「どうしよう瀬見!!」

今日も平和に部活が終わった。鷲匠監督による「工お前バカかコラァ!」もいつも通りちゃんと聞けたし、山形の震えが止まらないギャグも聞いた。
天童による「鈴音ちゃんポニテだとエロいね」というセクハラ発言も、大平に説教してもらった。
今日も滞りなく無事1日を終えることが出来た!
バレー部のマネージャーって本当に楽しい!
あたし今超楽しい!そんな幸せのピークなあたしにも、ひとつだけ問題がある。

「おう、どうした?桃谷。」
「2年が可愛すぎてしにそう!」
「は?」

白布と川西が可愛すぎる。
1年の工があんなに打倒牛島さん!!、と闘争心をメラメラさせているのに、白布も川西も冷静すぎて可愛い。
先輩を超えるセッターに!ミドルに!という欲を感じない。
むしろ「甘やかしても調子に乗るだけ」と後輩に対して超塩対応。後輩って無条件で可愛いものだと思っていたが、あの2人からするとどうやら違うみたいだ。

「2年って、まさか白布と川西のこと言ってんのか?」
「むしろあの2人以外誰がいるのさ。」
「いや、工ならまだしも白布と川西?」
「そうだよ。かわいいでしょ。」
「いや、どう考えてもかわいくねーだろ。」

わかってないな、瀬見は。さすがセンスがないだけあるな。センスがないから、可愛いの基準もわからないんだな。センスのステータス全部顔に振り当てられちゃったのかな、かわいそ。
でもセンス悪いのに自覚ないとこ、あたし好きよ。

「後輩の面倒も見ない、先輩に寄りつきもしない。2年だけで固まってて、甘えてこないのが可愛くて可愛くてしょうがないわあたし!」
「一応聞くけどそれ褒めてるんだよな?」
「そりゃあもちろん!2年生ポジってさ、先輩ぶれるのに、後輩ポジとして3年にも甘えられるんだよ?真ん中だからこそできる美味しいポジションなのに!それを有効活用しないなんて勿体ない!ばか!ばかわいい!」
「褒めてるように聞こえねーんだよな。」

あたしとしてはいつでも甘えておいでー!って両手広げておいでのポーズなのに、全然こない。ドリンク渡そうが何しようが「ありがとうございます。」だけ、それで終わり。しかも表情筋も全然仕事してないからずっと同じ顔。それなのに白布と川西が2人で話してる時は、なんか楽しそうに笑ってたりするんだよね、人格入れ替えてるのかなくそ羨ましい。

「鈴音先輩、俺もう我慢できません・・・。とか言ってほしいのよ、あたしは。」
「お前、それどういう意味?」
「先輩!俺甘えたいです!の意味だよ。五色ばかり構ってないで俺も構ってください!とか言われたくない?」
「あ、そっちか。」

俺だって、後輩ですよ、五色ばかり構ってないで、俺たちのことも構ってくださいよ。でろでろに甘やかしてくださいよ!とか言われたくない?白布と、川西に。
そしたらもう永遠に甘やかしちゃうのに!
ついでに抱きしめてヨシヨシして赤ちゃんなの?可愛いねぇとか言っちゃうわ。やだもしかしてこれが母性本能?

「そっち、って他にある?」
「あれれ?もしかして英太君やらしーこと考えてる?」
「は?!そんなんじゃねーし!つーかどっから沸いた!」

天童が後ろから絡みついてくる。特に何も気にしてなかったら、味をしめたのか、最近頻度が上がってきた。よくよく考えたらセクハラだよな。
でも嫌がる素振りを見せると逆にテンションが上がるのかダル絡みされるので、もう放置している。
気づいたら誰か剥がしてくれるし。

