ツイログ tkrv
○転がされる彼氏
「出てる服、適当に着ていいんで」
「ありがと。着替えたら声かけるね」
 濡れた肩にタオルをかけ、オレの部屋の前で先輩が1つ頷く。ペケJと入れ違う形で先輩が部屋へと入って襖を閉めた。予報になかった雨の中、家まで2人で走り続けた後のことだった。
 ……やっば、拭かねえと。廊下に続く2人分の足跡に気付くと、靴下をその場で脱ぎ、拭く物を取りに部屋の前から離れていった。

「千冬くん、服ありがと。これどこに掛けたらいい?」
 ちょうど床を拭き終えたタイミングで襖が開く。制服をハンガーに通した先輩は上下とも、オレが部屋着にしている服に着替えた後だった。
 自分が着慣れた服を、彼女が着ている……余った袖と裾を捲っているところがいかにもオーバーサイズって感じがして可愛い。思わず視線を何度も上下させてしまう。漫画で一度くらいは見たことがある彼シャツ姿を初めて見たというのもあってか、あることに気付くことに数秒遅れた。
「ゲッ!!」
「……シャツ、なんかあったかかったよ」
 何があったのか察している。遠回しに先輩は伝えつつ、身につけた白いシャツに触れる。胸やお腹辺りの生地に、黒い毛がまとわりついていた。
 ……そういえばさっき、ペケJがオレの部屋から出てきたんだった。襖だから部屋への出入りは難しいわけでもない。オレがいない間に服の上で随分寛いだんだな。
「スイマセン、ペケJが……すぐ他の出すんで」
「あーいいって、取れば済むんだし」
 ハンガーを受け取ってカーテンレールに掛けると、いつもの場所から粘着ローラーに手を伸ばす。手にしたそれを先輩に差し出し、受け取る……と思い込んでいた。
 先輩はオレの方に手を伸ばす動きすら見せない。更に畳に膝をつくと、目の前でシャツの裾を掴み、皺を伸ばすように両手で引っ張った。
「じゃ、お願い」
「……は?」
「別に怒んないから」
 いや、そうじゃなくて。
「……マジで怒んないっすか」
「うん、だから早く取って?」
 何に対して怒らないかは見当がついている。今まさに掴んでいる粘着ローラー越しに、先輩に触れることについてだ。
 怒らないって言っていることについては、多分言葉通り受け止めていい。先輩はローラーを掴むオレの手首を掴んでほんの少し引き寄せる。目線は、躊躇いを表に出しているオレの顔をじっと見つめている……微笑んで。
 いや、それでもいいのか?まだ触ったことが一度もないところを、よりによってコレを通して触るとか……!!
「……なんすかその顔」
「ん?“千冬くん頑張れ”って顔」
「頑張れって……〜〜」
 ……なんだし、この試されている感は。ごくりと生唾を飲み込む。喉が動く音が先輩に聞かれたかもしれない。
 これ以上先輩の顔を見続けていると、手をろくに動かせる気がしない。静かに息をゆっくりと吸い、先輩のシルエットを映すシャツにローラーをそっと押し付けた。
「いつか平気でやってやりますよ」
「うん、じゃあまた着るね。彼氏のシャツ」
「……」
「千冬くん手が止まってるよ」
「〜〜あぁ!押し付けんなっ!!」



