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尾形百之助

 この世界には手を伸ばせば届くものがどれだけあるのだろう。手を伸ばせば届くのに、どうして届かないものを得ようと必死になるのだろう。
 手の届かないもの。例えばわたしにとっての尾形さんからの愛。尾形さんにとっての、愛。形は違えど字は同じ。彼とわたしでは愛の根本が違うのだ。わたしがいくら彼に無償の愛をあげれど、彼は何も思わない。それでもいいからと側にいるわたしはなんて愚かしいのだろう。そんなの不毛だよ、やめちゃいなよ。幾度となく言われてきたその言葉にわたしは笑顔で大丈夫だと呪いにように吐いて回った。その大丈夫はいつしか彼から離れられない鎖のようになっていて、わたしは今もこうやって愛の届かない相手へ愛を捧げている。そこの抜けた器に水を注ぐように、彼のそれが満杯になることなんて、ないのだろう。
「尾形さん、おがたさん」
 お風呂上がり。毛先から雫をパタパタと垂らしながら面倒そうにわたしをみた彼の髪はいつもと違って、妙な色香が辺りに立ち込める。気だるげな瞳はわたしを捉えて、そのままにやりと楽しそうに歪んだ。
「髪の毛乾かさないと、風邪引いちゃいますよ」
「乾かせよ」
「え」
「ほら」
「っわ、とと……っ」
 ひょいと遠くから放られたドライヤーを危うげながらキャッチして、そのまま目の前に座った尾形さんの頭頂部を見つめた。わたしがソファに腰掛けていて、その真下の床に尾形さん。いつもは見上げていた顔が下にあり、見えることのないつむじが見えている。失礼します、と控えめに声をかけてドライヤーの電源を入れた。ごぅ、と音がして暖かい風が噴出口から出される。やけに指通りの良い髪に静かに嫉妬をしながら約3分。きっちりと乾き、ふわふわになった髪の毛を見て思ったのはなんだか猫みたい。
「猫?」
「えっ、声に出てました?」
「がっつりな」
「ひえ、すみません」
 気にすんな。そう言って楽しげに肩を揺らした尾形さんはやけに上機嫌だ。何かいいことでもあったのか。立ち上がろうとしない尾形さんの動かないつむじ。乾きたての手触り最高の髪。むくりと沸き立ったいたずら心の赴くままにわたしはそっとつむじに口づけをおとす。ぴくり、震えた尾形さんの肩と体が傾くのはほぼ同時くらいで。
「おが、たさ」
「好奇心は猫をも滅ぼす、だったか」
 この場合の猫はおまえだな。にやりと笑った尾形さんの冷たい愛に今日もわたしは溺れている。
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