自己紹介はどちらの私をどこかまだあどけなさの残る声を聞き、声がした方を向く。声の主、藤堂平助――とうどうへいすけは胡座をかきながらこちらを見ていた。高く結われた髪に童顔な顔が印象的な彼に、つい頭を撫でてしまいたい衝動にかられる。「ちっちゃいしほそっこいなぁ。まだ餓鬼じゃんコイツ」餓鬼?と、一瞬誰のことを言っているのかと思ったがよく考えてみれば私のことだろう。現代にいたときの年齢と、雪村千鶴としての年齢を換算すると、私の年齢は30歳を余裕で超えている。今は千鶴としての年齢だから身体は子供だけど、精神は完全に成熟している。つまり、餓鬼と言われるにはずいぶん抵抗があるわけで。彼の言葉に少なからずイラッときたのだが、彼の可愛らしさに免じて聞かなかったことにしよう。じろじろとこちらを見る可愛らしい少年を、気持ちやや不機嫌に見やった。「お前が餓鬼とか言うなよ、平助」「だな。世間様からみりゃ、お前も似たようなもんだろうがよ」藤堂の回りに座っていた永倉と原田に子供扱いを受け、藤堂は歯向かうように二人に言い返す。その姿はまるで現代と変わらないそれ。彼らが本当に人を殺す浪士集団には見えない。まぁ、人は見かけによらないからなんとも言えないが。原田左之助――はらださのすけと、永倉新八――ながくらしんぱち。大人らしからぬ彼らの笑顔に、どうしても羨ましいと思ってしまう。今の私は、他人と心の底から笑えないから。「よさんか!三人とも!」ふざけあっていた彼らを一喝する声。声の主は、新選組局長の近藤勇――こんどういさみだ。叱るような彼の声は、とても暖かく芯がある。その声だけで、近藤の人柄がわかる気がした。「五月蝿い方ばかりで申し訳ありません。怖がらないで下さいね?そこを閉めてお座り下さい」優しげな声音でそう言った男、山南敬助――さんなんけいすけ。にこりと優しそうに笑う山南の瞳になにか別の色が見えた気がした。まるで、私を探るような、そんな色が。きっとこの人たちは一筋縄じゃいかない。私は別の世界の人間であり、何より羅刹について詳しく知っている。だから絶対に悟られないように、勘づかれないように。自分を偽って、欺くしかない。「俺の名は近藤勇だ」そう言って笑顔でこっちを向く心の綺麗な男。しかしその笑顔は私の目を焦がし、その声は尋問を始める合図のように、私の頭に響きわたる。波打つように、ゆっくりと。私の名は相澤桔梗。現代では医大生をやっていた、ごくごく普通の人間です。なんて、口が裂けても言えないのだけれど。(許されるならもう一度)(その名を口にしたい)(っていうのは私の我儘ですか?)to be continue...-------------長くなりそうなので章を分けることにします。誤字報告、感想等ありましたらお気軽に(^^)!薫はなんであんなに可愛いのだろう……←( 22 / 41 )[ *prev|next# ] ←back -しおりを挟む-