平和島静雄がおかしくなった。
池袋の街にいない。
家に引きこもっているらしい。
何故なら――…

まことしやかに流れる噂。





「やあ化け物、元気?」
「………。」
「布団にくるまっちゃってさ、人のことノミ虫とか言えないよ?それ、どう見ても蓑虫だし。」
「……せえ…。」
「大体化け物の癖にナイーブとか冗談じゃないよね、めんどくさ。そうじゃなくても君はその馬鹿力でさあ、」
「うるせえ!」

ガチャン、パキン。
声にあわせるように弾け飛んできた目覚まし時計が俺の頬を掠め真横の壁に激突、粉砕。まだまだ働けただろう元目覚まし時計現弾丸は誰にも触れることなく短い一生を終えた。

「あ…。」

そしてその光景を見て小さく怯えた声を漏らしたのは俺ではなくシズちゃんだ。

「ああ、やっぱり本当だったんだね。」
「……。」

誰にも、そう、シズちゃんにすら触れること無く跳ね上がり砕け散った目覚まし時計に目をやる。

「ポルターガイストとか言うんだっけ?超能力とかますます人外じみてきたね。良かったねシズちゃん、これでますます」
「黙れ!」

ガチャン。

話しながら一歩踏み出すと今度はシズちゃんの近くに置いてあったコップが弾丸に変わり、生涯を終える。

「っ…!」

そして息をのむのはまた俺ではなくまたシズちゃん。

「…嫌ならやらなきゃいいのに。」
「…それができれば苦労しねえんだよ…こっちくんな、帰れ、頼むから。」

懇願するような視線、言葉。だが俺はそれを無視してさらに踏み出す。

「大体さ、シズちゃん何様なわけ?」
「くんな…!」

パキン。
可哀想な携帯が砕け散る。

「俺に命令とかさ、いつの間にそんなに偉くなったの。ねえ。そんなに俺を見たくない?」
「っ…違う、来んな!」

足が縫い止められたかのように重くなる。
こんなこともできるのか、まあどうでもいいけど。

「違う?何、俺に危害を加えるのが怖かった?反射的にやっちゃうから?コントロールがきかないから?」
「解ってるなら…っ!」

バサリ。
飛んできた本を払いのけながら、シズちゃんの前に立つ。

「ふざけんな!」

びくり、シズちゃんが震えた。

「付き合ってるとはいえ俺は君とそんな甘い関係になったつもりはないよ!俺が望んだのは対等の関係だ!守られたり気を遣われたりするなんて死んでも」
「うるさい!」

シズちゃんの声に遮られるように俺の声が止まる。…と言っても別に俺がシズちゃんの声にびっくりしたとかそういう訳じゃなく、物理的に声がでなくなった。
口が、開かない。

「お前がどう言おうと俺はこれ以上余計に傷つけたくねえんだよ…!せっかく力がまともに扱えるようになってきて、ようやく、ようやく人に触れられると、思ったのに…!」

何かしたか俺。
何でまたこんな。
こんな力、要らないんだ。
要らないんだよ。

そこまで言って俯いてしまったシズちゃんに俺は言葉をかけることができない。物理的にも、精神的にも、だ。



だから、撫でてやった。


体で感情を伝えるのはシズちゃんが得意なことで俺はそんなに得意じゃないけど仕方ない。お得意の言葉は今は封じられているのだ。
腕を伸ばして金髪に触れるとまたびくりと震える肩。怯えているようだ、触れられることに。

(馬鹿だなあ。)

そもそもシズちゃんが本当に、本当に来てほしくないなら俺がここまで近寄れる筈が無いのだ。それを防ぐだけの力が今のシズちゃんにはある。
なのに俺はここにいる。

本当はシズちゃんは、心細かったんだろう。
制御のきかない未知の力に目覚めてしまったことはシズちゃんの力のトラウマを抉るには十分すぎる。
昔を思い出して、傷つけるのが怖くなって。
君は、本当に、

「馬鹿だね。」

塞がれる力の無くなった唇が動き、するりと言葉がこぼれ落ちる。

「シズちゃんの化け物度がちょっと上がったぐらいで俺がどうにかなるわけ無いじゃない。何年一緒にいると思ってるの。ていうか今更すぎるよね、俺今までも文字通り死にそうな暴力相手してたんだよ?」
「…だけどよ…」
「だけどじゃ無い。俺がそんなにヤワに見えるの?」
「…でもな」
「あああもううるさいな!」

それ以上何か言う前にシズちゃんの口を塞ぐ。
もちろん俺にはシズちゃんみたいな力はないから物理的に、しかもマウストゥーマウスでだ。
言葉を発せずポカンとした顔さらすシズちゃんにさらにまくし立てる。

「大体大丈夫じゃなかったところでどうしろって言うんだよ!俺はシズちゃんから離れたらもう、なんか、ダメなんだよ!解ってんの単細胞!」
「え、あ、わりい。」

俺の勢いに気圧されて思わず謝罪してしまったらしいシズちゃん。
微妙に納得いかなそうな顔がちょっと面白い。
しかしそんな俺のちょっとだけ上向きになった機嫌は、

「…ん?『シズちゃんから離れたらダメ』って…」

俺の勢いで言った物凄く恥ずかしいセリフを反復されたことで崩れ去った。

「え、ちょ、掘り返すの?ねえ、掘り返すのそこ?」
「…。」
「いやいや、ごめん、耳まで赤くするのやめて、ほんとごめん、俺が恥ずかしいから。」
「お前…。」
「言葉の綾だよ深く気にするのやめろよ!あああもう俺まで恥ずかしくなってきたじゃん、本当もう最悪だって」
「あー、もう、うるせーよ。」

それ以上何も言うなとでも言うように、今度はシズちゃんから、超能力なんかじゃなくてその唇で 俺の口を塞ぐ。
なんだろうこいつうるさい口は口で塞いであげましょうってか?恥ずかしいやつめ、いや俺も似たようなことやったけどさシズちゃんがやると、さ…効果は抜群だよ畜生。

「…シズちゃんのたらし。」
「あ?」
「馬鹿アホ単細胞変態童貞遅漏ついでに化け物強化版。」
「…てめぇ…。」
「だけど、そんなシズちゃんが好きなんだよ。」
「……。」

だから、近寄るななんて言わないでよ。
今更これ以上化け物強化されたってシズちゃんがシズちゃんならそれでいいから。

俺はシズちゃんのぽかんとした間抜け面を少し笑ってから彼との距離を0にするかのようにがっちりと抱きしめた。

「うるさい」それ以上何も言うなというように

抱きついてやったら目を見開いたシズちゃんの横で枕が弾け飛んで、彼の動揺をわかりやすく表していた。
シズちゃんは案外反応が解りにくい。なのでわかりやすく反応を見せてくれる超能力も案外悪くないねと笑ったら顔を赤くしたシズちゃんにうるせえよと軽く叩かれた。



―――――
だだ漏れ!!」様に提出させていただきました。
大変遅くなりました申し訳ありませんでした…orz
しかもちょっとイザシズっぽくなってしまったよね!
シズイザなんです、これでもシズイザなんです。

素敵企画に参加させていただきありがとうございました!
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