○彼女のネクタイを結ぶ
 【これから千冬くん家行くから】それだけが書かれたメールを先輩から貰うと、すぐさま部屋を片付け始めた。
 ちょうど掃除し終えたタイミングで呼び鈴が1回鳴る。文句を零しつつ玄関扉を開けると、今まで着た姿を見たことがない服に袖を通した先輩が1人待っていた。
「千冬くん、来たよー」
「……は?え?先輩、セーラー服じゃあ」
「渋谷二中はね。ブレザー初めてだからテンション上がっちゃって」
「……あー、高校の!」
「そー!」
 学年が1つ上の先輩は、来月から高校生になる。頼んでいた高校の制服がさっき届いて、着替えたままオレの家に足を運んだらしい。
 オレも来年、先輩と同じ制服を着る予定。偏差値はオレでも超えられるはす……多分。ヤバそうだったら先輩に勉強見てもらえばいいか。
 にしても、初めてとはいえブレザーを着てテンションが上がっている先輩めっちゃ可愛──
「あれ」
「なに?」
「ネクタイ、どこやったんすか」
 よく見ると先輩が身につけているのは、ブレザーとシャツとスカートだけ。前に見せてもらったパンフレットには、ネクタイを締めた生徒が載っていたはず。先輩、家にネクタイだけ置きっぱなしにしたのか?
 オレの質問に対して先輩は何も返してこない。ただ顔を火照らせ、さっきまでオレに合わせていた目を右へ左へと泳がせ始める。
 何だこの反応……ないとは思うが、ネクタイを忘れたことが恥ずかしくなってきたのか。
「あの、さ、前はセーラーで、スカーフだったじゃん」
「はい……で?」
「で、スカーフ留めに通すだけだったから……」
「……」
「……分かんなくて……付け方」
 そろそろと先輩の手がブレザーのポケットに入る。取り出したのは1本のネクタイ。もちろんそれは先輩が入学する高校の物だ。なんだ、付け忘れたんじゃあなくて付け方を知らなかっただけか。
「……先輩、オレ結び方教えてあげましょーか?」
 こっちは入学してからほぼ毎日結んでいる(時々サボるけど)、少なくとも先輩よりは上手くできる自信ならある。
 嬉々と提案すると、先輩は縋るように何度も頷く。すぐさま先輩の背中をぐいぐいと押し、オレの部屋へ通した。
「んじゃ、オレが先にやってみせますからよーく見てて下さい」
 中学のネクタイをハンガーから取って、自分の首へ掛ける。先輩もオレの正面に立ち、持ってきたネクタイを首に掛けるとオレの手を真剣な顔で見つめてきた。
「まず先がでかい方を長めにして……」
「うん」
「……で、さっきので輪っかができたろ?こっちを上に持ってって──」
「……うん?」
「……こっちを引いたら、完成っす」
 慣れた手つきと共に、説明が終わる。短剣を下に引っ張り、結び目を上に持っていったところで両手を離した。
 まあいつもは、こんなキツく締めたりしないけど。先輩もそれくらい分かっているか。
「とりあえず、オレがやったみたいに結んでみて下さい」
「あー、あー……んん……」
 ……なんだか歯切れの悪い返事をされた。その理由はすぐに分かった。結び方を説明しながら先輩の様子を見ていた時、途中からずっと首を傾げて苦い顔をしていたからだ。
 案の定、先輩は首に掛けたネクタイの両端を手にし、オレに持たせようとした。
「ごめん。今度はちゃんと見てるから、1回だけ結んでもらっていい?」
「……」
 上目遣いあざと……!この人オレ相手だからってわざとやって……!!
「……いーっすけど、オレ人のやったことないんすよ」
「え、そうなの?」
「だから正面からできるか、正直ビミョーで……」
 わざとらしく肩を落としつつ、先輩の肩を掴む。ぐ、と片方の肩を押して先輩に背中を向けさせると、先輩の耳に顔を寄せる。目を見開いて驚く先輩の顔が、いつもより近くで見えた。
「後ろからなら多分できるんで、やってあげますよ先輩」
「……う、うん」
 畳が擦れた小さな音を拾うと、腕を下ろして背中をオレに預けにくる。先輩の髪が揺れた瞬間、自分以外の匂いが際立った。
 ……今の、かなりヤバかった。
「っ……」
「だいじょぶ?」
「あぁ、なんでもないっす!!」
「……そう?」
「いいっすか?こっちで結び目作るんで、先に長めにしとくんです」
「うん」
 後ろから手を伸ばすと、先輩の首に掛けられたネクタイにそっと触れる。真新しいそれの大剣を引っ張っていくと、シャツと擦れる音が小さく鳴る。もう一度、今度は先輩越しにネクタイを結び始めた。
 先輩からちゃんと見えるよう、先輩の胸元近くで両手を下ろして結び目を作っていく。慣れてしまった動きは、なるべくゆっくりに。今度はちゃんと話を聞いてくれているのか、先輩は黙ってオレの手の動きをじっと見下ろしていた。
「で、ここに通したら、結び目小さくしてく……」
「やっぱ、いいなぁ」
「……先ぱーい、話ちゃんと聞いてます?」
「あ、ごめん。見惚れちゃって」
「何に」
「んー……ここ、とか?」
 つう、とオレより細い指先が、ネクタイを結ぶ途中で止めた手を這う。手をそのままに、先輩は背後に立つオレへと振り向いた。
「いや、改めて見たら、“男の人の手だ”ってちょっと思っちゃって」
 気づいた時には、ネクタイから手が両方とも離れていた。
 自由にした腕は躊躇うことなく、目の前にいる先輩の肩へと伸びる。自分よりも少し狭い肩に触れると、手に力を籠めてぎゅう、と掴む。そのまま抱き寄せ、細い首に顔を埋めた。
「え、えっ」
「はあぁぁ……っ」
「千冬くん、なに急に」
「急なのはそっちっすよ……不意打ちとかマジでズルい……そーゆーの、もっと言って欲しいっす」
「はいはい分かったよ」
 呆れたような声色と共に、先輩の肩が何度か上下に揺れる。顔を見せないまま、手を後ろに回してオレの頭に触れると、染めた髪をくしゃりと軽く撫でてきた。



