一方通行にならない愛/鬼歌+樽




鬼龍院さんは天才なの。鬼龍院さんの歌詞で声で僕は救われてるし、暗闇の中をさ迷ってた僕に光を照らしてくれた。言うなればカミサマ。こんなに僕は鬼龍院さんから色んな物を与えてもらってるのに、僕は鬼龍院さんに何もしてあげらんない。鬼龍院さんが曲を作れなくて悩んでても、僕は何も出来ない。彼のファンでもある僕は鬼龍院さんが作る新しい曲に期待しちゃってる。ポロッと『頑張って』なんて彼を追い詰める言葉を吐いちゃいそうで、そんな自分が嫌になる。別に曲が出来なくても鬼龍院さん自身が好きなのに、鬼龍院さんが作り出す世界も大好きで僕はそこに期待しちゃう。支えたいのに逆に重荷になっちゃってる。こんなんじゃ鬼龍院さんに嫌われちゃうかなぁ。ねぇでもホントに好きなんだよ。でも何の力にもなれない恋人なんて邪魔なだけだよね。辛い時、支えてあげられない不甲斐ない圧倒的な僕なんてヤだよね。でも鬼龍院さんと別れるなんて考えられない考えたくない。我儘だよね。こんな自分が嫌なのに、何にも言わない、逆に慰めてくれる鬼龍院さんに甘えて
縋っちゃってる。ねぇ、研二っちぃ、僕どうすればいいかなぁ?鬼龍院さんに好かれる、理由が欲しい。



慣れないお酒を飲んで、淳君は独白の様に言葉を並べた。
仕事終わりに一緒に飲みに来て淳君は少しは飲める様になりたいって言って甘いカクテルを頼んで。
ちょっとマイナスの方向にスイッチが入っちゃったらしく、キリちゃんの事について多分、今まで言えなくて我慢してたであろう本音を漏らした。


俺からすればキリちゃんも淳君も年下だし。
特に淳君は一番年下で、末っ子みたいで可愛いって思ってるから。
そんな心配しなくても淳君はいい子で可愛いよって言いそうになる。

でも多分、今の状況ではただの慰めにしか聞こえなくて、淳君は更に自分を責めるんだろうな。


「淳くーん、飲み過ぎだよー?ほら、水飲んで、水」
「んー…」


取り敢えず、体内のアルコールを薄めようと店員さんに頼んで持って来てもらった水を渡すと。
淳君は一気に飲み干してからテーブルに突っ伏した。


あらら。
寝ちゃうかな。

淳君あんまり強くないもんねぇ。


ガヤガヤとした居酒屋特有の喧騒の中。
ぼんやりそんな淳君を見ながらつまみの枝豆を食べる。


携帯を取り出して、淳君の写メを撮ってキリちゃんのメアドを呼び出して。


『淳君酔い潰れたなう(・∀・)』


って送ってみた。
暫くしたら、キリちゃんからの返信。


『淳くん結構飲んだ?(^-^)』




『うん。キリちゃん仕事?』
『終わったから帰ろうかなって』
『え?淳君酔い潰れてるよ?』
『えーと?迎えに行った方が、いいの?かな(^-^≡^-^)』
『キリちゃんを召喚します』
『お邪魔じゃない?』
『何言ってんの!酔い潰れたら迎えに来るのは彼氏の役目!』
『あ、はい。行きます』


そんなメールのやり取りをして、店の場所を教えて携帯を置く。


うーん。
多分、キリちゃんも淳君も恋愛に関してちょっと不器用だから不安になっちゃったりする事もあるんだと思うんだよね。

なんて、好きな子出来たらどっぷり恋愛にハマる俺も大した事言えないんだけど。











少し経って、店内にキリちゃんが入って来たのが見えたから手を上げる。
俺らよりも圧倒的に仕事量が多いキリちゃんは、ちょっと疲れ気味な顔をしつつ笑みを浮かべて近寄って来た。


「キリちゃんお疲れ〜。まぁちょっと座りなって」
「お疲れ。って、淳くん寝てる?」
「多分。何か飲む?」
「あ、じゃぁビール貰おうかな」
「りょーかーい」


店員さんを呼んで、ビールと梅酒を注文した。

キリちゃんが隣に座っても、淳君は寝たまま。


「淳くんどれだけ飲んだの?」
「あんまり飲んでないよ。カクテル2、3杯?だったし」
「あ、そうなんだ」
「うん、キリちゃんとの惚気聞かされちゃった〜。可愛いよね、淳君」


そう言うとキリちゃんはちょっと照れた様に笑って視線を逸らして「うん」って言った。


その時、頼んだアルコールが運ばれて来て2人で乾杯する。


飲みながら、キリちゃんは隣で潰れてる淳君にちょっかいをかける。
髪の毛引っ張ってみたり。

身じろきしても起きない淳君。


「僕といるとあんまり飲まないんだけどなぁ」
「そうなの?」
「うん、酔っ払って迷惑かけちゃうからって。でも研二さんとは飲むんだね」
「妬けちゃう〜?」
「んー。かなぁ?妬いてるのかな?そんな事考えなくていいのになぁって。淳くんて変なトコ気にするって言うか」
「あぁー迷惑なんて思ってないよーって?」
「うん。僕も自分の事で一杯一杯な時あるけど、淳くんは何か…こう…してあげたくなるよね」
「あ、わかる!手を差し伸べたいって言うか、やる事見守りたいって言うか」
「そうそう。何かね、憎めない感じが」
「可愛いよね〜」
「うん」
「淳君、キリちゃんの役に立ちたくて一生懸命だしね」
「うん、それがさ、やっぱ頑張ろうって思えるんだよね」


ヘラッと笑ったキリちゃんは、また淳君の髪を引っ張る。
どうやら存在は知らせたいらしい。

もう淳君は身じろきせずに、テーブルに突っ伏したまま。


俺は話ならいくらでも聞いてあげられるけど、多分解決策は本人達にしかない訳で。


アルコールか、または別の理由で耳まで赤くなった淳君に。
キリちゃんの言葉が少しでも届けばいいなぁって思った。




20120716



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