「天童、お前の体格で羽交締めにしたら、桃谷は潰れてしまわないか?」
「えー、大丈夫だよ。それに羽交締めじゃなくてハグだから。」
「何か違うのか?」
「ハグはね、愛情表現だよ。ほら、鈴音ちゃんを見てよ。全然嫌がってないデショ?愛があれば痛くないんだよ。」
「愛情表現か、ならば俺も表現しなければいけないな、桃谷。」
「いや、多分牛島の愛は重すぎるから、あたし折れちゃうと思う。」

全ての骨が音を立てて折れそうな気がする。この間もりんご片手で握りつぶしてたし。さすがまだりんごにはなりたくない。私の身体は桃のように柔らかいのだ。折れるというか粉々になりそう。

「そうだぞ若利。女子を抱きしめる時点でもうセクハラなんだよ。ほら、離れろよ天童。」
「なになに英太君。自分が鈴音ちゃんのことハグ出来ないから嫉妬してるんでしょ?」
「は?!ばっ、そんなんじゃねーよ!ほら!離れろっつの!」

瀬見が真っ赤になりながら天道を剥がしてくれた。そしてなぜか私を後ろに隠した。なんだ、守ってくれるのか。
そんなにハグしたいなら仕方がない、後でハグしてあげよう。ハグってそんなに大事か?ただくっついてるだけじゃないか?そりゃあ知らないおじさんに抱きしめられたら右ストレートからのアッパーからの目潰しだけどさ、別に乳揉まれるわけでもないし。

「ていうか何の話してるんだ、お前ら。」
「は?あ、いや。桃谷が2年が可愛すぎるって。」
「お?桃谷可愛い後輩いんの?紹介しろよ。どんな子?」

山形が興味津々で聞いてきた。おーけーおーけー、プレゼンなら任せなさいな。

「先輩が存分に力を発揮できるように、主張しない子。」
「ほう、控えめなんだな。」
「後輩が駄々こねても甘やかさないのも可愛いよね。」
「クール系ってことか?」
「うーん?クール系っていうか、低燃費系?」

少し離れたところにいる2人を見ると、しっかり目が合った。話は聞いているみたいなので、手を振ってみると、目を逸らして2人で何かを話している。「何言ってんだ、あの人。」「さあ?」とかかな、やだ可愛い。

「低燃費系って何考えてるかわかんなくて逆に上がるよな。」
「そう!そうなの!先輩が手を振っても無視するし!可愛い!」
「何度も手を振るうちに絆されて振り返してくれたりしてな!」
「最終的には向こうから手を振ってくれればいいと思ってる!」
「最高じゃねぇか!」

どうやら山形とは分かり合えそうだ。とりあえず握手を交わした。是非とも向こうから手を振ってくれることを願っているわ。それで、「鈴音先輩!」とか言って駆け寄ってくれちゃったりなんかして!
そしたら両手広げておいでのポーズで迎え入れるのに。
もう一度2人に向かって手を振るが、とんでもなく冷たい目をしていた。特に白布。そこがまた可愛いんだけどね。

「ねぇ鈴音ちゃん?隼人君が勘違いしてるよ。」
「え?なんで?可愛くない?」
「んー?可愛いと思うケドさぁ?ちょっと気持ち悪くない?手を振って天童せんぱぁいなんて来られても、俺そういう趣味ないし?」
「は?せんぱーいってくるの可愛いだろ?しかも普段はツンなんだろ?ツンデレ最高じゃねぇか。」

そうだよ、山形の言う通り最高だってば。先輩。鈴音先輩。大事なのは名前プラス先輩だからね?名字先輩じゃなくて名前先輩だからね?

