「雨だ・・・。」

今朝ニュースで梅雨入りしたと言っていた。
新学年になって、もう2ヶ月経ったんだな。1日があっという間でそんな実感が無かった。

ニュースで聞いていたのに、傘は持ってこなかった。なんとなく、外れると思っていたから。根拠はない。ただ、なんとなく。

ジャージを頭に巻いていけばいいかな?明日はオフだし。今日は部活だけだから、いつもよりは生徒が少ないので、運良く友達に会える確率も低い。だから、入れてもらえない。


「あれ、桃谷じゃん。」

しばらく思考を巡らせていれば、後ろから聞きなれた声で呼ばれた。

「菅原君。」
「おつかれー。桃谷は今終わったの?」

うちは終わり、と菅原君は笑顔で言った。制服を着た彼は、これから帰るみたいだった。
珍しく第2ボタンまで開けられたシャツに、釘付けになってしまう。
普段しっかり止めている分、妙に色っぽく感じる。

「大会がもうすぐだから、時間かかっちゃって。バレー部はいつもこんなに遅いの?」

最終学年だから、今まで以上に気合が入ってしまう。負けたら終わりだから、悔いがないように、と3年は練習を倍に増やしていた。もともと1、2年が少なくて、今回の試合もほぼ三年生しか出ないけど。
下校時間はとっくに過ぎていた。

「あー、いや、部活自体は早く終わったんだけどさ。」

菅原君はどことなく嬉しそうだった。

「みんなが誕生日祝ってくれてさ、」

少し恥ずかしげに、でも嬉しそうに菅原君は言った。バレー部のみんなで菅原君の誕生日会をしたのかな。

「菅原君、今日、誕生日だったの?」
「そーなんだよ。三年じゃあ俺が一番おにーさんなんだよな。」
「おめでとう。」
「ありがと。」

よく見れば菅原君の荷物が少し多い。これは誕生日プレゼント貰ったのかな?こんなにもらえるのも、きっと彼の人望もあるのだろう。

「ごめんね、私何も用意してなくて・・・」
「え?!いーっていーって!気にすんなよ!」

私も菅原君にはよくお世話になってるから、何かあげられないだろうか。せっかく知ったのだから、お祝いしたいな。

「今度改めて何か送らせて。」
「んな、気にすんなって。気持ちだけで嬉しいよ。」

菅原君は笑顔でそう言っているが、絶対何か買ってこよう。

「それより桃谷今から帰るところ?」
「そうなの。傘忘れちゃったから、どうしようかなって悩んでたとこ。」

そう言ってもう一度外を見てみるが、大雨とまではいかないにせよ、傘無しで帰るには厳しい量だった。

「あ。じゃあさ、俺の傘入る?」

菅原君は急ぎ足で傘立ての方まで向かって、黒い傘を取り上げた。そして「な?」と笑顔で言った。

確かに誰かに入れてもらおうと思っていたけど、菅原君は申し訳ない。女友達を待っていたから。

「いや、いいよ!菅原君荷物多いし、悪いよ。」
「大丈夫大丈夫。この傘結構でかいから」
「いや、でも。」

先ほどまでご機嫌だった彼の表情が、徐々に悲しそうな顔に変わっていく。

「そんなに俺と相合傘すんの嫌かぁ・・・」
「えっ・・・そうじゃないけど。色々噂されちゃったら菅原君に悪いから。」

男女で相合傘なんて、付き合ってる、って思われちゃうよ。そしたらいろんな人に茶化されるだろうし、もしも彼に好きな人がいたら、好きな子に彼女いるんだ、と勘違いされてしまう。

「相合傘くらいで噂なんて立たんべ。考え過ぎだよ、桃谷。」
「菅原君こそよく考えてみてよ。例えば・・・道宮さんと澤村君が同じ傘で帰ってたら?」
「マジで?!あの2人そんなことしてんの?」
「例えば!例えばの話!」

例えばって言ったよね?それにしてもそんなに驚く事なのかな。あと道宮さん、澤村君、名前借りてごめん。

すると菅原君はそっかー、と小さい声で言って顎に手を当てて目を瞑っていた。

「確かに、付き合ってんのかな、くらい考えちゃうかもな。」
「そうでしょ?だから、大丈夫だよ。」

クラスの人たちにからかわれ、部員にも根掘り葉掘り聞かれる。自分だけなら、あれはたまたま入れてもらった、と言えるけど、私のせいで菅原君までそんな面倒な事させるわけにはいかない。

「いーじゃん、べつに。」
「・・・え?」

それでも菅原君は気にしてないみたいで、折れてくれなかった。今嬉しいことがあったから、細かいことは気にしないってことかな?後々後悔するよ?

「俺の傘入るの嫌なの?」
「だから、嫌とかじゃなくて、」
「じゃあいーじゃん。」

さっきまで私が話したこと聞いてたのかな?
菅原君は気にすることなく、傘を開き、手招きをした。

「ほら、桃谷。」
「菅原君。」
「下校時間過ぎてるんだし、先生に見つかったら怒られるぞー?」

いたずらっ子のように舌を出しながら菅原君は言う。けれどどうしても入る気にはなれない。

「だ、だったら私濡れて帰るよ!」
「うわ、強情ー。」

せめてもの気休めにとジャージを出す。
頭だけでも守ろう。多少は時間が稼げるはず。

「誕生日プレゼント。」
「え?」
「くれるんでしょ?」

準備ができたので玄関を出ようと足を踏み出したが、菅原君に鞄を掴まれた。慌てて立ち止まり彼を見つめた。

「うん。後日渡すよ。」
「菅原君との相合傘、でいいよ。」
「・・・なにそのプレゼント。」

何一つプレゼント出来てなくない?むしろ私入れてもらってるから得してるの私じゃない?お父さんに肩叩き、と部類は一緒だよね。

「女子と相合傘、こんなん、絶対経験しないって」
「いや、絶対とは言い難くない?彼女出来たらしてあげなよ。」
「まぁまぁ細かいことは気にしないで。」

とりあえず菅原君は折れるつもりはない事だけはわかった。誕生日パワーってすごいな。なんだか意地を張るのも疲れてきた。

「じゃあお願いします。」

こんなのがプレゼントになるのか、いまいち理解できないけど、諦めてジャージを鞄にしまい直して、彼の隣に行った。

「ありがとう、桃谷。」
「なんで菅原君がお礼」
「しぃーっ、」

なんで菅原君がお礼を言っているのか、聞こうとしたけど、彼は遮るように私の唇に指を当てた。




「帰んべ。」

どこか嬉しそうな彼に、もう何も言えなくなった








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