片思いが、こんにも辛いなんて思わなかった。
なんせ今まで恋なんてしたことがなかったから。
適当に付き合って適当に別れる、それの繰り返し。
遊び人って言われてもしょうがないような人間だった。
でも、私は恋ができないんじゃない。
恋をしないだけ。
報われない恋が怖いから、何より、人に溺れるのが怖いから。
だから好きとかそう言った感情とは無縁に生きてきた。
でも、正直に言えば恋をしてみたいと望んではいた。
贅沢な言い方かもしれないけど、追われるんじゃなく、追ってみたいと思っていた。
そうして今、私は片思いをしている。
報われないだろうけれど、貴方に。
意地悪だけど優しくて、一途な貴方に。
灼熱の想いを、密かに胸に閉じ込めて。
ああ、好きすぎてどうかしそうだ。
こんなんなら、やっぱり恋なんてするんじゃなかった、
なんて言うはずがない。
だってこんなに貴方が大好きなんだもの。
この想いが消えたら、私、死んでしまうわ。
「総司どうしたの?そんな浮かない顔して。」
わしゃわしゃと貴方の頭を撫でながらそう言えば返ってきた辛そうに笑う貴方の笑顔。
泣きたいならいっそ泣いちゃえばいいのに、
なんて思ったところで言えないし言う気もない。
「ねぇ名無し、千鶴ちゃんが僕を好きになることはないのかな?」
貴方が私を好きになることはないのかな?
貴方の言葉が私の頭で考えていたことと似ていて嬉しくなる。
だけど内容が内容のせいでその嬉しさは深い悲しみへと色を変える。
貴方が好きなのは千鶴ちゃんであって、私じゃあない。
そんなことはわかっている。
でも、それでも貴方の言動の一つ一つが、私を一喜一憂させるのはまぎれもない事実で。
どんなに貴方が千鶴ちゃんを好きだったとしても、貴方が少しでも私を見てくれるだけで私は嬉しくなる。
そして、私はもっと貴方の虜になる。
「わからない。けど、今の千鶴ちゃんには土方くんしか見えてないよ、多分。そしてこれからもきっとそうだと思う。」
「………そっか。はは…そうだよね。一体何を言ってるんだろうね僕は」
少し、意地悪く言い過ぎただろうか。
目に両方の拳を当て後ろに倒れ込んだ貴方を見て、自分の発言に少し後悔する。
でも私は本当のことを言っただけ。
嘘は言ってない。
そして私も、報われることは、ない。
絶対に。
震える貴方に、手が伸びる。
そっと頭を撫でてあげたくて、頑張ったねって言ってあげたくて。
でも、
「好きなんだ、あの子が。あの子以外考えられない。あの子じゃなきゃ嫌なんだ。あの子が僕のものになるなら何をしたっていいとすら思ってる。こんなに好きになるはずじゃなかったのに」
ボロボロとまるで干からびた泥だんごのようにこぼれ落ちる貴方の想い。
貴方に伸ばしかけた手がストンと重力にしたがって落ちていく。
そして強く拳を握りしめた。
爪が手のひらに刺さることなんて気にせずに。
ギュッと。
痛い。
手じゃなくて、心が。
貴方の言葉の全てから、私じゃ無理だと、私なんかじゃ駄目だと言われているようで。
悔しくって悲しくって、何より虚しくて。
胸が張り裂けそうだ。
依然として顔を隠したままの彼にかける言葉を失った私は、いつも言う台詞を口にする。
「総司、私に協力できることなら何でも言って。」
“私に協力できるなら”
いつも貴方に言う言葉だった。
所詮何もできないけれど、せめて貴方の前だけでも良い女でいたいという私の願望から出てくる言葉。
そしていつも貴方は私に言うんだ、ありがとうって。
私はその一言がたまらなく嬉しい。
ほら、今日もきっと貴方は私に言う。
泣きそうな顔で私にありがとうって。
「ねぇ、本当に何でも協力してくれるならさ、名無し、土方さんと付き合ってあげてよ」
ほらね、いつも通り泣きそうな顔で…
「…え?…ど、ういう……?」
今、なんて……?
私が土方くんと付き合う?どういうこと?
だってそもそも土方くんは千鶴ちゃんじゃなくて、他のクラスに好きな人がいるんじゃなかったっけ?
…まさか。
まさか、土方くんの好きな人って…。
そこまで考えて、思わず私は笑ってしまった。神様はどこまでも酷い仕打ちを私たちにしてくれるらしい。
「名無し、ごめん。今のは忘れて。君を混乱させたかった訳じゃないんだ。本当にごめ…」
「分かった。私土方くんと付き合うよ。それで総司が喜ぶならね」
だからさ、少しでいいから、
私を見てよ。
なんて。
死んでも言うわけない。
矢印がすれ違う
貴方の言葉を遮ってそう言った私を、貴方の見開いた目が貫く。
まっすぐと。
貴方が喜ぶなら、私はなんでも、
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主人公→沖田→千鶴→土方→主人公の無限ループでした。恋って難しい!でも片思いって萌える(爆)