「鈴音先輩って言われたい。」
「だ、だったら俺が呼びましょうか!」
「ごめん、工は違う。」
「ええーーー?!」

だって工は頼んでなくても甘えてくるし。甘えられたいわけじゃなくて、ドライすぎて甘えてこいってことだから。どう見ても俺、チヤホヤされたいんです!はお呼びじゃないのだ。チヤホヤされたいなら優しさ担当の大平に頼んでくれ。

「そ、そんな。俺だって可愛い後輩なのに。」
「可愛いかどうかはあたしが決めるから。」
「ぐぅっ・・・!」

はいダメ、可愛くない。なんだろ。工は違う。

「工、なんかごめんね。」
「わぁー、工かっわいそー!鈴音ちゃーん?工が凹んじゃったらどうするの?すぐプレーに影響しちゃうんだよ?」
「じゃあ天童が褒めればいいんじゃないかな?」
「工褒めるより鈴音ちゃんいじったほうが俺は何倍も楽しいんだよねぇ。」
「ぐぬぬっ・・・!」

いやいや、何で睨んでくるの。他にも先輩たくさんいるでしょうに。それに何だ?いじったほうが?いじるっつった?

「桃谷盛り上がってるね。」
「いや、なんか天童のせいでちょっと冷めてきた。」
「白布達見た?すごい引いてるよ。」
「え?!嘘!見たい!」

大平が苦笑いをしながら言ってきたので、急いで2人を見ると、やっぱり冷ややかな目をしていた。

「か!わ!い!い!」
「は?」
「ぶはっ!」

なにあの蔑んだ目!生意気可愛い!ドン引きしてる!

「見てよあの顔!何だあの人って顔してる!本当可愛い!」
「ごめん、わからない。」
「見て見て賢二郎のあの顔。鈴音ちゃんドン引きされてるよ。」
「後輩のくせに!生意気!かわいい!!」
「生意気と可愛いは意味合いが違うと思ったが・・・?」
「若利、深く考えなくていい。」

とりあえず一回抱きしめてこよう。川西はなんかめんどくさくて動かないだろうから狙いは白布だ。そう、天童の言うハグ。愛情表現だ。割と全速力で白布のところへ向かう。

「は?こっちきた。」
「獲物を狩る目をしてる。」
「つか足速くね。」
「賢二郎冷静じゃん。」
「お前もな。」

どうやら白布と川西は逃げないみたいだ。やっぱ先輩だからとりあえずは敬ってるのかしら。白布が終わったら川西をハグしてやる。
そして両手を広げて白布のところに体当たり張に突っ込んだ。

「あぶねっ」
「ふぶぁっ!」
「ええーー?!鈴音ちゃーん?!」

ギリギリのところで避けられて私は顔面から床にダイブした。鼻が削れたかもしれない。痛すぎる。そのままうつ伏せのまま倒れ込んでいたら、天童と瀬見が駆け寄ってきた。

「は?!おま、何してんの?!」
「賢二郎何で避けたの?役得なのにぃ。」
「いや、セクハラですし。」
「ねぇあたし鼻ある?」
「ありますよ。」

よかった。鼻あった。瀬見の手を借りて立ち上がると、川西がじっとこちらを見ていた。鼻の確認ありがとう。

「そうね、セクハラだったね、ごめんなさい。」
「え、そこ謝っちゃうの?まず何で避けたの!ケガしたんだけど!くらい言って良いんじゃないの?」
「すみません、セクハラだったので。」
「いや、それにしても避け方もあるだろ。」
「避け方に種類なんてありますか?」
「そうじゃねーだろ!桃谷女子だぞ!」

瀬見や、そんなに怒らないで、あたしが悪いのよ。まず最初にお願いしなきゃだめだったのよね。

「白布。」
「なんですか。」
「抱きしめさせて。」
「嫌です。」
「5センチでいいから。」
「意味がわかりません。」
「間違えた!15分でいいから!」
「嫌です。」

お願いしたのにダメだった。一応知ってる女のはずなんだけどダメだった。絶対いい匂いしそう。絶対髪の毛サラサラだろ。

「絶対いい匂いする。」
「気持ち悪いです。」
「白布抱き枕にして寝たい。」
「太一。」
「いいんじゃない?抱き枕になってあげなよ。」
「いいわけねーだろ。」
「川西も抱き枕にするわ。両サイドに置きたい。」
「先輩朝起きたら潰れちゃってますよ、絶対。」

