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尾形百之助

 目の前に迫る端正な顔。真横に逃げ道を塞ぐように置かれた手、にやりとつり上がった楽しそうな口元。何でこんなことになってしまったのだろうか。考えてみても結局わからず、そうしている間にも尾形さんの顔はどんどんとわたしに近づいてきてしまう。いつだったかストレス解消だと言って吸っていたたばこのにおいがふんわりと香ってきてくらくらしそうだ。
「おが、おがたさ、ん」
「あ? なんだよ」
「いえ、その、なんだよ……じゃなくって、退いてくれると……ありがたいというか」
「嫌だね」
 その言葉に戸惑っていると、鼻の頭が触れ合った。じかに肌に触れた感触に肩を震わせるとその様子がおかしかったのか彼はクックッと喉の奥で笑ってさらに顔を近づける。少しでもわたしが動こうものなら触れてしまうであろう唇に何か喋ることも憚られて、開き掛けた口を元に戻す。
「なあ、名前」
「っ、はい……」
 ふ、と尾形さんの吐息が触れて目を閉じていてもわかってしまう顔の近さにどうしていいのか、どうするのが正解なのかわからない。だらりと背中を冷や汗が伝って、気持ちが悪かった。
「俺が逃すと思うかよ」
 うっすら開けた目の先で、底意地悪そうに笑った彼を見てわたしは狩られるうさぎのような気持ちを初めて味わった。
 噛み付くように触れた唇が熱くて、あまくて、苦くて、恋人でもない彼との不毛な行為に溺れてしまうわたしの愚かしさをどこかで誰かが笑ったような気がした。
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