○彼女をお姫様抱っこしたい
 テレビの中では、その場で倒れた主役の女優を若い消防隊員が抱えて運んでいる。どう見てもそれは、お姫様抱っことよく呼ばれている運び方だった。
 少女漫画でしかやらないものかと勝手に思っていたけど……なるほど、仕事ですることは考えていなかった。それに消防隊員の恰好なら、(制服補正もかかるし)救助って名目でやっても違和感がない。
「うわ、軽そー……」
 絨毯に横座りする先輩が隣で呟く。遊びに来る途中で買ったスナック菓子に手を伸ばしながらも、リビングのテレビに釘付けになっていた。
 ちょうど親は出払っている。しばらく帰ってくる予定はない。今この家にいるのはオレと先輩の2人だけ──
「……」
 ペケJがのろのろとオレの隣に近づき、胡坐をかいている足に寄りかかるように寝転んだ……家にいるのは、オレと先輩とペケJだけだった。
「ああいうのって、かっこよく見えるんすか?」
「そりゃ、あんな軽々とされちゃうと」
「ふーん……そっすか」
 ペケJを少し持ち上げてオレの足からどかし、かいていた胡坐を解いて立ち上がる。テレビをずっと観ている先輩の正面に移ると、そこでしゃがみ込んだ。ちょうどテレビを背にする形になり、先輩が困ったように笑う体を左へ右へ揺らして、オレの後ろにあるテレビを観ようとした。
「もう、千冬くーん観えないよー」
「……せんぱーい」
「なに?」
「ちょーっと、さっきのやつ先輩にやっていいっすか?」
 ぽろ、と、先輩の手から食べようとしていたポテチが零れ落ちた。
「一応聞くけど、お姫様抱っこを?」
「はい」
「千冬くんが?」
「もちろんっす」
「……えー……?」
 少しの間を置いてから、先輩の細めた目がオレを捉えた。
 “本当に千冬くんできるの?”とでも言いたげな目。いくら先輩だとしても、その顔は納得がいかなかった。
「できますから!」
「やったことあるの!?」
「……ないっす、けど」
「じゃあいいって、パーちんやドラケンじゃないんだし」
「……は」
 ぼそりと出てきたのは、聞き捨てならないあだ名。よりにもよって、どう見たってオレよりガタイがいい2人。オレがやろうとしたら落とされるかもって、先輩が思っているってことじゃねえか。
 納得がいかない。その場で膝を立てると、むっとした顔で親指を立ててやった。
「先輩、ちょっとオレのことナメ過ぎ。オレだって少しは鍛えてっから、先輩をお姫様抱っこするくらいヨユーっすよ」

