鬼は外/敏京




「あ、今日節分やん」
「ん?あぁ、そう言えばそうだね」
「豆まきせな」
「え、すんの?」
「うん。やから今日敏弥んち行くわ」
「…京君、豆まきした後に自分ち片付けるの嫌だからだろ」
「わかっとんなら話は早いやん。帰り豆買って帰るで」
「はいはい…」


京君が不意に思いついた様に言って来た。
今日節分だっけ。
気付かなかった。
ってか京君、俺んちで豆まきする気満々だよね。
あぁー…掃除大変そうだなぁ…。

そんな事を考えてると。


「…おい、今仕事中やねんからそう言う相談は後にせぇや」
「御免なさーい」


何か真剣な打ち合せだったから薫君に怒られた…俺だけ。
いやでも京君には甘くなっちゃう理由はわかるから仕方無い。

でも京君と豆まき!
考えたら豆まきしたいとか京君可愛くね!?


「…なんニヤついとん敏弥キモいわ」
「………」


アンタの事考えてたからだよ!
まぁ憎まれ口叩く京君も好きだけど。






解散後。

豆まき用の豆とか、何処にあるかわかんないから京君とスーパーへ。

さすが節分。
豆がわかりやすい所に置いてる。


「敏弥ーこれって歳の数だけ食べるんやんな?」
「そうだね」
「ほならぶつける用と、食う用で…」
「…ぶつける用?」
「3袋ぐらいあったらいけるか」
「京君、ぶつける用って今…」
「うっさいなぁ…早よ晩飯も買って帰るで」
「はいはい…」


3袋の豆を俺に押し付け、惣菜コーナーへと向かう京君の後を追う。
適当に2人食べたい物を手に取って、豆と一緒に会計。

豆を歳の数だけ食べるって言っても2人じゃたかが知れてるし、残り全部豆まきに使うのかな?
ってか確実、京君は俺を鬼にする気だよね。

…京君が楽しけりゃ…よくねぇよ!!
豆とか地味に痛そうなんだけど!








「あー…疲れたわぁ…」
「ちょ、京君、靴ちゃんと脱いでよ」
「気になるなら敏弥がやればえぇやん」
「もー…」


京君の靴をちゃんと揃えて、自分も中に入る。
京君はそのまま俺のベッドにダイブしてた。


「敏弥ー、豆」
「え、今から豆まき?」
「うん」
「ご飯食べないの?」
「あーとーでー」
「はいはい」


スーパーの袋をテーブルに置き、袋の中から豆を3袋出してベッドに寝転がる京君に渡す。
受け取ると起き上がり、胡坐をかいて京君が袋を開けた。



「よし、敏弥。外出ろや」
「え?何で?」
「『鬼は外』って言うやん」
「まぁ…そうだけど…」
「僕ベランダからぶつけるから。早よ外出ぇや」
「ちょ、ちょっと待って!中でいいじゃん!」
「アカン。早よ外出ろ」
「せ、せめてベランダで許して!!」
「チッ。しゃーないなぁ…ほな早よ出ろ、鬼」
「…はい」


外に出ろとか。
京君の発想にビックリなんだけど。
下で上から京君に豆ぶつけられるとか…他の住人に見つかったら恥ずかしいし…!

窓を開けて、ベランダに出ると京君がニヤリと笑って。
うわぁ…何か狩られる気がする。


「オラァーッ!!」
「ぎゃ!ちょ、痛い!京君痛い!それと掛け声は!?」
「いちいちそんなん気にすんな!豆はまだまだあんで!」
「これ豆まきじゃ無くて苛めじゃねぇの!?痛ッ!痛い!」
「はッ、逃げまどえや!」
「ベランダで逃げれるワケねぇじゃん!ちょ、『福は内』もやって!」
「嫌や!楽しい!」
「痛ッ、痛い!」


何か、バカみたいに叫んで今更ながら近所に丸聞こえじゃ!?って心配になって来た…!
京君むちゃくちゃ笑顔だし楽しそうなんだけど…。

ベランダだから逃げらん無いし、すげぇ豆当たるんだけど。






「あーぁ、豆無くなってもた」
「…終わった…」


暫らく京君は3袋分たっぷりと俺に豆をぶつけて、ぶつける豆が無くなって残念そうに呟いて終わった。
やっと解放される…。
ベランダが豆だらけだけど…また今度掃除しよ。

そんな事を考えながら、部屋ん中に入って窓を閉める。


「京君、楽しそうだったね…」
「うん、めっちゃ楽しかった」
「…食べる豆は?」
「え、無いで」
「うん、やっぱりね」


呆れ気味に言うけど、心底楽しそうな京君を見てると文句も出ない。


「敏弥、ご飯食べるで」
「はいはい。あっためるね」
「ん」


2人分の惣菜を出して、キッチンへ。

…まぁ京君が楽しかったなら、いっか。

こう言う風に甘やかすから、我儘なんだろうけど。
それも可愛いって思っちゃうんだよね。




20090203


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