私のこの世界に関する知識は、所詮は漫画から得た浅はかな知識だ。作中で描かれていることだけがこの世のすべてだとは思っていないし、描写がなくとも、その裏側では多くの出来事やそれに関わる人々が存在しているであろうことは理解している。原作では見たことのない、知らない人物がいたとして、それはなんらおかしい話ではない。

けれどその知らない人物が、『小鳥遊さん』だった というのはおおいに問題だ。

考えてもみてほしい。ヒロインに引けを取らない容姿と、トップクラスの頭脳と身体能力を兼ね備えた少女が、物語の中心地に突然現れたとする。そしてその後、数日と経たず主人公らと行動を共にする間柄となり、最近では何らかの出来事…、沢田の言う「変な試験」に 巻き込まれた・・・・・・ のではなく、参加していた・・・・・・ような人物が、本編では一切触れられない、あるいは記憶に残っていないなどありえるのだろうか?

……否。そんなの到底考えづらい。彼女はあまりにも”非凡”だ。

となると何故、そんな事態が起きてしまっているのかという疑問がでてくる。
単に私の記憶がすっぽりと抜け落ちているだけ?…いやいや。ほかの人物は思い出せているのに彼女のことだけはまったく、なんて そんな都合のいい話ないでしょう。
考えられるとするならば…、私という異分子が存在したがゆえのイレギュラー、だとか。あるいはもともと、この世界は私の知る原作とは全く異なる世界線である、だとか。はたまた彼女が―…。


答えの出ない疑問。確証のない仮説ばかりが頭をぐるぐると回り、小鳥遊さんへと向けた瞳がほんの少しだけ揺らぐ。


「うん、へーき。…見た目はすごそうに見えるだろうけど、案外、心配いらないから」

だめだ。何一つわからない。どれも情報が少なすぎる。そもそも小鳥遊さんがこの並盛にやってきた理由も、一般人なのかマフィア関係者なのかもわかっていないのだ。ここで下手に動揺してみせれば、となりの赤ん坊やこの謎の少女が何を勘繰るかわからない。あくまでもごく普通のクラスメイト同士として、冷静にやり過ごしていくしかない。

「小鳥遊さんこそ大丈夫だった?ケガ、してない?」
「!! うん、あたしは全然大丈夫!」
「そう…。なら良かった」

無難な言葉を返していけば、小鳥遊さんは えへへ、と嬉しそうに笑った。

「しっかし、まさか山田が音にびっくりして気絶するとは思わなかったな〜。最近のおもちゃって すげぇリアルにできてんもんな。俺もはじめはビックリしたぜ!」
「………私もびっくりしてる(君の勘違いっぷりが)」
「あ! そういえばあの時、突き飛ばしちゃったりしてごめんね。あたし、つい夢中で花子ちゃんがいたことに気づかなくって」
「ううん。私もよそ見してたからお互い様。……でも、あんなところで何してたの?」

これを…聞いてもいいのかは、少し迷っていた。聞いてしまえば、嘘であっても彼らの事情に触れることになるだろうから。けれど被害を受けた側として、その話題にまったくふれないというのもおかしく思われるだろう。(特にこの赤ん坊には)
少しの不安を覚えながらも、自分と彼らの状況を知るいい機会かもしれないと、そう疑問を投げかける。

「入ファミリー試験を開催してたんだぞ」
「え」
「あ、バカ!変なこと言うなって!!」

しかして、そうした軽率な発言は、一番厄介な人物から返されることとなってしまった。しかも偽りなく直球で。言わなきゃよかったかもしれないと、背筋に嫌な汗が滲んだ。

「マフィアの素質があるか、2人にテストしてたんだ。ハナコも受けるか?」
「………なんか怖そうだから遠慮しとく」
「そーか。 残念だな」

そういってニヒルな笑みを浮かべた男の心情はまるで読み取れない。

「ねぇ リボーンくん。あの試験またやらない?あたし、保留なんて中途半端でやだよぉ」
「ええええ!?いや、やめておこうよ あんなこと!ほんと、次はシャレんなんないって!」
「10代目のいう通りだ。何度やっても結果はみえてらぁ」
「でもあれって、山田がケガして中断になったからだろ?もう一回くらいチャンスあってもいんじゃね?俺だけ特別合格ってのもな」
「んだと野球バカ!10代目に意見してんじゃねぇ!!」
「ちょ、獄寺君!ここでそれはまずいって!!」
「ほら、武もこう言ってることだし。 ね?お願いっ!もっかいやろ〜よ〜」
「気が向いたらな」
「えぇ〜〜」
「……。」

……うるさ。


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