「先輩、そんなにオレのこと信じられないんすか?」
「だって、畳でも落ちたら痛いし」
「はぁ……」
 せめて安全なところに落とされたい。先輩がお姫様抱っこに応じた時の条件を飲む為に、リビングからベッドのあるオレの部屋に移った……オレが先輩を落とすの前提なところが、やっぱりムカつく。
 やり方は一応、自分でも調べてみた。ドラマでは女1人を余裕で持ち上げて歩いていたけど、アレも腕や腰だけで支えているわけじゃあない。ちゃんと負荷を減らした、理にかなっているやり方らしい。
「んじゃ、やってみせますから先輩も協力して下さいよ?」
「う、うん……」
 2人でベッドのすぐ傍に立ち、その場で姿勢を落とす。立てた片膝を2,3度軽く叩いて先輩を見上げる。1つ頷いた先輩は恐る恐る、立てた膝に腰を下ろした。
 足の付け根の方に寄ってもらうと、先輩の両手がオレの顔へと近づいてくる。そのうち首に触れると、しがみつくように両腕とも首へ回された。
 重心を後ろに置きやすくする為、という真っ当な理由……とは言え、先輩の顔がいつもよりずっと近くなった。
「立つんで、手離したらマジで危ないっすよ」
「っ!」
 首に回された細い腕に、より力が入る。絶対に落とすなとオレに縋りついているみたいで、先輩を見て密かにほくそ笑んだ。先輩のこと、間違っても真下に落とすわけにはいかないっていうのに。
 先輩の腰より少し上へ、太腿の裏へと服越しに手を添える。後はオレが、自力で立ち上がるだけ。
「っしょ……とっ」
 下半身全体に力を入れ、膝を畳から離した。膝が少し曲がったままだけど、上手いこと先輩を持ち上げられたみたいだ。
「ほらせんぱーい、オレだって、できるんすよ!!」
「あーもう、分かったからっ」
「されたらどう思うんでしたっけー?」
「はいはい千冬くんカッコいいね!!」
「へへっ」
「〜〜ほら、終わり終わり!」
「えー?もうちょっと付き合ってくれたっていいじゃないですか」
 先輩をお姫様抱っこしてやった。やけくそ感は否めないけど“カッコいい”って言ってもらえた。こんなの、テンションが上がってしょうがない。そんな簡単に終わらせるつもりは、この時までは微塵もなかった。
 誰かがインターホンを鳴らすと、それからドアを何度か叩く。親が帰ってきたわけじゃあないみたいだ。
「お客さん?」
「そんな話聞いてな……あー」
「?」
「多分、タケミっち……」
 そういえば、(借りパクした)漫画を返すってメールがあったような。なんで来るんだよ、今いいところだったのに。
「アレ、開いてんじゃん……千冬ー、いるよなー?」
 玄関扉が開き、呼んでいる声が遠くから聞こえる。やっぱり来たのはタケミっちだった。
 思わず先輩と顔を見合わせる……お姫様抱っこ中だからか、いつもよりずっと顔が近い。
 廊下から聞こえる紙が擦れる音と足音で我に返る。今のままでいれば、声を掛けようが掛けまいがその内タケミっちはオレの部屋にも入る。
 タケミっちはこれを見て……マジで、どう思うんだ。『来るって言ったのに、オレの前でいちゃつくなよー!』って泣きながらキレるくらいで済むか?
 ……あーでもタケミっち、泣くと落ち着くまで面倒な時あるしなぁ。先輩が来ている時にそれされると困るし、惜しいけど先輩を下ろした方がよさそうだ。
「先輩、ちょっと下ろします」
「う、うん。てっきり下ろしてくれないかと……」
「……」
「……千冬くん、なんか震え」
「だいじょぶ……っす」
「!ちょっと、落とすなら」
「今やろうとしてます!」
 離れることが惜しくて、先輩を支えていた腕やら足に限界が来ようとしていた。少しでも今より膝を曲げたら、そのまま一気にバランスが崩れそうだった。これ後で、先輩に『もっと筋肉つけなさい〜』とか文句の1つや2つは言われそうだ。
 壁越しにタケミっちがオレを探す声が時々聞こえる。そんな中、畳を小さく擦る音を1回、2回と短く鳴らし、じわじわと両足をベッドの方へ進ませる。勢いに任せて動かそうとすれば、すぐにでもバランスを崩しそう……せめて倒れるのは、先輩をベッドに下ろした後にしてくれ。
「せん、ぱい……ベッド、着いた、っす」
「じゃあ、手、離すよ……?」
 首にしがみついていた先輩の腕が、ゆっくりと滑り落ちていく。両腕とも離れたタイミングで自分の腕をベッドへ下ろすと、抱えていた先輩の体がベッドに少し転がった。
 タケミっちに何か言われることもないし、これで、ひとまず安し──
「「え」」
 また先輩の顔が近くなっていく。気づいた時には、まだ先輩が寝ているベッドに倒れようとしていた。
 咄嗟に両手を前に伸ばす。片膝と、先輩の顔の両隣に手を勢いよく着くと、2人分の重みでベッドが大きく軋んだ。
「……」
「……」
「……わざとじゃ、ないっすよ」
「分かってるから……ねえ」
「ん?」
「筋トレなら、付き合いますよ?」
「……なんで急に敬語」
「なんとなく」
 オレの下で先輩がくすくすと小さく笑っている。口には出さないものの、またどうせオレのことを可愛いとか考えている顔だ。
 分かり易い反応に溜息が出る。文句をすぐにでも言ってやりたいけど、起き上がれそうにないこんな状態じゃあ説得力がなさ過ぎた。
「……いつかリベンジするっす」
「いつでも受けて立つよ」
「なんスかその言い方」
「ふふ」
「千冬ー、お前まだ寝てんのかよー!」
 どたばたと立てた足音がすぐ近くで止むと、間を置かずにオレの部屋のドアが一気に開かれた。
 部屋に入ってきたのは、右手に紙袋を持ったタケミっち。なお、先輩はまだオレとベッドに挟まれたまま。
「ちふ……」
 ──バサッ
 振り向いたオレとタケミっちの目が合う。瞬間、タケミっちの手から紙袋の持ち手が離れ、床に落ちると同時に紙が破け、借りパくされた大量の漫画が床に崩れた。
「〜〜千冬!オレまだなんだから先卒業すんなよォ!!」
「相棒(26)の童貞未卒とか知らねぇよ」
 結局この後、泣きながらキレたタケミっちを2人で落ち着かせるハメになった。お姫様抱っこをタケミっちに見られるより、こっちの方が面倒だったかもしれねぇ。

(この後めっちゃ筋トレした)



○少女漫画で見たことあるやつと思ったら少年漫画だった
 早朝、ペケJにご飯を出すと、ネクタイをブレザーのポケットに突っ込んで家を飛び出した。
 携帯を開くと、時刻はいつも家を出る時間より1時間も前。どうしてこんな時間に出たのかと言えば、先輩がいつもより早く学校に行くと伝えたからだった。
 今まで使わない時間帯だったから知らなかったけど、少しネットで調べれてみれば混雑の酷さがどれくらいなのかすぐに分かった。そんなところに先輩1人で行かせるのは心配でしょうがない。すし詰め状態になってげっそりした先輩の姿が頭に浮かんで、昨日の夜はすぐに寝支度を済ませた。
「……あ、先輩おはよーございます。今駅向かってるんで、改札で合流でいいっスか?」
≪は?≫
 因みに同じ電車に乗ろうとしていることは、昨日のうちに先輩に言うことを忘れていた。

