崩壊3/京流
別に話し合いや言うても事情聞かれてどうするか、なんて僕に選択を迫られたぐらいで。
正直、ネットではかなり広まっとるし問い合わせもかなりあるみたいやけど。
そんなぐらいでバンドがどうこうなるワケやないけど、プライベートでは気ぃ付けろ、みたいな感じやった。
つーかほとんど薫君のが僕よりよう説明しよった。
当事者ちゃうのに。
一応、上の方でも話つけるし、取り敢えず自宅謹慎みたいな感じになって。
何時間かの話し合いで解放された僕は自宅に帰る。
自宅のドアの前で、見慣れた奴が立っとんが目に入った。
れいた。
るきの、メンバー。
僕の姿を見て、会釈をして来た。
何か言いたそうにしとったけど、生憎今の僕には聞く余裕はない。
れいたの横を擦り抜けて鍵を開けてドアを開ける。
玄関入ってすぐ、靴も脱がずに廊下に座り込むるきの姿があった。
あぁ、やかられいたがおったんや。
泣きはらした目で、僕を見上げて。
ドアが閉まると同時に、僕に飛び付く様に抱き着いて来た。
少しの衝撃を受けながら、るきの身体を受け止める。
「しゃ、社長から…ッわか、れろって…!」
「………」
「住むトコ、用意する、からっ、荷物まとめて、来いって、言われて…っ」
「……ほうか」
「やだ、京さんと離れたくな…ッ、」
「……」
「だっ、たら、もういい…っガゼット辞め…っ!?」
泣きながらアホな事言うるきの口を片手で思い切り掴んで塞ぐ。
なぁ、それ、言うてまうん?
許さんよ。
お前そんな中途半端な気持ちで音楽やって来たん?
ギリギリと、力が入る手にるきの目が一瞬見開いて痛みに歪む。
別れたくないからって理由で仲間と共に築き上げて来たモンを崩してもうたら。
そん時は良くても、きっとじわじわと後から2人の関係を壊していくモンになる。
僕は歌う事を投げ打ってお前と過ごす程、中途半端に音楽をやってない。
僕を理由にするんは、許さへんよ。
そうるきを真っ直ぐ見つめると。
るきの瞳が歪んで、また涙を流す。
るきの口元を覆う手を離すと、るきは声を上げて僕の胸に縋って泣いた。
横隔膜を震わせて、今までこんなるきが泣く姿は見た事がない。
悲しい、と言うより実感がない。
僕らは別に悪い事してへんし。
噂やファンや、糞食らえや。
コイツは僕の。
それの何が悪いん?
無くすんは嫌や。
手放したく無い。
るき。
音楽を捨てて、僕について来い。
僕を好きや、愛しとるって言うんやったら。
全部捨てて、僕んトコに来い。
─────…そう、言えたら。
僕の身体にすがって泣くるきを引き剥がして、真っ直ぐ目を見つめる。
僕が望んどる言葉は、口塞ぐ前のるきの言葉。
2人を潰す言葉。
るきが女やったら。
るきが同業者やなかったら。
るきのバンドが、成功してなかったら。
手放さずに、縛り付ける事が出来たんやろか。
「…るき」
「きょ…っさ…!」
「僕ん事、好き?」
「好っ、き…です…ッ愛してます…!」
「ほうか」
「離れた、く…な…ッ」
「るき。僕が今死ねって言うたら死ぬ?」
「ッ、死にます…!」
「……」
泣き腫らした目が、真っ直ぐ僕を見て強い口調でそう言った。
ほうか。
なら、もうえぇよ。
その言葉だけで。
るき、愛しとる。
最後まで言うたらんかったけど。
また無くすんやったら、もう今後一切、此処まで好きになる奴はおらんと思う。
深呼吸をして、口を開く。
おかしいよな。
るきとこう言う関係になる前は、るきの音楽生命なんかお構い無しに痛めつけとった筈やのに。
お互い、守るモンはあるやろ。
僕らだけの問題やない、大事なモンが。
「…死ねるんやったら、もうえぇやろ」
「…ッえ?」
「死ぬ気で頑張り、お前の音楽を」
「…な、に…、言っ…」
「つーか、僕がおらくなるんやったら死ぬとか重過ぎんねん。お前はいっつも自分の感情ばっか押し付けて、いい加減ウザいわ」
「…っ!」
そう言うと、るきは顔を歪ませて何か言いたそうにしたけど、言葉が出て来んとまた泣いた。
伸ばして来た手を振り払う。
僕の気紛れから始まった関係は、僕の気紛れで終わればいい。
一緒に過ごした時間。
ムカつく事もあったけど、楽しかった。
何も知らんまま、ただ真っ直ぐ僕を愛したるきの感情は、敏弥との思い出を塗り潰す程に色濃くて。
「や、だ、ッ、京さ、いや、嫌だ…っ!!」
「るき」
「なんで、なんでなんで…!」
「煩い。もう荷物とか後で送ったるし、出てって。あんまおったらアカンのちゃう。事務所に言われたんやろ」
「やだ…ッ!!」
僕の言う事を何でも聞いて来たるきは、ただ、離れる事だけはいつも同意しなかった。
それが当たり前で、日常のスタンス。
心地好かった事が、今は煩わしい。
そんなガキの我儘が通るぐらいやったら、お前の事務所も僕んトコに別れろなんか連絡入れんやろ。
有無を言わさん立場になって、見返したり。
この事が原動力になればえぇよ。
「ほんっまウザい。早よ鍵返して出て行け!」
「やっ、嫌!京さん…!!」
突っ立っとるるきのキーチェーンを掴んで、僕があげたこの部屋の鍵を抜き取る。
抵抗するるきに舌打ちをして、髪を掴んでドアの外に放り出した。
そのまますぐ、ドアを閉めて鍵をかける。
るきの声。
ドアを叩く音。
早よコイツを引き取ってくれ誰か。
簡単に捨てれる程、僕は生半可にるきを傍に置いてない。
それでも僕の中では、音楽の比重が大きかった。
ドアに凭れて、背中越しに聞こえるるきの悲痛な叫びは。
誰かの声と共に消えて行った。
ゴツッと後頭部をドアに打ち付ける。
何で僕は、大事なモンをなくさなアカンのやろ。
どの選択が正しい?
もう、わからへん。
なぁ、るき。
愛しとるよ。
終
20120315
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