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もう一度うまれてひびきあおうね

 いつか白馬に乗った王子様みたいな人が迎えに来てくれるんだ。昔読んだ絵本のように、ついこの間読んだ少女漫画のように。そう思っていたのに、現実はそう甘く簡単じゃなかったらしく王子様だと思って付き合った男の子には軒並み浮気され、振られてしまう。いわゆる本命の彼女の子に逆恨みをされて殴られることも多々あった。そしてつい1時間前だって、大好きだった彼が知らない女の子とちゅーをしているところを見てしまったのだ。
「うう……もうやだぁ」
「もぉ〜、また振られちゃったの?」
 慰めに奢ってもらったミルクティーを飲みながら管を巻く。目の前に座っているよしくんは幼馴染にお兄ちゃんのような人。呆れ顔をしながら、いつもわたしの話に付き合ってくれてよしくんはわたしの王子様じゃないけれどきっとよしくんは素敵な人と付き合えるはずだ。それこそお姫様のような子と。そう考えたらなんだか胸の奥の方が変に痛くなって、首をひねる。
「なに、次は何迷ってるの」
「うう……? ん、なんでもないの。それよりよしくん聞いて!」
 わたしの目の前でちゅーしてたこと、わたしに言った別れの言葉、その全ての鬱憤を晴らすようによしくんに話すと彼は「うっわ、なにそれぇ、そいつ最低」とまるで自分のことのように相槌を打ってくれた。胸のモヤモヤだとか、振られたショックだとか、よしくんに話しているうちに大抵どうでもよくなってしまうのだ。心の中でそっとありがとうね、と呟いて少しぬるくなったミルクティーを飲み込んだ。





 わたしが振られて、三日くらい経ったとき。大学で見つけたよしくんの隣には可愛い女の子がいた。ふわふわしたミルクティー色の髪を可愛い髪飾りで留めている小さな子。よしくんも満更ではないみたいでにやにやと笑いながらその子と歩いていた。いつもならよしくん、と声をかけて近寄っていくのになぜだか今日はそれができない。それどころか、よしくんを見るのが辛くなってしまった。いつもはわたしがいるはずのよしくんの隣がそんな簡単になくなってしまうものだったなんて。それもそうだ。少し考えればわかるはず。よしくんの隣は本来可愛いお姫様のものなのだから。それならよしくんにお姫様ができたとき、わたしはよしくんの隣にはいられないのか。そんな簡単なことにすら、今まで気づけていなかったなんて。生まれた結論に心臓が悲鳴をあげそうなくらい痛んで、不思議と涙まで出てしまう始末。ああどうしよう、どこかに行きたいのによしくんのそば以外どこに行けばいいのかわからない。蹲ってしまいたくなる感情の波の中、しゃがみかけた腕を誰かが引っ張り上げた。
「おい、なにやってんだ」
「おが、たくん」
 わたしの顔を見るなりほんの少しだけギョッとしたような顔をした尾形くんは、そのままわたしを引っ張ってどこかへと連れて行く。歩いてる間、よしくんが見えなかったのは緒方くんの優しさなのだろうか。


「尾形くん? どうしたの、急に」
「あんなとこで蹲ってちゃ邪魔だろ」
「あ、そうだよね、うん」
 あれからしばらく引っ張られて、いつの間にか座らされていたカフェテリアと目の前に置かれていたカフェラテ。柔らかく湯気をたてるほんのり甘いそれを有難く頂戴して飲み込むと、堪えていたものが溢れ出してくるようだ。
「わたしね、ばかなの、今になって気づいちゃったの」
 ぽつりとこぼし始めたわたしの言葉をコーヒー片手につまらなさそうに聞いている尾形くんが心地いい。なにも言わないなにもしない。それでいいのだ。
「わたしね、あんなによしくんのそばにいたのに、今更気付くなんて馬鹿だよね」
 よしくんのことが好きなんだ。いつから、だとかなんで、だとか全然わからないけどよしくんのことが好きで、それが当たり前だった。滲んで来た視界を誤魔化すように無理やり口角を上げた時。
「尾形てめぇ」
「っひゃ」
「……」
 がたん、と大きな音がして座っていた椅子ごと後ろに下がる。にやりと意地悪く笑っている尾形くんとわたしの首に巻きつくよしくんの腕、そして何が何だかわからないわたし。尾形くんとよしくんの顔を交互に見つめていると、小さく舌打ちをしたよしくんが「行くよ」と言ってわたしの腕を引っ張って歩き出した。飲みかけのカフェオレと尾形くんに向けて「ごめんね」と呟いて、もつれないように必死に足を動かした。
 よしくんはあれからなにも喋らない。ただ無言でわたしの腕を痛いくらいに掴んで歩いていた。わたしはといえば、色々聞きたいことがあったのによしくんのただならぬ様子に気圧されてなにも言えなくなってしまっていた。手首が痛くてなにも言わないよしくんが怖くて、足も痛くて泣いてしまいそうだ。
「……ごめん、」
「え?」
「手、痛かったでしょ」
 いきなり止まったよしくんの背中にあわやぶつかるところだった。ばつが悪そうにわたしの手を離してしょぼくれるよしくんにさっきまでの痛みとか怖さとか全部がどうでもよくなって、わたしは少し赤くなってしまった手首を見ないふりして「ううん全然痛くないよ」と笑う。
「嘘。ごめん。俺、」
「わたしね、よしくんが好き」
「は……」
「急に言われても困るよね。ごめんね。尻軽だって思われても、わたしよしくんが好き。多分ずっと前から好きだったんだと思う」
「それ、って」
 伝えてしまったらなんだか急に怖くなって、嫌われたらどうしようとか、もうあの子と付き合うことになったから一緒にはいられないと言われたらどうしようとか。そんなとりとめのない恐怖が渦巻いて、思わず俯いてしまう。
「やべえ」
「よしくん?」
「すっごい嬉しい」
「え」
「まじでー!? 俺、名前ちゃんの王子様になれるのぉ!?」
 ぎゃわー、と大きな声で喜ぶよしくんを見てわたしの王子様はよしくんだったのかぁ、なんて思っていた。だって、よしくんなんて王子様とは程遠いと思う。お家がなくてよく杉元くんの家に泊まってるし、バイトはしてないし、授業には滅多に出ないし。でも、それでも。
「好きになっちゃったんだもんなぁ」
「え? なんか言った?」
「んーん、なぁんも。よしくん、だいすき。わたしをよしくんのお姫様にしてください」
「んも〜! もっちろんだぜ!」
 ぎゅうぎゅうとよしくんの腕に締め付けられて息が苦しい。その息苦しさとほんの少しの汗の匂いさえも愛おしく感じてしまうあたりわたしは相当末期なのかもしれない。
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