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尾形百之助

 ぺら、ぺら、と一定の間隔で紙をめくる音が部屋に響く。目の前に座ってる尾形さんは分厚い本をつまらなさそうに眉間にしわを寄せて読んでいた。つまらないのなら読まなければいいのに、そんな本なんかよりわたしに構って欲しいのに、今日だって久々に会えたのにぎゅーもちゅーもなくてわたしの心には寂しさだけが雫を落とした。もともと尾形さんは気まぐれで、わたしがくっつきたいなって思った時に限ってくっついてくれなかったりしたけれど、それとこれとは別だ。目の前に彼女がいるのに、つまらなさそうに読んでいる本に夢中で、一瞬すらわたしの方を見ようとしない。
 ふと目に入っただるだるになった部屋着の襟から覗く太い首と後れ毛が妙に色っぽくてごくりと喉がなる。尾形さんがこちらを見ないのなら、わたしにだって考えがある。いじけたようにしていた三角座りを解いて、すっくと立ち上がり尾形さんの後ろのベッドに腰掛ける。見下ろす角度に尾形さんの後頭部があるなんて、結構新鮮だ。まずはここからの眺めを堪能して、それからゆっくりと顔をうなじに近づけた。

「おい」
「んー」

 太い首にぴったりと鼻先をくっつけ匂いを嗅ぐ。同じ柔軟剤の匂いとそれから少しだけタバコの臭い、あとは男の人っぽいにおい。すんすんと何度か鼻を動かして嗅いでいたら、くすぐったかったのか尾形さんがもう一度お腹に響く低い声で「おい」と言った。

「なんですか」
「嗅ぐな」
「やです」

 ぷい、とその言葉を無視して次はべろりとそのうなじに舌を這わせた。とつぜんの感触に尾形さんが猫のように肩をびくつかせて、ようやくわたしを見た。怒っているような、そうじゃないようなどちらともつかない視線に射抜かれて心臓が高鳴る。やっと目があった、その事実が堪らなく嬉しくて上がって行く口角を隠しもせずに尾形さんの背中に抱きついた。こちらに向けた顔がまた本に戻って、それから本を閉じる音。わたしの脇に差し込まれたがっしりした腕がわたしを軽く抱き上げて、柔らかいベッドに倒された。

「お、おが、おがたさん」
「ははッ、今更何慌ててるんだよ。お前から誘ってきたんだろ?」

 視界に映る天井と意地悪く笑う尾形さん。ぱらりと一房落ちた前髪を撫で付けて、べろりと耳を舐められる。ぞくぞくとした何かが背中を駆けて「ん」とか「ふ」とか、そんな吐息交じりの声が出る。

「尾形さん、本は」
「あれつまらねえ」
「えっと、じゃあ――」
「観念しろよ、名前。お前の蒔いた種だ」

 ぎらりと光った瞳の奥が身体中を甘く締め付けて、近づく顔にうっとりと目を閉じたすぐあとに待ち望んだ感触がふってきた。
 しっかりと彼の何かに火を灯してしまったらしい行動は結果的に彼の視線を独り占めすることになって、行き場のない手を縋るように彼の背に回した。
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