恋人だから/敏京





「ねぇ、京君のもう1つのバンドって俺観に行けるの?」
「あー…どうやろ。関係者席って準備しとらんかった気がする」
「マジで?」
「まぁ、聞いてみるわ。敏弥1人ぐらい大丈夫なんちゃう」
「ありがと」
「お前も黒服で来いよ」
「スーツ着てけばいい?」
「うん」
「終わったら楽屋行ってい?」
「まぁえぇけど。僕すぐ出たいんやけど」
「挨拶だけして一緒に帰ろ」
「ん」


京君と一緒にお風呂に入って、広い浴槽の中。
俺の胸元に背中を預ける京君の身体。

京君の右手を手の甲から握って、にぎにぎと遊ぶ。


一緒にいる時は一緒にお風呂に入る。
これはずっと変わらない習慣みたいなもので、京君がもう1つバンド結成した時は一緒にいる時間が減っちゃったけど、こうして一緒にいる時間がもっと大切な時間になる。


京君を客席から観るって事無いから、楽しみ。


京君の濡れた髪に唇を寄せて、こめかみ、耳へとキスをしていく。


「取り敢えず、俺は京君の恋人ですって皆に挨拶すればいいかな?」
「引く」
「えー、メンバーに恋人って紹介してくれないの!?」
「紹介して欲しいん?」
「うん。これから行ける時は京君のライブ行くしね」
「そんなに来る気か」
「恋人だもん。当然でしょ」
「あー…まぁなぁ…別に言うても音楽に支障無いからえぇけど…」
「じゃ、言ってね。京君は俺のだからね」
「はいはい。お前ホンマ独占欲強いん変わらんなぁ」
「大好きだからね」


京君は笑って俺の肩に頭を乗せて上を向いて、右手の俺の指をにぎにぎし返して来る。

可愛い。

愛しい。

大好きな京君。


























「……何か知らんけど僕が付き合っとるらしい敏弥です。頻繁にライブ観に来るらしいけど、適当にほっといてくれてえぇで」
「こんばんは。DIR EN GREYのベース兼京君の恋人の敏弥です。宜しくね」


京君のライブ観に行って、終わったらスタッフに案内された楽屋に向かうと。
さっさと着替えたらしい京君はメンバーに向かって俺を紹介した。


言い方が照れ隠しか何なのか適当で可愛いんだけど。


他のメンバーは特に驚く事も無く、宜しくお願いしますって挨拶してくれた。
ちょっと雑談してたら、帰る準備が出来た京君が俺の隣に来て。


「あ、帰る?」
「うん。ほなお疲れ」
「お疲れ様ー。またね」


俺等のバンドでも京君はさっさと帰っちゃうんだけど、それは変わらないんだなって思いながら他のメンバーに挨拶をして楽屋を後にする。

スタッフに挨拶しながら2人で廊下を歩いて。

京君が俺の方に向いて、上から下まで眺めて来た。
京君に言われた通り、黒いスーツ着て来たんだけど。


「…何か衣装でもない敏弥のスーツ姿って新鮮やな」
「どう?格好良い?」
「うん」
「あら、素直だ」
「めっちゃ欲情する。脱がしたい」
「家に帰ってからね」


やっぱライブ後の京君は元気だよね。

俺も。
DIRとは違う京君が見えて、新鮮だったな。


曲が変われば、京君もこう言う風に変わるんだって。

また新しい一面が発見出来て嬉しいな。


出口に出る前、周りを見渡して京君の肩に腕を回して唇にキスをした。


「…誰かに見られたらどなんするん」
「京君は俺のですって言う」
「アホや」
「うん。早く帰ってもっとイチャイチャしようね」
「楽しみやな」


そう言って笑う京君はめちゃくちゃ可愛い。

何年経っても、状況が変わっても。


大好きな恋人には変わりがないから。




20210105

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