もうお互いが末期症状/敏京
「京君、こっち来て」
「は?ちょ、何やねん敏弥」
「いいから、ね」
「よう無いわアホ!もうすぐ収録始まんねんぞ」
「おい、お前等、本番までには戻って来いよー」
「うん、薫君わかってるよー」
「敏弥!」
楽屋ん中で一人隅っこで座って、集中してる京君の目の前に立って。
腕を掴んで引っ張って立たせる。
そのまま、京君の腕を持ったまま楽屋を出てると、後ろから薫君の声が聞こえた。
毎回毎回。
またかって思う。
ジャージ姿にハット被った京君は、舌打ちをしながらも大人しく腕を引かれて俺について来る。
人影が見えない、廊下の一角。
そこに京君を連れ込んで、壁と俺の身体で挟んでその身体を抱き締めた。
「ウザいで敏弥。本番前やん。切り替えろ」
「やーだー」
「…はぁ。なぁ、僕集中しとってんけど」
「京君プロなんだから、すぐ切り替えられるよ」
なんて。
理由をあぁだこうだって返して、京君に抱きついて擦り寄る。
何だろうな。
別に、久々のテレビ収録が緊張するとかそんなんじゃ無くて。
不意に、京君に触れたくなっただけ。
お互いもう衣裳で、本番前で。
生で歌うし演奏するし、緊張は必要だと思うけど。
京君の首元に擦り寄ってると、溜め息が聞こえて。
俺の背中に腕が回って来た。
「アホ敏弥」
「うん、京君好きー」
「はいはい」
「何でこんなに好きなんだろ。好き過ぎてずっと離れてたく無いよ」
「そんなん前からやん。今更理由やいらんわ」
「はは、そうだね」
顔を上げて、京君と視線を合わせる。
京君も、俺をじっと見て来て。
「ふっ」
「ちょっと、何笑ってんの」
「や、お前の半スキンと眼鏡おもろいんやもん」
「やった当初、家で散々笑ってただろ」
「家ではこないセットせんやん。スキン部分に髪の毛垂らしとるし…ふはっ」
「もうー笑いすぎー」
八重歯を見せて笑う京君のハットを取って、触れるだけのキスをすると。
京君は俺の眼鏡を取って。
ちょっと首を伸ばしてまた唇を重ねた。
お互い、柔らかくキスするだけで、すぐに離れた唇。
「ホンマ糞ガキ」
「うん」
「何なんやろな、お前ホンマに」
「何がー」
「その変わらんぐらいのウザさ」
「ウザくないよー」
「はッ」
鼻で笑う京君の頭に、手に持ってたハットを被せる。
京君なんて。
俺がいなきゃ何も出来なくなっちゃえばいいんだ。
…俺がそうなった様に。
「なぁ敏弥」
「ん?」
「いつもいつも甘えて来てな」
「うん」
「僕が言うより先に敏弥が来んねん。やから、以心伝心やーって思う。何年も」
「うん」
「どないしてくれるん。そうしてくれな、おれんようになったん、僕。敏弥、責任取れや」
「京君…」
「何で僕こんななったんやろって思う。全部お前の所為。強くなんかなれへん、お前が甘やかすから」
「いいよ。俺もそうだもん。京君いなきゃ嫌だよ」
「お前がおらんくなったら、歌われへんからな、僕」
何その殺し文句。
大歓迎だよ。
「京君大人になって素直になったよね」
「大人んなってって…最初から大人やしバカにしとんのか」
「あれ、そうだっけ?」
「チッ…表現がストレートんなっただけ」
「そっか。昔もツンデレっぽくて可愛かったけどね」
「何やソレ」
笑ってる京君の腰を抱いて。
身体をピッタリ密着させる。
ずっと一緒に居て。
色んな事を2人で体験して。
知る度に好きになって行く。
京君こそ、どうしてくれんの。
俺をこんなにハマらせて。
どうしようもない男にしたの、そっちじゃんか。
終
20090922
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