埒あかなくて川西に助け求めちゃってるのがまた可愛い。同い年同士助け合いなのね。はいかわいい。

「あのさ、賢二郎。一回だけでいいから抱きしめてもらいなよ。鈴音ちゃんってしつこいから、このままだと時間かかるよ。」
「そうやって、この子はしょうがない、とか言って甘やかすから犯罪は無くならないんですよ。」
「え?あたし犯罪者扱いなの?」
「セクハラしようとしてますもんね、痴漢だ。」
「だから俺が代わりに抱きしめられますよ!先輩。」
「違う。」
「何でだーっ!」

あれだよ。パンチラは見たいけど見せパンは見たくない。見えないものは見たいけど、見せてるものは見たくない。
来るもの拒まずよりも、何がどうあれ拒む姿勢がツボに入っている。・・・ん?もしかしてあたしやばくない?

「先輩、天童さんに抱きしめられすぎて、距離感バグってますよね。」
「そんなことないよ。前から2人とも可愛いと思ってたよ。」
「ありがとうございます。」
「嬉しくないんですけど。」
「白布は素直じゃないなぁ。」
「いや、こんなにはっきり言ってますけど。」

嬉しくなくてもありがとうございますって言わなきゃ行けないんだよ、先輩から言われたら。それが社会のルールなんだ。こうやって本当のことを言えないまま隠し続ける。それが日本人のダメなところ!そういう面では、素直に言える白布はいい子なのか?

「ねぇ白布。」
「なんですか。」
「抱きしめたい。」
「・・・話聞いてましたよね?」

いつもクールな顔が眉間を寄せて嫌そうな顔に変わる。

「こんなにお願いしてるのにダメなの?!」
「仁王立ちってお願いする態度ですかね。」
「確かにそうだね!ごめーん。」
「俺からもいいですか。」
「なあに、川西。」

土下座案件ではないと思ってる。乳揉ませてくださいなら土下座案件だけど、ハグならまだ土下座じゃない。いや、土下座されても乳は無理だけど。

「俺と賢二郎、どっちかに絞らないとだめじゃないですか?」
「えー、なんで?」
「2人とも可愛がりたいは欲が深すぎますよ。」
「2人とも可愛いから仕方ないでしょ!ただし工は違う!」
「俺何も言ってないのに!!」

それ逆の立場ならどうなのよ。敬う先輩は1人に絞りなさいってことよね?ダメじゃない?それあたし勝ち目ないから!牛島になんて勝てるわけなくない?!

「賢二郎なら賢二郎で絞ってください。」
「え、白布からの川西なんだけど。」
「賢二郎に行くなら俺のことは諦めてください。」
「やだ!川西も可愛がりたい!」
「じゃあ賢二郎のことは諦めください。」
「そんな!どちらか1人なんて選べないよ!」

右に白布左に川西でいいじゃん。手は2本あるんだから、一本ずつ可愛がって撫でくり倒せばいいでしょ。

「鈴音ちゃん、二股女みたい。」
「二股はダメだぞ、桃谷。」
「いや、付き合ってねーだろ。」

その発想はなかった。二股とか尻軽の極みじゃんか。しかも部活の後輩で二股って最低すぎる。

「二股・・・なんて。斉藤コーチに何て言えば。」
「先輩のせいで風紀が乱れちゃいますね。」
「あたし、最低なマネージャーだわ・・・。」
「桃谷が川西に丸め込まれてる。」
「洗脳させんといかんのう!つってな!」

・・・あれ、おかしいな。真夏なのに、寒い。山形にはギャグは1日1回まででお願いしよう。

「とにかくそれが決まらないならおさわりは無しです。」
「くっそー、やるな川西!」
「ありがとうございます。」
「キャバクラかよ。」

白布と川西を可愛がれるようになるにはまだ時間がかかりそうである。




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