「はい、それじゃあ今日の授業は終わりです!何かわからないことがあったら、放課後職員室まで来てくれると嬉しいな!」

私立藤城学園。
この高校でわたしは、教育実習生としてお世話になっている。
実習期間もだいぶ経ってきて、ようやくこの学園にも慣れてきた。
今は2限の授業が終わったところだ、生徒たちは授業が終わると同時に各自昼食の用意をしている。

「…あ、お弁当忘れたかもしれない」

そんな残念なことに気づいてしまったわたしは、職員室へと帰って財布の用意をする。
お昼休みは購買激戦区だ、現役生徒達に叶うかどうか…うーん怪しいところだ。
職員室で一人心の中で意気込みをしていると、後ろから肩を叩かれた。

「あれ、柏木先生今日お弁当は?」
「……む、向井先生…お察しください」
「なんていうか…ごめん。…あ、そうだ、俺の弁当少し分けるよ、今日は多めに作ってきたし」

話しかけてきたのはわたしと同じく教育実習生の向井先生だ。
彼は世界史教師を志している…そんなことよりも大切なのは向井先生の料理はすごく上手であるという点。
わたしはあまり料理が得意ではないので、隣の席の向井先生がいつも美味しそうなお弁当を持ってきては地味にへこんでいる…というか、女として負けている。

「そんな気にしなくて大丈夫、俺も誰かに弁当食べてもらいたいし」
「んん…でも、向井先生料理上手だからお弁当とかいただいたら立ち直れなくなりそうなんです…」
「いいやそんなことないって、まあとにかく俺の弁当食べてください」

一ノ瀬先生や真山先生の視線に耐えながらも、仕方がないので向井先生のお弁当を分けてもらう。
わー…美味しくてコメントに困るこれ!
本当に、なんでこんなにこの人料理上手なんだろう、産まれる性別を若干間違えている気がしてならない。

「…………あの、」
「どう?美味しい?」
「あー…もう、あの…ものすごく美味しいです……」

わたしが感想を伝えると、向井先生はとても嬉しそうに自分の弁当を食べる。
確かに、自分の作った料理を美味しいと言ってくれるのはすごくうれしいことなのだろう…わたしは言われたことないけれど。
そんな感じで、わたしと向井先生は同じ実習生として互いに切磋琢磨し合う仲…というべきか。
正直な話をすれば、向井先生はすごくいい人なのだ。
それはもう、わたしが恋に落ちてしまいそうになるぐらい。
でも、わたしはこの学校へ教師になるために来ているのだ。

「二人とも本当に仲がいいね、羨ましいよ」
「あはは…これじゃどっちが女だかよくわかりませんけどね」
「なら、今度は柏木先生がお弁当作ってくる番だな!」

今恋愛に現を抜かしている場合ではないと必死に言い聞かせながら、わたしは毎日生活している。
向井先生のお弁当を食べながら、無理やり頭を午後の授業のことに切り替えた。
さあ、午後は実験の準備があるから早く行かなくちゃ。

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06/02
見切り発車

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