「……」
 合流した先輩と電車に乗り込むと、いつもより乗客が多いように見えた。座席は1人分さえも空いていない。
 先輩だけでも座ってほしかったけど、ないものに文句を言ってもしょうがない。車両の壁際まで先輩の手を引くと、先輩の背後にある扉に両手をつく形で正面に立った。こっちの扉は、オレ達が降りる駅まで開かない扉だ。
 予定にしていなかったオレとの待ち合わせに……先輩はさっきからずっと呆れ顔を貼り付けていた。
「心配し過ぎ」
「問題あるんスか?彼氏が彼女の心配して」
「……ないけどー」
 視線をオレの顔から少し下ろし、先輩の右手がオレに伸びてくる。目でその動きを追いかける。ブレザーのポケットに指が近づくと、ポケットからはみ出ていたネクタイを掴み取ってしまう。
 両手をオレの首に回してネクタイをシャツの襟に通すと、慣れた手つきで結び目を作った。
「支度、半端だよ」
「……っス」
「あと」
「?なんでティッシュ」
「口に付いてる」
「っ!?」
 思わず片手を扉から離し、先輩からティッシュを1枚貰ってすぐさま口を拭ってみる。ティッシュに移ったのは、チーズのような色……家を出る間際、母ちゃんに食べろと渡されたサンドイッチの具に見えた。
 はっず……合流する前にトイレで鏡見ておけばよかった……!
「ところで何が心配だったの?」
「そりゃあ……」
≪まもなく、○○ー、お出口は右側……≫
「あ」
 電車のスピードがゆっくりになり、ガラス越しに駅のホームが映る。ホームには乗り込んだ駅よりも人が集まっている。アナウンスで伝えた駅名は、オレが調べた時に出てきた駅名だった。
 電車が停まり、扉に寄っていた乗客が数人だけ降りていく。最後の1人が降りた途端、スーツ姿の乗客が大勢車両の中に押し寄せてきた。
 あっという間に乗客は扉のギリギリまで乗り込む。乗り切れなかった人をホームに何人か置いて扉が閉まり、電車がまた走り出した。
「な、なにこれ……」
「リーマンっスよリーマン」
「それは分かるけど、何この人口密度!?」
「この辺にデカい会社の社宅があるとかで、ちょうどこの時間帯に乗ってくらしいっス」
「知らなかったからびっくりした……というか、千冬くん」
「なんスか」
「……大丈夫?色々と」
 車両の中は一気にですし詰め状態。カーブに差し掛かる度に、周りの乗客が背負ったままになっていたリュックや肩にぶつかってくる。顔を顰めていると、オレの両腕の間に収まっている先輩が申し訳なさそうに見上げていた。
「大したことないっスよ。その辺の雑魚い不良に小突かれるようなもんですから。先輩は平気っスか?」
「大丈夫……さっきはああ言っちゃったけど、こうなってみると、やっぱり来てくれて良かったよ」
「……」
「ありがと千冬くん」
「……っ」
 更に下に顔を向けて、先輩の顔から自分のスニーカーへ視線を移す。下唇をひたすら噛んだ。そうでもしないと、先輩に口角が吊り上がっていることに気付かれそうだった。
 あー、いいなこれ……先輩に頼ってもらっているって感じがもろにする。早く家を出た甲斐があった。
「オレいてマジで良かったっスねぇ……せんぱ、う゛っ!!」
「!?」
 アナウンスが入った直後、車両がまた大きく揺れる。大きなカーブに入り、先輩が背にしている方へ車両が僅かに傾く。その拍子に、誰かがリュック越しにオレの背中を強く押してきた。
「!」
 体勢が前に向かって大きく崩れる。掌だけを付けていた扉に肘まで音を立ててぶつかり、前のめりの体勢になった。
 先輩を自分の体で潰さずに済んだものの、足が前に進んだ分、当然ながら先輩との距離がさっきより詰まる。何か柔いものが胸から腹にかけて当たっていることに気付いたのは早かった。
「……」
「……」
 視線を真下に落とせば、2本のネクタイがオレと先輩の間に挟まってぴんと張っている。先輩の胸が横に広がるように歪んでいる……先輩の体に、シャツ越しとはいえ自分のそれを盛大に押し付ける形になっていた。
「……!!……〜〜スイマセン!!」
「あー、流石に分かるよわざとじゃないことくらい」
 わざとじゃあなくてもこれ、ヤバい……!
 前に、当たっている。色んな人の匂いに混じっていい匂いがする。やっぱり当たっている!!
 じっとりと項に汗が浮かぶ感覚を覚え始める。先輩が目の前にいるにもかかわらず、意識が1つのことに完全に持っていかれた。
 別にこの感触が初めてなんてわけじゃあない。先輩に正面から抱き着けば自然に当たる。ただそれを他人に、場所を問わず強要されるとなると話は別だった。
 あの野郎マジふざけんなよ。こんなシチュじゃあなきゃ今頃、“少女漫画で見たことあるね”とか考えていたっていうのに……!
 忌々しい後ろの男に肘でも1発くれてやりたかったけれど、両手とも体を支えるのに忙しい。出来たのは振り向いて睨むこと。それでも拝めたのは後頭部と携帯の画面だけ。こんな混み合っているというのに暢気に携帯を見ている事実が余計に腹が立つ。それでも男のツラを拝むことすら叶いそうになかった。
「……先輩、ちょっと素数数えていいっスか」
「え?怖いからやだよ」
 ──結局、乗客が一斉に降りる駅に停まるまで、体を先輩に押し付けたままだった。空いた席に座らせた先輩とは、しばらく目をどうにも合わせられなかった。
「スイマセンっした」
「だから、勝手に私を被害者にしないで……むしろ私が加害者のような」
「オレに何したって言うんです」
「逆セクハラ」
「……むしろ大歓迎っス。さっきみたいなシチュ以外なら」



