騙して笑って欺いて私の否定の声に波打つ空気。ピクリと眉を動かした者、無表情のままの者、心なしか安堵したような顔をする者、そしてニコニコと妖しげに笑う者。それぞれが個々に反応を示しているのが容易に見てとれた。誰がどんなことを考えているかは別として。まぁ少なからず、私の発言内容がここにいる大半の人間によく思われていないことは確定している。「本当に何も知らないのか?何も見てないのか?」先ほどまでのおちゃらけた少年はどこにいったのか、藤堂が私を問い詰めるように言葉を発する。だが、ぶっきらぼうに言葉を放つ彼の顔に、様々な感情が伺えた。疑っているのに、私の状況をかわいそうだと感じているような、そんな表情。一瞬、本当に一瞬だけだったけど、私に対して同情の色が映っていたように感じた。やはり、藤堂はまだ幼い。見ず知らずの私のような者に情けをかけるなんて、いざとなったときお荷物になるだけだ。「本当に知りません。何も見ていません」念をおすようにもう一度、はっきりと言い切る。揺らいでは駄目だ。少しでも動揺すれば、この人たちを騙すことなんてできない。「あれ、総司の話じゃお前が隊士たちを助けてくれたって話だが」永倉が私を睨みながらそう言った。まったく、私が隊士を助けたなんて嘘はどこからくるのだろうか。「ち、違います、私は浪士に追われて、逃げた先で貴方達に捕まっただけです」慌てたように永倉に言葉を返せば彼はうーんと唸り始めた。「でもよぉ、総司の話だとそうだと聞いてるしよ、その隊士たちもみんなお前に助けられたと言ってんだが」私の言葉を聞いていないかのようにもう一度同じことを言う永倉。まるで私の口から何かを聞きたがっているような…そう思っておもわず息を飲み込む。ハッと。( 24 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-