2.5




「よっ!」
「…また来たの?」

山本って意外とマメだね、なんて呆れたように言う山田に、ハハッ、と笑い返す。

ここに来るのは今日で3回目だ。山田が言うには、この間ツナ達が見舞いに来た以来こうして見舞いに来るのは俺ぐらいで、ほかの連中は誰も来ていないらしい。はじめそれを聞いたときは驚いたけど…、よくよく思い返してみっと、山田って一人で行動してることが多いんだよなぁ。もしかしたらこいつ、特別仲がいい奴いねーんじゃねぇか?そう考えたら、なんかすげぇもったいねぇなって。

だから最近は、時間があればここへ見舞いに来るようにした。だってこんないい奴なのにダチがひとりもこねーなんて、そんなの寂しいじゃねーか。そんなら俺が来ればいいだけの話だろ?山田のこともっとよく知りてぇしな!


「ほい、今日はチョコレートな!前に山田からもらったやつ」

そういって学校のプリントと、コンビニで買ってきた菓子を渡す。ここに来るときはいつもそうだ。はじめは親父の握った寿司。この前は商店街の焼菓子を持ってきた。

「毎回毎回悪いよ…。山本からはもう充分もらってる」
「そーもいかねーって。ケガさせちまったのはオレたちが悪いわけだし。それに前のは宿題教えてもらった礼でもあっから!……つーわけで、悪いんだけど今日も教えてくんね?」

苦笑いで数学のプリントをバックから取り出せば、山田は渋々といった様子で「いいよ」と返事をしてくれた。やりぃ!


――――――
―――


「―……で、−Xを移行させると+になるから…」
「おお、なるほどな…。わかってきた!」
「よかった。じゃ、残りも同じ要領だからやってみて」
「りょーかい」

ベッド脇に備え付けられた小さなテーブルで残りの問題も解いていく。山田の説明はすごくわかりやすい。俺なんかよりずっと頭いいしな!学校でも、クラスの女子に教えているところをみかけたことがある。でもここんとこ、山田の雰囲気はちょーっと変わった気がする。前はもうちっと気さくだったつーか、無邪気な感じだったつーか……。前から大人びた奴だったけど、更に落ち着いたような…?まぁ すっげー仲が良かったってわけじゃないから、俺の気のせいかもしんねーけど。

なんとなくプリントから目を離して山田のほうを見れば、山田は窓のほうを見ながら大きなあくびをこぼし、くしくしと目じりをさすっていた。よくみれば目の下がうっすら茶色くなっている。

「寝不足か?クマできてんぞ?」
「あぁ…まぁ、そんな感じ……。慣れない部屋だからか、寝つきがよくなくてね」
「確かにな。 あ〜、あんまこすんなって」

相手の右腕をぐいっとつかみ、右目をこするのをやめさせる。自然と向き合った瞳が大きく見開かれ、その中に自分の顔が映りこんだ。
刹那―。山田の片目がチカリと違う色に光ったような気がした。おもわず、ずいっと顔を寄せると、山田はさらに目を丸くし、見慣れた黒い瞳がパチパチと瞬きを繰り返す。

「……山本、顔 近い」
「! あ、わりぃ!!」

パッと腕を離し、椅子から浮いていた腰をもとに戻す。やば、つい夢中で気づかなかった。急に照れ臭くなってきて、バツが悪いように頬をかく。改めて見ても、山田の瞳はやっぱりいつも通りだ。……見間違いか?

「……なに?」
「あ、いや、こっちの目が一瞬 黄色っぽく見えてさ。カラコンでもつけてんのかなーって。でも気のせいだったわ!」

そう言いながら、とんとん、と自分の右目の下を指させば、向こうは一瞬ぎょっとしたような顔をして、それからサッと自分の右目を手で覆った。

「……太陽の光でも反射したんじゃない?こんな夕焼けだし」
「ああ、なるほどな。そうかもしんねぇ!」

いわれたほうに顔を向ければ、確かにまぶしいくらいの夕焼け空が広がっていた。

「宿題、おわったの?」
「山田のおかげであと1問のところまできたぜ!」
「そう…。ならそれ終わったら帰りなよ?日が伸びてるとはいえこんな時間だし」
「ん」

淡々という山田に小さく返事をする。ホントはもう少し、しゃべっていたいんだけど…。向こうは寝不足みてーだし、迷惑もかけてらんねー。


帰り際、「また来るわ!」といえば、山田は困ったように眉を下げて、何も言わず手を振った。



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