○1ヶ月後、右耳にピアスを付けた彼女と待ち合わせ
「お先失礼しまーす」
 店のシャッターを閉める店長に見送られ、シフトが被った千冬と帰ることになった。
「はー、さみー……早くコタツ入りてー」
「私も早くあったまりたいぃ……」
 隣を歩く千冬とほぼ同時に息をゆっくり吐く。すっかり暗くなった空に、白くなった息が一瞬掛かった。
 体を縮ませた千冬は、緩く巻いていたマフラーを巻き直す。それを横目にしつつ、ブレザーのポケットから携帯を取り出す。バイト中に届いたメールの通知を見なかったことにし、都内のイベントを調べ始めた。今度の休みに千冬と出かける場所でも見つかったらいいけど。
「この時期ってどこも駅前でイルミネーションやるんだねー」
「あー、ハロウィン終わったしな……」
「……あ、上野の駅ナカにクリスマスツリー飾るんだって。ちょっと見に行こうよ」
「わざわざ行くほど興味湧かねぇ」
「近くの百貨店で写真展やるけど。岩合○昭って人の」
「そっちには行く。ツリーはついでだからな」
「ふふ、分かったよ。シフト入れないでね?」
 くすくすと笑いながら視線を千冬から携帯に戻す。待ち受け画面に戻ると表示された日付に目が留まった。
 ……来月は千冬の誕生日がある。そろそろプレゼントの候補を決めておきたい。
「ねぇ、誕生日何が欲しい?」
「あ、もうすぐだっけ?」
「忘れないでよー」
「んー……バイク、くれたりすんの?」
「え」
「はは、じょーだん」
 誕プレねぇ、と千冬は歩きながら頭の後ろで手を組んだ。
流石にバイクなんて、バイトをしている身とはいえ中古でも買える金額じゃあない。
 一応、定番のプレゼントでもないかと携帯で調べてみた。けど【誕生日プレゼント 彼氏 冬】で候補として出るのは、ニット帽やマフラーといった冬定番の雑貨ばっかり。温泉旅行だの高価なアクセサリーだの、手に届かないものはスルーするしかなかった。これも高校生にはちょっと高いし、千冬にあげたいものでもない。
「うーん……どれも他と被りそう」
「なぁ、バイトの給料で買えそうなやつならイケんだよな?」
「そうだけど、っひ!?」
 何かに摘ままれた片耳が急に冷たくなる。変な声を出してすぐ、耳を摘まむ何かを掴むと私より大きな手。やや引いた顔になっている千冬の手だった。
「うわ、何だし今の」
「きゅっ急に触るから!」
「……あの、さぁ」
 千冬の手が私の耳から離れていく。街灯の下で立ち止まると、その手は今度、ピアスを付けた千冬自身の左耳を弄り出した。
 日が落ちたから気のせいかもしれない。目を私から逸らしながら、自分で弄り続けている千冬の耳が少しずつ赤くなっているように見えた。
「んー?」
「ピアス2個セットの買ってよ。オレ片方付けっからさ」
「……私、耳開けてないけど」
「あー、そっか」 
「いやでも頼めばイヤリングにしてくれる……?」

