もし沖田ヒロインが神威に目をつけられたら
「ねーねー君、名前なんていうの?」
展示室で声をかけられたので、いつも通りに「はい」と笑顔で振り返れば、美術品に関係無い事を聞かれた。
「聖紫亜?」
固まっていると、首に下げてたIDカードを勝手に見られていた。
「紫亜は今日、いつ仕事終わるの?」
青年はニコニコした顔を、IDカードから紫亜に向ける。
(いきなり呼び捨て…)
呆れながらも紫亜は営業スマイルを崩さない。今までに何度か、お客から食事の誘いがあった。今回もそうだろう、と思い、当たり障りがないように断ろうとした。が。
「仕事終わった後に、ちょっと俺と一戦交えない?」
食事の誘いでは無かった。
え、一戦?紫亜は再び固まった。
「あの…一戦、ていうのは…」
「だから、俺と勝負してよ。君、真選組で一番強いっていう、沖田とよく一緒にいるだろ?どれだけ強いか、興味あるんだ」
「……」
まさか沖田と一緒にいる、という事だけで、こんな誘いが来るとは。
「私、そんなに強くないです、すみません。それに、今日は次の展示会の準備があるので何時に終わるか分かりません」
「えー。あ、じゃあ、雑用手伝うから終わったら付き合ってよ」
「ですから、私は総…沖田くんより弱いんです。あなたの期待には応えられません」
「そうなの?んー。でも俺自身の目で確かめたいからさ。今日が無理なら、明日でも明後日でもいいよ」
何度断っても、しつこかった。どう断ればいいものか、と思案していると、
「アンタはこれから仕事があんだろーが、このすっとこどっこい!!」
息を切らしながら、無精ひげの生えた男性が、文字通り青年の首根っこを捕まえた。
「あれ、阿伏兎。意外に見つけるの早かったね」
「フラフラと勝手にいなくなるのは、やめろって言ってんだろ。その分、俺が苦労すんだよ。ほら、いくぞ。ねーちゃん、コイツの言ってた事は気にしねーでくれや」
「じゃーね、紫亜。今度勝負しようね」
男性に引きずられながらも、青年は相変わらずニコニコした顔をしながら、紫亜に手を振った。
「えーと…」
一瞬の出来事に、紫亜はしばし呆然とする。
(そういえば、あの男の子、どことなく神楽ちゃんに似てたような)
髪の色に白い肌。チャイナ服に番傘。
(もしかして、夜兎族?)
それなら、やたら戦いにこだわっていたのも分かる気がした。
(じゃあ、絶対勝てる訳ないじゃない!)
多少剣が扱える程度なのに、厄介のに目を付けられてしまった。
どうかもう来ませんように、と願わずにはいられなかった。
=終=
2012/11/15
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