00:元には戻らない




身にまとう可愛い制服。『並盛中学校』とかかれた校門。下駄箱にある彼らの名前…!どれもこれもが自分の心臓を高鳴らせ、自然と口角がつりあがる。
ああ、イケない。こんなところを誰かに見られたらどうするの?落ち着いて…、深呼吸………。

「(嗚呼だめ!やっぱり我慢できない!!)」

指の隙間から ふふっ、とまだ聞きなれない自分の声がもれだす。玄関に飾られた大きな鏡に目を向ければ、そこに映る『小鳥遊 新奈あたし』もこっちをみて笑っていた。




あの日、夢の中に現れた美しい男はこう言った。

『君の願いを叶えてあげよう』 と。

その時は、彼が何を言っているのかさっぱり見当がつかなかった。その意味がわかったのは、夢から目覚めてほんの少し経ってから。見知らぬ部屋の窓に映った自分の姿をみつけた時。だってそこに映っていたのは”あたし”であって”あたし”ではない少女の姿だったから。

陶器のように透き通った白い肌に、誰もが憧れるモデルのような体。お人形のような愛らしい容貌は、まさに自分が理想としていた『小鳥遊たかなし 新奈にいな』そのものだった。
そこでようやく、あの言葉を理解したの。あの人はきっと神様で、あたしの願いを聞き入れてくれたんだって!ここはあたしがずっとずっと焦がれ描いていた、あの夢小説の世界なんだって!!

【これから先は 君次第】

テーブルの上には”素敵な指輪”と一緒にそんなメモ書きが用意されていた。
神様ったら、どうやらあたしのことが本当に大好きみたい!だってそうじゃなきゃ、こんなに親切にしてくれる説明がつかないでしょう?
今なら確信して言える。あたしは神様に愛されているんだ、て。

――――――
―――



「転校生…?こんな時期に?」
「うん、色々と親せきの都合で…」
「あぁ、なるほどね」

下駄箱で運よく見かけた女の子に、職員室まで連れて行ってもらう。良かった。勢いでここまで来ちゃったから どうしようかと悩んでたところだったの。転校生なのにそのまま1−Aに向かうのは変だもんね。

「つい先週も うちのクラスに転校生が来たばっかりなんだ」
「ぇえ!そうなんだ!すっごい偶然!!」
「だよねぇ。だからわたしのクラスではないだろうなー」
「ふふ、そうかな?まだわからないよ?」

だってその転校生って、獄寺隼人のことでしょう?彼が転校してきてすぐにニーナが転校してくるってお話だもん。もちろんおんなじクラスに!ああ!はやくみんなに会いたいな!

「あそこが職員し―
「んあ?お前こんな時間にここで何してんだ??」

女の子が部屋を指さすのと同時、丁度その部屋から男の人が出てきて、その子の言葉を遮った。

「…おはようございます、先生。転校生が道に迷っていたので、その案内をしてました」
「ああ〜、わりぃな。迎えに行くのが遅れちまって…。小鳥遊、であってるよな?」
「はい!今日から転校してくる小鳥遊 新奈です!よろしくお願いします」
「お!元気いいな〜。こちらこそよろしく。てーことで、俺がお前の担任になるわけだが…」
「え、またうちのクラスに?」

ほらやっぱり。あたしが書いてた小説どおり!

「そーだぞぉ。お前も仲良くしろよな。…あ、このことはクラスの奴らには内緒な!あいつ等へのサプライズだ」
「はーい」
「よし。…っと、あとお前、今日で遅刻3回目だろ。ちゃんと反省文書いとけよ」
「……。」
「わかったら返事!」
「…はーい」

そう不満げに返事をしたその女の子は、それからスタスタと来た道を戻って行った。…あ。お礼、言いそびれちゃったなぁ。

「ったく、山田のやつ、最近遅刻してばっかだなぁ。前はそんなことなかったってーのに」

山田…?あれ?もしかして…

「花子ちゃん、ですか?」
「お?なんだ、もうそんな仲になったのか。いや〜関心関心」

あぁそっか、あの子が花子ちゃんだったんだ。全然気がつかなかったや。でも言われてみればそんな感じかも…。隣でうんうんと頷く先生に、「そうじゃなくて、これからお友達になるんですよ」と答えれば、先生は不思議そうに首をかしげた。


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