昔から私は教師という職業と馬があわない。いや、馬があわないなんて生易しいものじゃない。猿と犬、嫁と姑、トムとジ〇リー並みに、仲が悪くなるのだ。お互い逆方向を突っ走って、交わることなんか一回もないわけで。
これでも私は好かれようと努力しているのだけど、生まれ持った才能なのか、教師と仲良くなれたためしがない。
それどころがことごとく嫌われた覚えしかないから困りものである。
一応模試や定期テストでも上位に必ず入っているし、目立って悪いところはないはずだ。しかし、私は嫌われる。
もうこれは前世に相当悪いことをしたのか、と泣きたくなるくらいだ。
「…なんでこうも嫌われるかなぁ〜」
はぁ…とため息をつけば周りの友人から励ましの声をかけられる。
友達は少なくはない。一応仲良し認定の友達ならたくさんいる。これといって信頼はしていないが。
私は基本的に他人を信用したり自分をさらけ出したりするタイプじゃないし、どちらかと言わなくとも性格は悪い。だからこそ誰からもこれといって好かれないのだろう。
教師に嫌われるのも、もしかしたらこの性格故なのかもしれない。
「なんでそんなに難しい顔してるの?」
眉間にシワよってるよ、そう付け足して私の前の席に後ろ向きに座り込んだ沖田。彼は私がこの薄桜高校に入学して初めてできた男友達。嫌みしか言わないが悪いやつじゃない。
「ねぇ沖田、私がなんで教師に嫌われるか知ってる?」
「何、君まださっきのこと気にしてるの?」
「だってー」
さっきの古典の授業を思い出す。顔は良いくせに性格が短気そのものの教師、土方に何度も何度も嫌味を言われた授業を。
「いくら私が嫌いだからってあんなこと言わなくてもいいじゃん」
「別に名無しのことを嫌ってる訳じゃないと思うんだけど」
そう言ってポケットから飴をとりだし口に放り込んだ沖田。いる?なんてきかれたのでなかば引ったくるようにその飴をもらう。
「あんなに教師が嫌味を言う?絶対私が嫌いなんだよ」
飴をコロコロ舌で転がせば甘さが口一杯に広がる。だがそんなものでこの気持ちが収まるはずもなく。
「別にいんじゃない?教師の一人や二人」
「よくなーい!成績がっ、推薦がぁ」
そうだ、そうなのだ。別に嫌われてるならそれで構わない。ただ、私だって学生である。大学の推薦に関わってくるとあらばこの状況を考えなければならない。ただでさえ第一志望の高校に落ちてこの高校に来たのだから、大学は絶対に良いところにいきたい。
「名無しの頭なら推薦無しでも良いところに行けるでしょ」
「私、確かなものしか信じないから」
そう捨て台詞を吐いて机に突っ伏す。沖田が頭をつんつんつついてくるのに、んー、とだけ言葉を返す。
「じゃあさ、僕が土方先生に聞いてあげようか?」
「なんて?」
「名無しのこと好きですかー?って」
「率直すぎるよ、うん」
沖田は土方先生が剣道部の顧問だからか、土方先生ととても仲が良い。というより沖田が一方的に土方をからかっているのだが。
「沖田に聞いてもらうなら、斎藤くん辺りに聞いてもらおうかなぁ」
斎藤くん、彼はスーパーマンだと私は思う。勉強が出来れば運動神経抜群、しかも顔も良い。おまけに性格も素晴らしいとくれば彼には欠点がない。先生や友人からの信頼も厚い。
「なんで一くん?僕じゃだめなの?」
「うん、沖田が行ったら絶対嫌なこと起こすから」
「なにそれ、僕がそんなことするように思う?」
「思う」
「うわ、即答」
酷いなぁ、なんていいながら笑う沖田も顔は良いし運動もできる。悔しいが頭も良かったりするから嫌になる。しかし、彼には決定的な欠点がある。性格だ。こいつは人の困った顔を養分に生きる悪魔だ。
「って言うかさ、いっつも名無しって僕の前で他の男の話するよね」
へ?、そう声を上げて突っ伏した頭を持ち上げる。急に明るくなった視界に目が眩む。
「君の口から僕の話を聞いたことがない」
「何急にそんなこと言って…」
そこで私の言葉が詰まる。だって、沖田があまりにも真面目な顔をしていたから。
「僕、名無しのことが好きなんだけど?」
なんだこれは。
またいつものたちの悪い冗談だろうか。ってか、へ?好きって誰が誰を?沖田が、私を…?
「いやいやいやいや、まさか!沖田冗談は」
「冗談じゃない」
そう言って私の手を掴む彼の目はいつになく真剣で。まさか、本当に?
「あの、私、えっと、…」
「…ぷ、あはは、はははは!」
「えぇ!?」
急に腹を抱えて笑いだした沖田。やられた。これはあれだ、からかわれたパターンだ。まだクツクツと笑いをこぼす沖田を睨み付ける。
「嘘だよ、嘘。名無しって案外うぶなんだね」
「う、うるさい!」
したり顔の沖田。このSめ、ドSめ。ああ、本当に恥ずかしい。
「あ、次の授業始まるや。じゃあね、うぶな名無しさん」
ヒラヒラと手を振りながら自席に戻る沖田にあっかんべをした自分は餓鬼なのだろう。火照った頬に手をあてながら彼を見ていれば不意に振り返った沖田と目が合う。
「さっきの、嘘じゃないから」
真面目に検討してね、なんて言って席へと歩いていく後ろ姿を、私はただ眺めていた。
真っ赤な頬をして。
その恋、やめます。
「おい彼女、あいつに教師を敬う気持ちを教えろ」
廊下で土方先生に呼び止められ頼みごとを受けている。否、脅迫されているの間違いだ。
「土方先生、彼女って呼び方やめてもらえませんか?」
「じゃあ沖田名無しか?」
「なんでそうなるんですか?私はまだ沖田に返事をした覚えがないんですが」
ニヤニヤと笑う土方先生を睨む。だいたいなんでこの人は私がまだ告白の返事をしてないのにこんなことを言えるのか。
「どうせ付き合うんだろ?ならかわりねぇだろうが」
「教師の言う台詞じゃないですよ絶対」
なんなんだ一体。何故私はこんなにいろんな人にからかわれるんだろう。今日は朝から斎藤くん、原田先生に永倉先生、中学にいる後輩の藤堂くんにまで同様にからかわれた。いや、まず先生が生徒をからかっていいのだろうか。
「まぁ、どちらにせよ早く返事してやれよ」
ヒラヒラと手を振りながら職員室に向かう土方先生。その後ろ姿を少し前の私なら、純粋にカッコいいと思っただろう。でも、今は踏ん切りがついた気がする。土方先生が好きだった、いや、憧れてた自分に、さようなら。
沖田の気持ちは嬉しい。けど返事はあともう少し待っててほしい。そうしたら、きっと貴方の横を堂々と歩いていけるから。
はぁ、とため息を吐いて歩いていく。
「名無し、今日こそ返事を聞かせてよ」
結局私が先生仲良くなる方法はないようだ。
「いいよ。私の返事は…」
だって、私はきっと貴方と付き合うのだから。
この恋、始めます。
(やっと僕を見てくれた)
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沖田→主人公→土方からの沖田×主人公
書きたいものを書きなぐったらこうなりました。ごめんなさい