2人の出発点@/敏京
「好きになったらさ、男も女も関係無いよね」
「なん、いきなり」
「んー。人を好きになるのってその人を好きになるんだから、性別なんて問題じゃ無いよねって話」
「…あぁ、恋愛は自由やしなー」
「だよねー」
仕事の休憩中。
いつものように敏弥と談笑。
付き合うならどんなタイプの女がえぇとか、そんな下らん話。
ホンマいつもと変わらん感じ。
最近、よう一緒におるようになったし。
「京君てさ、フラれた事あんの?」
「あー?あるで。こっち出て来る前」
「えー意外」
「めっちゃショックやったわ」
「俺だったら京君の事裏切らないのになー」
「は?」
「だから、俺と付き合ってみない?」
「冗談抜かせ」
「本気なのにー」
そういきなり言うて来た敏弥は、いつもの笑顔でにこにこしながら笑って。
最近、敏弥とプライベートでもよう遊ぶようなったし。
趣味はちゃうのに話は合うから楽しいし。
何処か出掛けたり、お互いの家に行ったり。
そんな感じで急速に仲良くなってんけど。
ホンマ、いつもの笑顔でサラッと言われた言葉をサラッと流そうとした。
ら、敏弥の顔から笑みが消えて途端に真顔になったから。
吸っとった煙草を持ったまま固まってしもた。
「本気だよ」
「……何が」
「京君が好きなんだけど」
「……」
「付き合いたいなって」
「…僕、男やけど。何冗談言うとん。しつこい」
敏弥の言葉が、にわかに信じられへんのと、その真剣な表情が自分に向けられとんが怖くて。
何か話題を逸らそうと目を泳がせる。
やってまさか。
こんな、仕事の休憩中。
楽屋の端でいつもの様に2人で喋っとる時に言われるなんて思わんやん。
僕の表情と言葉は、敏弥を落胆させるんに十分やったらしい。
視線を落として、凄い寂しそうな顔して。
僕の方が罪悪感が込み上げて来た。
敏弥とは話も弾んでいつも話題は尽きひんかった筈やのに。
こう言う時に限って何もえぇ言葉が思い付かん。
「……とし、」
「ッ、いきなりこんな事言って御免ね」
「………」
「でも、本気だから、俺」
「………」
「ちょっと俺トイレ行って来る」
下を向いとった敏弥は、僕の声にこっちを見て。
すぐに誤魔化す様に笑みを浮かべて椅子から立ち上がった。
部屋から出て行くその背中に、声を掛ける事も出来んとただ見送った。
確かに、僕は敏弥見た瞬間にコイツがえぇって思ったけど。
それは恋愛感情とは別物やって。
いつから?
いつから敏弥は僕ん事。
お互い、彼女の事とか話しよったし。
でも最近は、ほとんど敏弥としか遊んでへんかった。
楽しかったから。
頭を掻いて、もうほとんど灰になってもた煙草を灰皿で揉み消す。
何やもう。
今までの関係やったらアカンの。
休憩が終わる時間になっても、敏弥は帰って来んくて。
薫君に敏弥どこ行ったんか聞かれたけど、知らんって答えてもた。
何となく。
告白される事はあるけど、男に、しかもメンバーに告白されたんとか初めてやし。
どなん顔して会えばえぇんか、わからんやん。
「あ、敏弥どこ行っとったんや遅いでー」
「御免御免、ちょっとね」
「時間はちゃんと守りやー」
「うん。御免ね薫君」
そんな2人のやり取りが聞こえて来たけど、僕は敏弥の方が見られへんかった。
「薫君、今日飯食いに行こや」
「なん、どしたん珍しい。京君とご飯行くん久々やな」
「そうやっけ?」
「せやで。美味いトコ見つけとるし行くか。京君気に入ると思うで」
「ホンマ?楽しみやわー」
仕事が終わったら、帰りの準備しとる薫君に話し掛ける。
ホンマ薫君の言う通り、薫君と飯食うん久々かも。
最近は敏弥とばっかつるんどったし。
帰りも、飯食うんも。
2人で帰るんが当たり前みたいになっとって。
でもさすがに今日で2人きりはキツい。
僕が。
突き刺さる視線は無視して、薫君と部屋を後にした。
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