01.1 ボウヤへの信頼と不安
「わかった、莉乃さんありがと!」

 ボウヤがスマホで通話を終えると、俺にいい顔を見せる。どうやら、一時的に寝泊まり出来る場所を確保することが出来たらしい。
 炭になってしまったアパートの代わりに阿笠博士の家に住むことを自ら提案したが、博士の背中から剥がれるようすのない宮野志保に首を横に振られてしまった。それを見たボウヤが、隣の工藤邸にしばらく住むことを提案したのだ。先程の電話は、工藤邸を仮住まいとしている人に同意を得る為のものだった。
 “しばらく”とは言ったものの、目的が目的の為、それがいつになるかは随分と先の話になるだろう。もしかしたらその頃には、この変装自体を止めているかもしれない。

「助かったよコナン君。それで、その人はどういう人なんだい?」
「“綾瀬莉乃”さんっていう、女子大生だよ!先週から色々あってあの家に住んでるんだ」
「……女性?」

 一瞬、思考が停止した。女子大生という言葉が聞こえたのは、俺の聞き間違えだろうか。

「その人、よく僕が住むことを許可してくれたね」
「うん、莉乃さんに昴さんが男の人だって言ってないもん」
「……」

 どうやら聞き間違えではなかったようだ。
 そうか、昴……この名前は女性でも使わないことはないから、彼女は男か確認をしなかったのか。いやしかし、いくら宮野志保の監視をする為とはいえ、女性を騙してまで一緒の家に住んでいいものなのか。

「大丈夫だよ!莉乃さん優しいから」
「本当かなあ……」
「それにあの家、莉乃さん1人だと広過ぎるし。話相手とかいた方が、莉乃さんも助かると思うよ?どうでもいい話とか、冗談でもいいから」
「話相手ねえ……」

 これまでの仕事でもあまり不要な会話はしてこなかったが、沖矢昴としては必要になりそうだ。今までアパートに住んで同じ棟の住人と顔を合わせた時に挨拶程度はしたが、今度は同じ家に住むんだ。話せるタイミングがあればなるべく話しておくとしよう。

「江戸川君、本当に莉乃さんとあの人を住ませるつもり?」
「ああ」
「騙されたの知ったら、莉乃さん絶対怒るわよ……あなたに」
「大丈夫だろ、莉乃さんもいい大人なんだし」
「いい大人ねえ……本当にそうかしら」

 俺を睨む少女――宮野志保は俺が隣人になることを諦めたのか、今度は既に住んでいるらしい女性の心配を始めた。綾瀬さんのことをよく知っているような反応。そしてこの後すぐに起こる出来事すら、彼女は読めているようだった。

「莉乃さーん、もーいーいー?」

 ボウヤがインターホンを押して数秒。夕方になり、2人で約束通り綾瀬さんが住んでいる工藤邸を訪れた。
 この家自体、家主が活動拠点を海外としている為、家主の息子――工藤新一が行方不明になってからはずっと空き家状態。彼の幼馴染が定期的に掃除をしてくれているそうだが、綾瀬さんが住めばその負荷も軽くなると踏んで、住むことをあっさりと認められたらしい。

「昴さん、レシート落としてるよ?」

 ボウヤが俺の上着の袖を引っ張る。いつの間にか手にしていたレシートを受け取ると、30分前に刷られたものだった。その時間にはまだ、俺もボウヤも阿笠博士の家にいたはずだ。

「いや、これは僕のじゃないよ……その、さっき話してもらった、綾瀬さんが落としたのかもね」
「莉乃さん、楽しみなんだね!これきっと、昴さんが来るって言ったから買ってきたんだよ!」
「そうか……」

 レシートに印字されているのは3種類のケーキ。おそらく、ボウヤの分と自分の分も含まれている。
 ……随分、綾瀬さんは俺が来るのを待ち遠しく思っているらしい。この期待を裏切らなければいいが。

「コナン君、お待た―――……え?」

 玄関のドアを開け、綾瀬さんらしき女性が現れた。目線がボウヤから俺の顔へと上ると、満面の笑みから一転した。
 数分後、ボウヤは電話口でクソガキと罵られることになる。俺から絶大な信頼を受けているボウヤが、綾瀬さんから信頼を失っていく様には困惑せざるを得ない。
 まあ、それはボウヤの自業自得に違いない。そしてその飛び火が俺にかかることは目に見えていた。

 ボウヤ……どこが“大丈夫”なんだ?
++++++++++++
昴さん、いきなり好感度最悪である。

昴お姉さんとガールズトーク期待している莉乃さんが“いい大人”なはずがない。
それでも住まわせてくれるんだから、莉乃さんが優しいのには違いないのだった。
でもボウヤは嫌いになるしかない。\(^o^)/
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