料理教室/敏京



「ねぇねぇ京君。俺ちょっとこれ行ってみたいんだけど」
「なん」
「これこれ。料理教室!」
「…は?」
「やー何かさー料理って意外と楽しいなって思って。これ行ったらもっと作れるようになるかなーって」
「ふーん…」


ソファに座ってテレビ見よる僕の隣に、敏弥が嬉しそうに僕に見せて来た紙。

料理教室て…。

まぁ一緒に住む前から敏弥はちょこちょこ料理するようになって。

昔は酷かったけど、今は食べれるモン作りよるし…習いに行くような事なんかこれ。


「ね、行ってもいい?お菓子とか作ったりするらしいよ」
「まぁ…別に行きたいなら行ってもえぇけど…仕事に影響せんかったら」
「んー実際休みあんまねーけど、オフとか重なった日にしか行けないだろうし、大丈夫でしょ」
「ふーん」
「美味しいお菓子作って京君に食べさせてあげるね!」
「はいはい。期待せんと待っとくわ」
「期待しててよ」
「んー…」


敏弥はニコニコ笑って、テレビを見とる僕の目の前に顔を覗き込むようにして視線を合わせたと思ったら。
軽いキスされて、ソファの隣に座って真剣にその紙を見とった。


まぁ楽しそうやし、別にえぇかって感じやってんけど。











今日はオフやって、ちょうど料理教室の日やったから、敏弥は夕方から出てった。

僕はする事無いし、溜まっとったDVDを片っ端から見て。
敏弥が作り置きした晩ご飯を食べて。


今日はアップルパイの日やー言うて楽しそうに出てったなアイツ。


同棲する前から、ちょくちょく自炊するようになった敏弥。
料理教室に行きたいって言う程ハマるとはなぁ…。


映画も3本目に入ったトコで、玄関から鍵の開く音がして来たから、敏弥が帰って来たんやってDVDを一時停止にする。


「たっだいまぁ。きょーくーん。疲れたよー」
「お帰り、アップルパ、イ…」
「ちょ、帰り待ってたのお菓子だけ!?」
「………」


至極明るい声でガサガサ袋を言わせながら敏弥がリビングにやって来た。

ソファの前のテーブルに、箱?が入っとる袋を置いて。

うん、箱、がな。


同じ箱が結構な数あんねんけど、何で?

何、これ。


「超疲れた!レシピ通りに作んのって難しいし、アップルパイとかお菓子作った事ねーのに難しかったー。しかも男の人は俺と後1人だけで、女の人ばっかだったし気まずいよー」
「あーはいはい、よしよし」


ソファに座る僕に抱き付くように片足を乗せて来て。
僕の顔中にキスしながら言うとしやの頭をポンポンと撫でて宥める。


視線はテーブルに置かれた大量の箱。


「きょーくーん」
「ちょぉ、もう離れぇや。あの箱何。あの箱。ようけありすぎちゃう?」


僕の首筋に顔を埋めて、グリグリと甘える敏弥に苦笑いを浮かべながら箱を顎で示す。


「あ、何かねー作ったヤツ持って帰っていいって事でね、持って帰る事にしたんだけど。他の生徒の人達がくれたんだよー」
「はぁ?」
「いらないですって言ったんだけど。何かファンに囲まれんのも怖ぇけど、ファンとか関係無い人に囲まれんのも怖ぇーよ」
「モテモテやん敏弥」
「あーもうー無い無い。人妻だよ?」
「ふーん。敏弥の作ったんどれ」
「あー…俺のねぇ…ちょっと失敗したんだよねぇ…」


まぁ…敏弥って背ぇ高いしスタイルえぇし、ヘラヘラ笑って愛想えぇし優しいし…。

ふーん、そんなトコ行ってモテとんや。


また断れんくてヘラヘラ笑っとったんやろ敏弥。

アホか。


僕の上から退いて、敏弥はテーブルの上から箱を一つ取り出して。
それを開く。


中からは、ちょっと歪な感じのアップルパイが出て来た。


「あ、でもね、他の人がくれたヤツとか綺麗なのとかあるし…っ」
「は、いらんわ。敏弥のがえぇし。早よ切って」
「え、今?」
「今。はーよー」
「わかった。ちょっと待っててね」
「ん」


俺の頬にキスして、敏弥は包丁や皿を取りにキッチンへ向かった。

その後ろ姿を眺めて。


テーブルの上に置いたその他の箱を見つめる。


「敏弥ァー」
「んー?」
「もう料理教室行ったらアカンで」
「え、ダメ?」
「当たり前やん。こんなに貰って誰が食うねん。明日スタジオ持ってくしか無いやんか」
「あー…京君好きかな〜って思って貰って来たんだけど…」
「とにかく、アカンから」
「そっかー…まぁ今日意外と疲れたしねー…もういいかなー」
「うん」


仕事に影響は無いけど。

僕に影響あるからアカンわ。




20100221


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