深い傷/敏京+薫
「京君腕貸して」
「なん…」
「腕!結構深かったでしょ」
「あぁ…」
アンコールも終わって、楽屋に捌けてった京君の後を追って。
ライブ中に傷付けて無い方の腕を掴んだ。
スタッフとかがバタバタ忙しそうに動いてて、すぐ着替えなきゃいけないし。
そう言うのはわかってんだけど。
今日のは、本当。
「……あんまりやったらヤだよ、京君…」
「えぇやん。ライブ中は痛くないし。表現は自由やで」
「それは、そう…だけどー」
「いっ…」
「あ、御免ね、染みた?」
「いける。早よやって」
「うん」
京君の何本も赤い線が走った左鵜でを掴んで消毒液をかける。
血が固まってたのが、また滲む。
ザラザラする傷口を拭いて、ガーゼを当てて包帯を巻く。
いつもライブの後は俺がしてる事だけど。
今日のは、やりすぎだろって思っても。
何て言ったらいいのか、わかんない。
注意するのも違うし。
「…早く治りますように」
「は…何しとん、お前」
「おまじない」
「……」
包帯を巻いた京君の腕に、唇を寄せてキスをすると、京君は呆れた顔をして俺の様子をじっと見てた。
此処は楽屋で、隅っこにいるとは言え他の人もいるんだけど。
お互い見つめ合って、京君の両手首をグッと握る。
「ちょぉ京、こっち来いや」
「え、あ、薫君…!?」
「ッ、痛いし何すんねん…!」
そしたら薫君が京君の隣に立って、京君の腕を掴む。
嫌がる様に京君は腕を振った。
え、何。
いきなりの事だし、絶対薫君怒ってるだろって口調だし。
咄嗟に、京君と薫君の間に割って入った。
「…敏弥、退き。京君に話あんねんけど」
「え、ぇ、どうしたの薫君。何で怒ってんの。京君何かした?」
「…ステージ上の事やから」
そう言った薫君の顔は、少し歪んだ。
その言葉に薫君が言いたい事は、何となくわかったけど。
「その話だったら、俺がしておくし…」
「アカン。お前は京の事『恋人』としてしか話出来んやろ」
「………」
「なぁ、京君。こっち向き」
「…なん」
薫君の言ってる事もわかるけど。
チラッと京君の方を見ると俯いて視線を逸らしてるままで。
京君と薫君の顔を交互に見やる。
俺の身体を薫君が押し退けて、薫君がしゃがんで座ってる京君の目線と合わせる。
怒ってても、そんな仕草が薫君は京君の事思ってんだなって思った。
不機嫌そうな京君は、渋々と言った風に薫君に視線を向けて。
その様子を隣で座って、ぎゅっと京君の手を握る。
「なぁ、京。俺はなお前の表現力を否定するワケちゃうねん」
「………」
「でも今日のはやり過ぎや。なぁ、ファンもお前が傷付ける姿ばっか観たいんちゃうんやで」
「薫君煩い」
「ちゃんと聞きや」
「もうわかったし。とし…」
「敏弥に逃げるなって」
「ッ」
薫君が真剣に京君を見て話して。
京君はバツが悪そうな顔をして視線を逸らして俺の方に更に身体を寄せて来たけど。
薫君の手がソレを引き止めた。
「なぁ、ファンもライブ観る所や無くなるかもしれん。京君の表現は俺も評価しとる。けど、やり過ぎはアカンで」
「………」
「な?京君」
「……ぅ、ん」
「敏弥も」
「えっ」
「お前いつも京君に甘過ぎるんや」
「あー…」
「えぇやん。敏弥はそれでえぇし」
「あー…はいはい。せやね。俺の話はそれだけやから。腕ちゃんと治しぃや」
「…ん」
「2人共、早よ着替ぇよ。行くで」
「うん、わかった」
薫君は話をして、立ち上がって京君の頭を撫でて離れて行った。
「………」
「………」
その後も、お互い無言で。
握った手に力を込めた。
「薫君はね、京君が好きなんだよ。俺とは違う感情でね」
「…知っとる」
「でも、リーダーだから。誰よりも周りを見てる人だからね。京君も大事で、ファンも大事」
「………」
「京君も心配してるし、俺らバンドの在り方、ファンが観る感情も考慮してると思うから」
「………」
「薫君の気持ちも、汲んであげて。ね」
「………」
俺には出来無い目線で、京君の事を心配して怒る薫君に。
嫉妬しないって言ったら嘘になるけど。
多分みんな京君自身の事を心配してるし。
柔らかく頭を撫でると、京君は視線を向けて。
若干拗ねた顔に顔を寄せて唇にキスをした。
「チッ。何すんねん」
「いった!ちょっとー!叩かないでよ!」
「此処、楽屋」
「わかってるけど。ちゅーしたら機嫌良くなるかなって」
「アホらし。早よ着替えるで。着替え」
「あー…っと。京君の何処?」
「知らん。早よ」
京君はふんぞり返ったままで。
苦笑いしてそれを見ながら京君の着替えを探す。
薫君の言う様に、俺は恋人としてしか京君を見れないし。
絶対甘やかしちゃうんだけど。
京君自身を心配してくれる人がいるのは有り難いなって思う。
何があっても。
京君の味方だからね。
うんと、甘えて。
甘えてくれなきゃ嫌だもん。
終
20091231
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