「ちょっと気になってたんだけど、沢田と小鳥遊さんって付き合ってるの?」
「はあっ!!!??!?!」
美味しそうに並ぶケーキディスプレイを前に そんな質問を投げかければ、彼は大きく顔をぶんぶんと横に振った。うーん、この否定っぷり。本人傷つくぞ。
「ブルーベリータルト1つとオペラ1つ、あとフロマージュタルト1つお願いします」
「はい、全部で3点ですね。少々お待ちくださいませ」
もちろん、2人がそういう関係だなんてこれっぽっちも思ってはいない。ようは話の起点として、だ。
「冗談だよ。 けどそれぐらい、君たちって仲いいから」
店員が用意したケーキの内容を確認し、「大丈夫です」と声をかける。お会計は…、沢田がきちんと支払ってくれるようだ。
「ちょっと羨ましい」
「? 山田だってニーナと仲いいだろ?」
「うーん…。案外そうでもないよ」
小鳥遊さんは、学校の自由時間のほとんどを沢田たちと共にしている。故に他のクラスメイトとの交流がほとんどなく、今では一部の女生徒から相当嫌われてしまっているようだ。理由はまぁ……、想像に容易い。あのふたり無駄にモテるし。そんな中でも、私は席が近いこともあって小鳥遊さんと話す機会が多々ある。沢田にそう誤認されるのも不思議ではない。けれども―。
「実をいうと小鳥遊さんのこと、あんまり知らないんだよね。本人に前の学校のこととか住んでた場所のこととか聞いても はぐらかされるばかりで」
彼女の口から出てくるのは大抵 沢田たちに関することばかりだ。おかげでそっちの情報収集はかなり捗っているのだが、肝心な小鳥遊さん自身についてはわからないことが多い。特に”転入前”のことについては…。言いたくないのか、それともただの同級生には教えられるような内容じゃないのか、その手の話題を振るとあからさまに話をそらされてしまう。
「沢田は知ってる?小鳥遊さんが並中にくる前の話」
「ええ!?突然言われても…。そんなこと聞いたこともないから」
「ほんと?あんな仲いいのに?気になったりしないの??」
「い、言われてみればそうかもしれないけどっ。 なんかもう、普段がそれどころじゃないっていうか。いちいち気にしてられないっていうか…」
「……あぁ」
確かに…。あの赤ん坊と出会って以来、それはもう波乱万丈な日々を送っているもんね。ご愁傷さまです。「沢田も大変そうだね」なんて労わりの言葉をかければ、彼は「ははは」と乾いた笑いをこぼした。……結局何もわからず仕舞いか。まぁでも、”何もわからなかった”というのも、ある意味では貴重な情報だ。…うん、今回はこのあたりで十分だろう。これ以上一緒にいるとよくない人物が出てきそうだし。
「ケーキありがとう。夏休みの補習、がんばってね」
「もう最悪だよ…。せっかくの休みだってゆうのに」
「テスト勉強と課題をさぼった罰でしょ。自業自得。ていうか、すぐ近くに頭のいい2人がいるんだから どっちかに教えてもらえばいいのに」
「いや、あの2人とはそもそも頭のつくりが違うって。俺なんかじゃ無理無理。ニーナにいたっては見たもん”全部”覚えられるっていうし」
「は?全部??………ねぇそれってまさか―」
そう言いかけた言葉は、新たな人物によって阻まれた。
「ツナももう少しマシな頭だったら、こんな苦労しねーのにな」
「「!!?」」
「んげ!??リ、リボーン!!おま、オレのクラスメイトにこれ以上関わるなってい
「よっ、ハナコ。退院したんだってな」
「無視すんなよーー!!!」
いつの間にか店先で構えていたスーツの男に、驚きながらも目を向ける。まさか本当に出てくるとは。一体いつからそこにいたんだよ。多少は身構えていたとはいえ、実際に出てくるとなると大変心臓に悪いのでやめていただきたい。
「こんにちは、しょーねん。前にも会ったね。誰のツレかと思えば…沢田の弟だったんだ」
「ちげーぞ。オレはツナのかて
「わああああああ!!ストップ!!ストッぶへぇえ!!」
「わぁお……デジャヴ…」
しくしくと赤くなった頬を抑えて泣く沢田には 同情を禁じ得ない。普段からこんなやり取りがされているのか。嫌でもタフになるなぁ。
「んじゃあ…ケーキも貰ったし、沢田のお迎えも来たようだから、私もそろそろ行くわ」
「ん?帰んのか?」
「うん。予定あるからね」
まあ一番は、君と長居したくないって理由だけれど。隠してはいるつもりだが、この赤ん坊にはもうバレているかもしれない。
「それにこんなところ、本命の笹川さんに見られたくないでしょ?」
「なっ!!!」
先ほどとは 別の意味で頬を染める同級生にクスリと笑みを向ける。
「なんでそれを…」
「あんなの見てれば誰でもわかるし…、うちの学校で知らない人なんているの?」
パンイチ告白事件、有名だよ?なんて追い打ちをかけるように告げれば、彼は言葉にならない声を発しながら、耳まで赤くなった顔を両手で覆った。
青春だね〜。
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