「……いっそ穴開けるってのも、アリじゃね?」

 耳に顔を寄せてきた千冬の吐息を、不意に肌で感じた。
 千冬からの提案も、詰められた距離も、あまりにも急なことだった。だから咄嗟に、千冬に返す言葉が1つも頭に浮かんでこなかった。
「……」
「うし、開けっか」
「え、ちょっと待って」
「なに、ピアスやなワケ?前にイヤリングより欲しいやつ多いって愚痴ってたじゃん」
「そ、そうだけど……!」
「じゃ、決まりだな。準備は手伝ってやっから、付けたいピアス探しとけよ?」
 いい案だろ?と言わんばかりに千冬が歯を見せてニッと、私に笑いかけた。
 ……あれ、今“準備”って聞こえたけど、何の話をしているんだろう。
「あ、あのー、穴開けるのは」
「何言ってんだよ。オレがすんだし」
「っえ」
 当然のような顔で返されて、思わず出した声が裏返ってしまった。
 軽いノリでなんてことを言うの……ああ、考えてみればそうだ。中1でピアスを開けたこの男が、病院で穴を開けるなんて考えるはずなかった。
 ……そういう意味で“も”、動揺したことは確かだけど、
「なに必要だったかな、ピアッサーとファーストピアスはいんだろー……消毒液って切らしてたか?」
「……〜〜!!」
 ち、千冬の手で、私の体(※耳)に穴を開けられる……!!
 自分の両頬に触れると、寒空の下にもかかわらず指先が温まる感覚。1ヶ月後の自分に起こるだろうことを想像すると、顔の火照りがしばらく治まらなかった。

(ピアスを付けた後)
「んー……」
「ピアスやだった?」
「いや、やじゃねーけどー……猫かよ」
「黒猫。可愛いのいっぱいあって迷ったな〜」
「……デートでしか付けねぇからな」
「えー?学校で付けていいのに」
「ぜってー付けねぇ」



○2007年でガッ○ーがCMに出ていたあのお菓子
 バイトのシフトが入っていない今日、放課後から先輩がオレの部屋に上がっている。先輩の膝に乗ったペケJにおやつをあげる先輩の様子を、ただをじっと見つめていた。
 ペケJが先輩の膝の上で寛ぎ始めて、かれこれ30分。飼い主以外に慣れ切っていることは別に文句を言うことじゃない。ただ、それはもう少し後に、せめて10秒だけでも後にしてほしかった。
「……っ」
 あー、キスしてぇー……!ペケJがそこにいると、前足こっちに出して邪魔してくるからやりづれぇんだよ!!
 それに“キスしていいっスか”って、オレの彼女相手とはいえ尋ねるのは唐突過ぎる気がする。先輩にからかわれる未来がもう想像できる。
 なにかこう、上手いことそういう雰囲気に持ち込めるもの……
「!!」
 リュックの中に、ポッキーがあることを思い出した。あざとくも可愛いダンスを女優がするCMを観て、通学途中に衝動買いしたんだった。
 先輩とこれでポッキーゲームをすることになれば、そのままキスできるし、ペケJに水を差されないことが前提になるからイケるんじゃねぇか……?

「〜〜先輩っ、オレとポッキーゲー……」
 行動に移ることは早かった。開いたパッケージからポッキーを1本出し、先輩の前に突き出そうとする……既に先輩が、オレが持っているものより細いポッキーを咥えてオレを上目で見据えていた。
 先輩のバッグの近くには、オレが買ったやつとは少しデザインが違うポッキーの箱。もちろん箱は開封済み。それにいつの間にか、先輩の両腕はペケJをしっかりホールドしていた。
「……先輩、グロス塗り直しました?」
「んー」
「……」
 真剣な顔で頷けば、先輩が咥えたままのポッキーが上下に小さく揺れる。情報量が、少し先輩から目を逸らしただけでこの量。それでも先輩の意図だけははっきりと理解できた。
 なんだ、そのつもりならそう言ってくれれば……オレが悩んだことがバカらしくなる。
「あざといっすよ、先輩」
 なんて分かり易いアピール。オレも、先輩さえもこれはゲームが目的じゃあないらしい。
 ポッキーのチョコレートがついていない部分に歯を立てる。そのまま小さく音を立てながら、先輩との距離をじわじわと詰めていく。
 あと2,3口でポッキーがなくなるタイミングで、両手で先輩の頬を包む。そのまま目を閉じ、ゆっくりとまた顔を近づけていった。

 数秒後、しっとりとした感触に紛れたチョコレートの甘さを唇で感じた。



○先輩、開けたなんて聞いてないっス
「千冬くーん、バイトお疲れ〜」
 日没はとっくに過ぎた夜。閉店作業を終えて店から出ると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。辺りを見回すと、外灯の下に見慣れた人の姿があった。
 白い息を吐き、イヤーマフをした先輩が鼻を赤くしつつオレに笑いかけた。
「先輩、用事済んだんスか」
「流石にもう終わったよ。もうバイト終わったんでしょ、帰ろ?」
「あ、オレ家まで送ってきますよ」
「ありがと」

