『Crossing Memory』


酔いで熱った頬に和平の指先が思いの外ひやりと感じられ、スネークは押されるままにベッドに倒れ込みながら小さく含み笑いを漏らした。

「こら、逃げるなよ」

後からすぐさま和平が乗り掛かり、頬から首筋に伝う指先の動きに、反射的に身を竦ませたスネークに釘を刺す。とはいえ、その声は笑みを多分に含んでいる。酒の勢いも手伝った欲情に逸りながら、同時にこのおふざけも込みのスキンシップを心底楽しんでいるのは明白だった。
そして青臭さの残る態度とは裏腹に、何か所もある傷痕に沿って肩や腕の肌を這う手は、さり気なく、実に巧みにスネークの本能をじわじわと刺激してゆく。


「……フン」

溜息交じりに短く鼻を鳴らすと、スネークは眼前に迫った和平のサングラスをひょいと取り上げて、サイドチェストの上へ放る。そして、両腕を持ち上げて和平の頸に回した。……暗に、続行が許された、ということだろう。
了解の意を受け取った和平は、口角に微笑を浮かべると、首に掛けられた腕に引き寄せられるようにスネークと唇を重ね合わせた。
ちゅ、とリップ音を立てて唇がぶつかるだけの短いキスをし、穏やかな光を湛えている薄蒼の隻眼と視線を合わせると、どういう訳か、今更ながら少し気恥ずかしい思いが込み上げる。和平はそれを誤魔化すために、咄嗟にスネークに向けて曖昧な笑みを浮かべた。


「…髪が伸びたな、カズ」

ふと。そんな和平に微苦笑を返しながら、スネークの口からそんな言葉がこぼれ出た。
確かに、つい先日までは襟足のすぐ下で刈り揃えていた金髪が、首筋を半分かた覆う程にまで伸びている。そして、いつもきっちりと撫でつけてしまう為に仕事中はあまり気にならないが、側頭部の毛も耳に掛かってしまう程の長さになっていた。

「? …ああ、そうだな。ここの所内勤で忙しくて、切る暇が無かったからな」
「……」

普段ならば所用で街へ出たついでに信の置ける店で散髪をしたり、シャワーついでに剃刀などを使って自分で簡単に整えたりしている。しかし言われてみれば最近は、事務処理等の雑務が嵩んで外出らしい外出はしていないし、あまりヘアスタイルに気を回しているような余裕も無かった。
何の気無しに答えたが、スネークはそれを余所に、今は固められていない柔らかな金髪を、子供が無心に猫にでも触るように梳き続けている。耳朶の後ろを這う指先が擽ったく、和平は我知らず肩を震わせた。

「おいおい、どうした今更。俺の髪がそんなに気に入ったか?」

襟足の毛を無理矢理巻き取って引っ張ろうとするスネークの指に己の手を重ね、和平は笑い声で尋ねる。

「…。別に、そういう訳じゃない」

揶揄したと取られたのだろうか。急に興味を失くした、という風情で、スネークは不意に和平の手を振り払ってそっぽを向いた。

「何だよ、怒るなって」

執り成すように言いながら頬に一つ口づけを落とすと、スネークは仕方無さそうに再び顔をこちらに向ける。また臍を曲げる暇を与えぬよう、今度はすかさず口腔内に深く舌を挿し入れてその唇を塞いだ。

「……っふ……んぅっ…」

喉の奥から甘さを秘めた呼吸音が響き、頑健な身体がぴくりと震えたかと思うと、スネークからも挑戦的な荒さで舌を絡め返される。ぶちゅぶちゅと濡れた音を立てながら夢中で口内を貪り合う内に、嗅ぎ慣れた葉巻の香がトリガーとなり、最早引き返せない所まで身体の熱が上がってしまう。
再び頸に回されたスネークの腕先が、やはり後頭部の髪をぐしゃぐしゃと弄り続けているのを感じ、和平は思わずキスの合間に小さな笑い声を漏らした。

「っはぁ……!」

とうとう呼吸の限界を感じて唇を引き離すと、繋がった唾液の糸の先で、スネークもまた顔を耳まで紅潮させて荒い息を継いでいた。10センチに満たぬ距離で潤んだ一つの瞳を捉え、和平がどこか楽しげな声で囁く。

「折角だから、このまま伸ばしてみるのもいいかもな。…なぁスネーク。長髪の俺も、なかなかのいい男になると思わないか?」
「……さぁな」

心底どうでもいい、とでも言いたげにぶっきらぼうな返事を寄越すスネークに、また愛しさが込み上げ、和平は微笑みながら口髭の周りを拭ってやる。つれない返答をまるで意に介さぬ目の前の男を、スネークはじとりと睨め付けた。

「本当に可愛いな、あんたは」
「…お前の頭がおかしいんだろう」


いつまでも平行線な減らず口を叩き合いながら、もっと深く触れ合う為に、和平は汗ですっかり貼りついた服を脱がせる作業に掛かった。


― fin ―


GZsの話題で世間が盛り上がる中、ふっと湧いて出た「おや? カズヒラの ようすが…▼」的捏造話。
捏造ですよ、このままBキャンセルでもいいんですよ!
それにしても、技量の方が相変わらずでなんというか色々…。うん。ごめんなさい。
拍手、誠にありがとうございましたー!!


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