08:自己中な優しさはいらない




「山田〜、飯行こーぜー!」

「わ、スゲーな!88点じゃん!オレなんか23点だぜ?」

「今日部活ねぇんだ。途中まで一緒に帰れるな!」

「山田は体育祭、何にでるんだ?」



「ナイスファイト! 山田って意外と動けるのな」
「……どーも」


なんか君、最近妙に絡んでくるね??

――――――
―――



じゃあオレも行ってくるわ!と 元気に100m走へと向かった山本をひらひらと送り出し、近くの日陰へと避難する。連日の苦労を思い出し、はぁ、とため息がこぼれた。

彼のことは、嫌いではない。むしろ好感を持てる人物だ。誰にでも分け隔てなく接するし、あれでいて気配りができる。顔良し性格良し育ち良しなんて男性は、ここでも向こうでもめったにいない。前世の私であれば「山本君カッコいい!」だなんて周囲と盛り上がっていたことだろう。
だがそれも、今や昔の話だ。山本に限った話ではないが…、彼がこの世界の重要人物でありマフィア関係者である以上、私は彼との接触を避けるべきだし、私自身、必要以上の関わりをもちたくない。しかしこっちの思いとは裏腹に、彼は最近妙に接触をはかってくる。…謎だ。そして迷惑極まりない。はじめこそ自身の全力をもって避けていたのだが、常にそれでは私の身が持たない。”あれ”はあまり、燃費のいいものではないのだ。

皮肉にも少し使い慣れてきた”それ”を、何となしに発動させる。……何度やってもこの景色にはなれない。おそらく後天性だからっていうのもあるだろうけど、こうも視界が回るとは。もはや日課じみてきたいくつかの事柄だけを確認し、すぐに発動を解く。少し、ほんの少しだが、以前より反動も弱まった気がする。


自陣の応援席ではA組の総大将…、ではなく 盛り上げ役である笹川先輩が、ビシバシとチームメイトに喝を入れていた。あんなに燃えている応援席へ戻るのは気乗りしない。しばらくここにいよう。そう決め込み壁へともたれかかっていれば、丁度競技をおえてこっちへきた斉藤にぐいぐいっとわき腹を小突かれてしまった。痛い。加減されてるんだろうけど地味に痛い。そして何故そうも元気なのか。

「最近やけに山本と仲いいじゃんか〜。なに?もしかしてそういう感じ?」

妙に楽しそうだとおもえばそういうことか。てっきりサボっていることを注意されたのかと思ったが、どうやら彼女の興味は別のところにあったらしい。

「ちがうよ…。全然、まったく。斎藤のネタになるような関係じゃないって」
「ええ〜。毎日 弁当一緒に食べてるのに〜?」
「食べてません。それに、あったとしても小鳥遊さんたちも一緒」
「それはそれでおもしろいよね〜」

ケタケタと、それはもう愉快そうに笑う彼女に顔をしかめる。ちっ、他人事だからって。こっちは本気で困っているというのに。


「ほらほら、噂の彼が走るよ!」

斎藤に指摘された方をみれば、山本が今まさに走り出したところだった。彼は両隣の選手たちをぐんぐんと突き放し、見事1着でゴールテープを切る。

「すご。あいつのとなりに走ってたの、陸上部のホープだよ?」
「あー、ほんとだ」

遠くに見える彼は、女子からの黄色い悲鳴や男子からの賛辞の言葉に笑顔で応えている。すごいよね。あんな明るい人気者が、将来マフィアだなんて…。世の中何が起きるかわかったもんじゃない。その姿をぼーっと見ていれば、不意にこちらへ振り返った彼とバチンと目が合った。…わっ、めっちゃこっちに手ぇ振ってくるんですけど。


「(みてた?)」

声は聞こえないけれど、たぶんそう言ったのだと思う。

「(みてた、みてた)」

そういう意味も込めて、ひらひらと手を振り返す。……隣からの視線が痛い。



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