「誕生日もバイトなんて大変だったね」
「今日はいつもより忙しくなかったから疲れてませんよ」
「ならよかった」
 先輩が待っている間に買ってくれたホットミルクティーを口にしながら帰り道を辿っていく。隣を歩く先輩の横顔にちらっと目をやると、耳をすっぽりと覆っている耳当てが気になった。いつもオレと会う時には付けていた記憶がない。だからか、なおさら珍しくてまじまじと見てしまう。その視線は誰が見てもきっとあからさまで、すぐに先輩も足を止めてこっちを見上げた。
「なに?」
「そんなの持ってたんスね」
「これ?ちょっと親から借りた。なんか外寒そうだったし」
「……確かに今日、風冷たすぎっスよねー」
「雪じゃないだけ、まだマシ……」
 言った傍から冷たい風が正面からオレと先輩を襲う。肩を縮ませてマフラーを鼻まで引っ張り上げ、先輩と顔を見合わせる。冬の日が差さない時間帯、外で長居はしたくない。お互い何も言わずに、ほぼ同時に歩調を速めた。
「千冬くん、明日バイトまで時間ある?」
「2時間くらいは空いてますけど、どうしたんスか」
「……こんなのを、うっかり見つけちゃって」
 先輩が開いたガラケーをオレに見せてくる。受け取ったそれの画面に出ているのは、年間の記念日やら有名人の誕生日やらを日にち毎にまとめたページ。オレも暇な時に調べたことがある。
 で、今日はというと……
「……毎月19日が“クレープの日”って、クレープどこから出てきたんスか」
「さぁ?でもこういうの見ると食べたくならない?」
「気持ちは分からなくはないっスけど」
「でね、今日通りかかったとこにクレープ屋ができてて」
「……あー、オレも付いてくっスよ。バイト前になんか食べときたいし」
「そういうこと」
 私の彼氏は話が早くて助かるなあ。先輩の呟くような一言は、しっかりとオレの耳に届いていた。

「送ってくれてありがと」
 貰ったミルクティーを飲み終えた頃には、先輩の家に着いていた。
 短い時間だった……できることならもう少し先輩と話していたかったけど、外の寒さが絶対に許さなかった。
「……」
「千冬くん、ちょっと手貸して」
「は?」
「いいから」
 先輩は家にはまだ入らなかった。持っていたペットボトルをコートのポケットに突っ込むと、反対のポケットをおもむろに探り出す。ポケットから何かを取り出すと、オレの片方の手を取り、掌にそっと乗せた。
 掌の上に乗せられたのは、細いリボンでラッピングされた、オレの掌に収まるサイズのギフトボックスだった。
「誕生日プレゼント、今日中に渡したかったんだ」
「え、マジっスか……い、今見ていいですか!?」
「いいよ今でも」
 くすくすと笑う先輩の目の前で躊躇いなくリボンを解き、ボックスの蓋を開ける。ボックスに収まっていたのは、緑がかった青色のカラーストーンが付いた2つのスタッドピアスだった。
「この色持ってないッス」
「よかった。ターコイズって書いてあったんだけど、なんかこの色千冬くんみたいだなって」
「……」
「千冬くん、もしかしてこの色嫌だった?」
 自分の口を、空いた手で先輩から覆い隠す。にやけている顔なんてダサいから見せたくなかった。
 色の名前とか正直どうでもいい。オレのことを考えて選んだことで頭がいっぱいだった。
「滅っ茶苦茶アガる……帰ったら、すぐ部屋に飾るんで……!」
「いや1回くらい付けて……じゃあまた明日、千冬くん」
 背を向けた先輩が玄関扉に手を伸ばす。扉を引いて家の中に入ると、先輩は靴を脱がずにその場で立ち止まった。
 そのままイヤーマフを外し、オレの方へ振り返った。
「っえ」
「誕生石おめでと」
 バタンと扉が閉じる。室内から漏れた明かりが断たれた後も、扉の前で立ち尽くしてしまう。
 イヤーマフで隠れていた、先輩の耳朶についていたものを数秒だけ目にした。先輩がこっちを向いた時、耳朶を挟んでいる物を見つけた。
 ……思い出した、オレが何年か前に使ったファーストピアスとよく似ていた。
「……あ」
 我に返って貰ったばっかりのピアスをもう一度見る。思えば片耳しかオレは付けられないのに、どうして同じピアスを2つもプレゼントしたのか。察するまで時間はそうかからなかった。
 先輩は耳にピアスを付けていたことなんて一度もなかった。穴を開けた後放置したような跡さえ、先週の金曜日まで見たことがなかった。
「……〜〜〜っ!!」
 コートのポケットから掴み取ったガラケーを開くと、かじかむ手でボタンを必死に押し続けた。
【先輩、開けたなんて聞いてないっス!】
【言わなきゃいけなかった?】
【そういうワケじゃないっスけど…】
【来月、付けにきてくれるよね?】
「あ゛ぁっ、1ヶ月待つとか、もどかし……っ!!」
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