてほしい。歳取っても素敵なプロポーズだった、と覚えててほしいじゃん。
「まぁ、そんときの相手の顔も気になるけどさ。結局言えなきゃ意味ないのよ。」
「おっしゃる通りで!」
「夫婦になったら、恥ずかしいとことか、情けないところも、さらけ出していくわけですし・・・どうせ見られるなら早いうちに見せてもいいんじゃないですか?」
ぐうの音もでない。
言ってることはわかるけど、それでも俺なりのシチュエーションがある。
確かに実行できなきゃ意味のないことなのも理解できる。
これ以上、あの指輪を温めていたくない。うっかり鞄から落ちてバレるなんてことあったら一生引きずる。
「俺さ・・・」
「うん。」
さっきも言ったけど、鈴音しかいないと思ってんのよ。だから、結婚、したいのよ。
「花巻?」
「・・・・・・吐きそう。」
「はぁ?!」
やべぇ、胃がムカムカしてきた。頭もクラクラするし。待て待て、そんな飲んだか?あと5杯はいけただろ。
「待て待て待て!ここでは吐くな?」
「は、花巻さん!トイレ ッ・・・トイレ 行きましょう!!」
やべー、松川と渡すげーてんやわんやしてんじゃん。大丈夫大丈夫。トイレ くらい1人で行けっから。
結婚してください、か。
言えたらこんな苦労しないんだよなー。
一旦ゆっくり息を吐く。
なんだか瞼が重い。
あ、俺、今、凄い気持ちいいわ。
・ ・ ・
「ありがとう親治君、わざわざここまで。」
「ううん、大丈夫だよ。」
俺は今日松川と渡と飲みに行っていたはずだ。なかなかプロポーズ出来ないことを相談して、そしたら2人とも超男前なこと言ってて。昔から自覚はしていた。青城の奴らが羨ましいってことを。どうしても比べてしまう自分がいた。
見た目はもちろん、信頼のある及川。男前な岩泉。大人な松川と渡。行動力ある矢巾。物怖じしない京谷。探せばキリがない。
そんなメンツの中、自分はどうなんだろう、と高校の時よく悩んだ。
よく言われるのが、「花巻には花巻の良さがある。」
それでも胸を張って俺にはこれがある!と言えるものが見つからなかった。
だから付き合うようになった時、他の奴らを差し置いて、俺がマネージャーである鈴音と付き合えるなんて、と優越感を抱いた事もあった。そんなこと死んでも誰にも言えないが。
結局のところ、優越感があっても、肝心な時にはその憧れた連中に相談してしまうのだから、本当に自分はダメダメだ。格好悪い。
「・・・自分のことなのにな。」
なぜこんなに臆病になってしまったのだろうか。そんなキャラに見えないのに。
あいつらと離れてる今、誰かに対する劣等感もなく、凄く充実していた。
でも根本の部分でヘタレな自分が隠れきれていなかった。
「貴大君、起きた?」
「・・・俺、どうやって帰ってきたの?」
何故か視界の先は見慣れた天井があった。
「親治君が送ってくれたんだよ。」
「そか」
やっぱあのまま寝落ちしたのな、俺。
よくここまで運べたな、渡。俺お前より結構背が高いのよ。重さもあるし。松は帰ったんかな。明日2人に詫びよう。
「酔い潰れるまで飲んだの?」
「いや・・・そんな飲んでない。」
と、思う。でも松に止められたから、ペースは早かったんだと思う。確かに、やけ酒と称していたからな。呑んで、潰れて、時間が経ってから、冷静に考えるんだから、そろそろ学べよって。
「ごめんね、貴大君。」
「は?何で?」
「貴大君が酔い潰れるほど、ストレスが溜まってるのって、私の事も入ってると思うから。」
いやいやいや、見当違いもいいところだ。そんなわけあるか、お前は安定剤だ。まぁ、そりゃあ今回はプロポーズの事ですげー悩んでるけど、それは単純に俺の言葉が不足してるだけで。それがストレスってわけじゃないし、鈴音見るたび癒されてっし、何なら大体頭ん中お前のことばかりだから。
「いや、お前のせいじゃないから。」
お前関係だけど。
ほんと?って、ホントホント。だからそんな可愛い顔しなさんな。お前は困っても怒っても泣いても可愛いのな。
はぁー、マジ俺の彼女可愛すぎだろ。
料理も出来て?手先も器用で?可愛くて?気遣いできて?スタイルもいい。
「結婚しよ。」
「え・・・」
なんて、簡単に言えたらなー。いや。そんな簡単に言っちゃダメか。やっぱ夜景の見えるレストラン?で、よくある、グラスの中に指輪入れてもらって、で、見えてきたら、何だろ、手紙でも書くか?
いや。もうこの際、くさいと言われようと気にしない。やっぱサプライズしたいじゃん?
「嬉しい・・・」
「へ?」
え、どした?めっちゃ目が潤んでるけど、そんなに不安だったの?俺のやけ酒。そんな泣くほどやばい顔してた?
「じゃあ私・・・花巻になるんだね。」
「ん?お・・・おう?」
おおう?!
嬉しい?私、花巻になる?
「でも貴大君、今仕事大変なのに、・・・いいの?」
「そ、・・・そりゃあ、もちろん。」
神様神様ちょっと待ってください。もしかして、もしかしなくとも俺、やっちゃった?
鈴音は鈴音でまた「嬉しい。」と呟いてるし。そんでちょっと鼻すんすんしてるし。
「鈴音さん。」
「うん?」
「その・・・花巻になるって、どういう・・・?」
やっぱ俺口滑らしたのかな。んで、プロポーズしちゃったのかな?でもそうだよな、花巻になるんだ、ってそういう事だよな。
え?夜景の見えるレストランは?グラスの中に指輪は?俺に味噌汁は?
さっきまで頭ガンガンに痛かったのに、全然痛くない。逆に冴えてきた。
「桃谷貴大がいい?」
「いや、花巻鈴音でお願いします。」
言ってる!
これ言ってるわ、言ったな俺!!
何が記憶に焼き付けてほしいだよ。俺の心にクリーンヒットだわ、心抉れたわ、一生忘れらんねーわ、泥酔してからポロッとプロポーズって!何?アイドルとか推しに思わず呟いた言葉みたいじゃねーか!はぁ、尊い、みたいな!まぁ!確かに俺の推しは鈴音だけどな!ってやかましいわ!黙れ!!
俺今日のこと一生忘れない。
もう過ぎたことだから仕方ないのはわかっている。
「あのさ、鈴音。」
「うん。」
「もっかい言わせて?」
タイム!待った待った!今の無ーし!
とはいかないから、改めて仕切り直させてくれ。床に正座しながら、隣に置いてある鞄を、バレないように漁る。
鈴音も姿勢を正してくれた。
「鈴音さん。」
「はい。」
プロポーズがカッコ悪かったなら、結婚式とハネムーンに力を入れればいい。それでも失敗したなら、毎年記念日に花を送ろう。
「俺と、結婚してください。」
毎年は無理かもしれないが、旅行しよう。2、3年後には、子どもとか欲しいな。
「はい。」
鈴音は短く答えて、また目元を抑えた。
神様。
神様ありがとうございます!
「私を、お嫁さんにしてください。」
・・・ずるい女だわ。