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月島さん*リクエスト作品

 月島さんは大人の人だ。わたしなんかとは比べものにならないくらい大人で、タバコも吸うしお酒も強い。ビシッと決めたスーツ姿なんてくらくらするくらい格好良くて、あの姿でいつも働いているのだから世の女性が放っておくわけがない。以前そのことを月島さんに伝えたら「俺はそんなに魅力的な男じゃない」なんて言われてしまったけれど、わたしは月島さんは魅力たっぷりの大人の男性だと思うのだ。銀色スプーンに乗っかった真っ白なソフトクリームを頬張りながらそんな大人な男性の月島さんを眺めていたら、彼は呆れたようにフッと笑ってわたしの口元を紙ナプキンでそっと拭った。
「チョコソース、ついてたぞ」
「ええっ、やだはずかしい」
「もう取れた。相変わらずだな。名前」
「うう、月島さんにはかっこわるいとこ見せたくないのにぃ……」
 そうやっていつでもスマートで格好良くて、だからわたしは格好悪い姿を彼に見せないようにいつだって必死なのだ。こうやってご飯を食べている時もデザートを食べている時も街を歩いている時も、家で映画を見ている時も。子どもっぽく見られないよう、必死で生きているのに彼はそんなわたしの努力なんか知らないみたいでいつもわたしの頭をなで付ける。撫で心地がいいな、なんて言葉とともに。
「格好悪いんじゃあなくて、可愛いんだがな」
「え……って、自分で言って照れないでくださいよぉ!」
「すまん」
 逸らした顔と見えた耳を真っ赤に染めながら低い鼻を掻いた月島さんがひどく愛おしくって、かっこよくって。やっぱりわたしは月島さんが大好きなのだと実感せざるを得なかった。





 今日も月島さんは大人で、格好良くてわたしの心臓は壊れてしまったみたいにばくばくとうるさく鳴り響いていた。心なしかいつもよりも早い鼓動はそれもそのはず。今日は待ちに待った月島さんのお家でデートなのだ。家まで迎えに行くからとラインで言われて、あっちを着ようかこっちにしようかと迷っている間に月島さんが来るまであと十分になってしまった。ベッドの上に散らばる服たちにもう一度視線を投げかけて、結局薄ピンクのワンピースを手に取った。丈も短すぎず長すぎず、かといって攻めていないかと言われればそうじゃない。ちゃんと決戦の日に相応しい、そういった感じの服。
「……よし!」
 姿見の前に立って、くるりと一周。髪型オッケー、メイクオッケー、服装オッケー。そして何より。
「下着も、諸々の処理も……おっけー」
 初めてのおうちデート。この単語に期待しない彼女がいたら教えて欲しい。否、わたしは単純明快な性格なのでおうちデートという単語で嫌でも期待してしまうというものだ。お気に入りの小さなバッグを手にかけたところでインターホンが月島さんを知らせてくれる。
「はぁーい」
 女、苗字名前、気合を入れて行ってきます。心の中で自らをそう鼓舞し足元を飾る赤い靴を履いた。


「お、お邪魔します……!」
「散らかってるけどな」
 おきまりの文句でお招きされた月島さんの部屋は散らかってるなんてそんな単語どこを見ても落ちていないくらいに綺麗だった。必要最低限のものしかない部屋はいかにも男の人の部屋然としていて人知れず緊張が胸を包んだ。淡い水色のスリッパが前に置かれて、そのまま足を通すと月島さんが「好きな色がわからなくて。それでよかったか?」と珍しく不安そうな顔でわたしを見つめて来るものだから、なんだかおかしくなってきてわたしも笑いながら「この色、大好きです」なんて答えたり。
「それならよかった」
 そう言ってにこりと微笑んだ月島さんはやっぱり格好良くってわたしは俯いて彼の後をついていくしかできなかった。
 ふかふかのソファに腰掛けて、ぐるりとお部屋を見渡してみると彼らしさを感じさせるビジネス書の類が本棚にたくさん収まっていて、胸がきゅうと音を立てる。サイドテーブルに置いてあった難しそうな題名の本を手に取って、彼がお茶を持ってきてくれる間の暇つぶしにしようと開いた時。
「……あれ、なんか落ちた」
 開いたページからぱらりと何か紙のようなものが落ちてしまい、慌てて体を起こす。栞だっただろうか。サイドテーブルに置いてあると言うことは読みかけなのだろうか。申し訳ないことをしてしまった。あとで謝らなくては。そう思いながら拾い上げたそれは栞にしては大きくて、なんだか例えるならそう、写真のような――。
「!?」
 真っ白な面を裏返してみると、それは紛れもなく写真でしかもそこに写っていたのは見覚えがありすぎるくらいな顔だった。
「これ、って……わたし!?」
 およそ可愛いなんて呼べない顔でお気に入りのクッションを枕にねむりこけるわたし。おまけによだれ付きがそこに収まっていて、恥ずかしいやら戸惑いやらで写真を持っている指先が震えてしまう。なんで、いやそもそも、いつのまにこんなものを。取り敢えず元あった場所に戻そうと本を手に取り写真を挟もうとして、後ろから聞こえた声に驚いたわたしは事もあろうに右手に栞、左手に本の状態で振り返ってしまった。
「お待たせ……って、名前それ」
「えぇっと、その、すみません、本読もうとしたら……落としちゃって」
「いや、俺の方こそそんなところに」
 お盆を持った月島さんと自らの写真を持ったわたし。気まずい空気の中最初に動き出したのは月島さんで。彼は手に持っていたものを全てテーブルに置くと脇目も振らずわたしの方へと歩みを進め、目の前で止まった。じっと見下ろされ、どきりと高鳴る心臓が口から出そうなくらい緊張していると彼の大きな手がわたしの手首を掴んでそのまま引き寄せる。
「ひゃ、」
「怒っているか?」
「え?」
「その写真、勝手に撮ったものだから」
 抱きしめられた拍子に落としてしまった写真が寂しげにわたしを見つめる。不安げな月島さんの声と、思ったよりも近い彼。恐る恐る背中に手を回して抱きしめ返すと、後頭部の方で彼がハッと息を飲んだのがわかった。
「おこって、ませんよ。びっくりしましたけど……」
「そうか」
「でも、もうちょっと可愛い写真が良かったです」
 よりにもよって寝顔じゃなくても。そう不満をぶつけると彼は何を言っているのかわからないといった声音で「これが可愛いんだ」なんて言ってのけてしまう。
 ぶわりとひときわ熱くなった頬と暴れ出す心臓の鼓動が彼に伝わりませんようにと祈りを込めてわたしはほんの少しだけ強く月島さんを抱きしめ返した。
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