保護者の誕生日/京流+薫
用意したホテルは、何の変哲も無いビジネスホテルやから。
聞こえへんワケが無い。
連日のライブ。
もう無茶が出来る様な歳で無いんはわかっとるし、京君が何や違うんはわかっとった。
ライブ少し前から。
やから何も言わずにライブ終わった後さっさとホテルに向かうんも止めへんかったし。
何か荒れとったし。
自分も打ち上げそこそこに、ホテルに帰ったワケやけど。
ある意味、勘弁しろ。
京君の隣の俺の部屋。
明日を見越して、早めに部屋に帰って来た事を心底後悔した。
止めに入るべきか。
でも2人の問題やから、俺がどうこう言う理由も無いけど。
こんな一人部屋で。
一人でおる時に微かに聞こえて来るんは明らかにえぇ事しよるモンでは無い。
16日は京君の誕生日やったから、来るかなとは思っとったけど。
ある意味それは仮定の話で、ホンマに来るとは。
そんで、2人の関係を目の当たりにするとは思わんかった。
隣の部屋から聞こえるんは、鈍い音。
俺がフォローに回ればよかったんか。
こう言う時の対処の仕方は、俺は知らんで。
あんまり聞きたくも無い音と声が、薄い壁から聞こえて来るもんやから振り払う様にシャワーへ。
生憎、今日もライブで明日もライブやと思うと、外に飲みに行く気も起こらんし。
時刻は23時過ぎ。
京君の誕生日がもうすぐ終わる。
誕生日に何なん…。
でも、京君にはそうする様な事があったんやろな。
今更、そんな風にルキ君との関係を確かめんでもえぇと思うのに。
…アイツが何か言うたんやろか。
あんまり俺が検索する事でも無いんやろけど。
シャワーを浴びて、部屋の備え付けの浴衣を着ると冷蔵庫ん中のビールを取り出す。
隣の音は、もう聞こえんくなっとった。
…寝よ。
少しだけビールを煽ってベッドに入る。
隣の様子がある意味気になるけど、無理矢理気にせんと目ぇ閉じた。
朝。
早めに起きて着替えて、朝食の時間を確認する。
一応食っとかなアカンかなって思ってレストランに向かおうとキーを持って部屋を出る。
そしたら近くで話し声。
その声の方を見ると、京君の部屋のドアが開いとった。
「じゃ、俺帰りますね。今日もライブ頑張って下さい」
「うん」
「愛してます」
「…ん」
小さい声が聞こえて来る。立ち聞きするつもりは無かったけど、聞いてしもたんはしゃーない。
チラリと視線を向けると、京君がルキ君の頭を引き寄せて、キスしとった。
何か知らんけど収まったらしい。
よかった。
もう聞きたく無いで。
あんな、音は。
もう見たモンはしゃーないし、今更退散するんもアレやし。
取り敢えず観察。
しよったらルキ君のが先気付いたけど。
「ッか、薫さん…!」
「おー、おはようさん。朝から熱いなぁ、お前ら」
「え、あ、ご、御免なさい…」
「いやいや、謝らんでえぇよ。京君のお祝いしに来たん?」
「…はい。ライブ見たかったんで」
「そうなんや」
「────つーか見とんなや、オッサン」
不機嫌そうな京君の声が響くけど、疲れて憔悴しきった昨日の顔よりは幾分マシやった。
苦笑いしながら、2人に近づく。
「減るモンちゃうし、えぇやろ。ルキ君もう帰るん?朝食ぐらい食ってったら?」
「いえ、仕事があるんで…東京帰らなきゃなんないんです。スミマセン」
「残念やなぁ」
サングラス超しに、柔らかく微笑むルキ君の軽く会釈するその動きがぎこちないモンやったけど。
そんなん、聞けんし。
「るき。早よ帰りぃや」
「あ、はい。薫さん、失礼します。あと、お誕生日おめでとうございます」
「おー、ありがとな。お疲れさん」
「失礼します。京さん、またメールしますね」
「ん」
何や意外。
京君京君言うとる子やったから、俺の誕生日知っとる事が。
エレベーターに向かう小さい背中を見送る。
…時にチラリと京君を見下ろすと、まぁ…アレやな。
ファンには絶対見せへん顔やなぁ…んな顔せんでも、すぐまた会えるやん。
まだまだ、ライブはあるけど。
そう思って、ぽんぽんと頭を叩くと睨み付けて来たけど。
「……なん」
「ん?何となく」
「キモい笑うなや」
「えぇ子やなぁ、ルキ君」
「………」
「京君の事、ホンマ好きなんやな」
「…薫君」
「ん?」
「御免やで」
「なん、珍しい」
「薫君、誕生日やから」
「ははっ。そりゃありがとなぁ」
自分でも自覚しとんのは、えぇんか悪いんか。
事情がわかっとるだけに、京君だけ責める事も出来へんし。
「飯食いに行くで」
「んー…」
「食っとかな体力保たんやろ」
「…ん。キー持って来るわ」
いったん部屋ん中に入ってく京君。
ルキ君が、その役になってから荒れとった時代から段々と穏やかになってったけど。
信用しきれてへんのが大きく出て来てしもたんか。
どっちにしても、京君にはルキ君が必要なんは一目瞭然やし。
このまま、何事も無く幸せなになって欲しいんやけどなぁ。
終
20090217
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