「…というわけで、遅くなっちゃったけど今日は二人の歓迎会ってことで乾杯しようか!」
「あ、ありがとうございます…!」

学校が終わり、私も帰ろうとしていたその時…珍しく一ノ瀬先生が私に用があると言っていたのでその要件を伺って見ると、どうやら今日若桜先生の家で先生達が飲み会を開くらしい。
名目上は向井先生の歓迎会…らしい(向井先生は藤城の卒業生だから、元々先生達とも面識は深い)が、その向井先生がよかったら柏木先生も…ということでわたしにお誘いが回ってきたらしい。
思い返せば教育実習が始まってから、お酒を飲むことは控えていたのでこれが初めてだ。
明日は休日だし、せっかく先生方が誘ってくださったのだからその御好意を無駄にするわけにもいかない。


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「お前、酒飲めるのか?」
「うう〜ん…た、多分そんなに得意じゃないですけど、お酒は好きですよ」
「よーし柏木先生に日本酒注いで〜」

と、相変わらず酒豪の若桜先生はさておき…俺もちょっとずつ酒をいただいた。
確か、若桜先生と真山先生はすごく酒に強かった気がする…俺も、潰れないようにしておかないと、そう今日は柏木先生もいるし。

「この料理って、もしかして向井先生が作ったんですか…?」
「あ、ああ…まあ料理ってほどでもないけど」
「向井くんは料理上手だしね、柏木先生は料理しないの?」

そういえば、柏木先生の料理って見たことない気がする。
お昼のときも、お弁当はお母さんが作ってくれてるって言ってたし。

「あはは…わたしあんまり料理上手じゃなくって、だから向井先生とか真山先生すごいなーっていつも思ってますよ!お恥ずかしい限りですが…」
「じゃあ向井くんが教えてあげればいいんじゃないかな〜実習生同士向井くんと仲良くしてあげてね」
「ちょ、一ノ瀬先生…俺もう生徒じゃないんでその呼び方やめてくださいよ…!」

向井くん、だなんて久々に呼ばれたものだからちょっぴり照れくさい。
いや、一ノ瀬先生に向井先生って呼ばれるのも実はまだあんまり慣れてないんだけどな。
というより一ノ瀬先生酔うの早い!完全にもう酔っぱらいのテンションになってるぞこれ…。
先が思いやられる中、俺は無意識か柏木先生のグラスに酒を足していた。
多分俺ももう酔ってる。


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「はあ飲んだ〜、…って結局真山先生以外潰れてるけど」
「わ、若桜先生まだ飲むんですか…」
「うう…本当に酒豪なんですね先生方…」

そろそろ午前0時を記録する時間、このカオス極まりない空間も終結を迎えようとしていた。
一ノ瀬先生と柏木先生は寝落ちしているし、俺もそろそろ意識を手放しそうだ。
そんな中まだまだいけるのか真山先生と若桜先生だけは相変わらず飲むペースを落とさない…この人たちどれだけ飲めば気が済むんだ。
一ノ瀬先生はここにこのままでも平気かもしれないが、柏木先生はそういうわけにもいかない。

「…柏木先生?」
「ん…あ、ああ…わたし寝ちゃって、あっすみません!!わたしったら粗相を!今日はそんなに飲んでないつもりだったんですけどひい…ごめんなさい…!」
「いや、俺も一ノ瀬先生もこんなんだし平気だって。家まで送るよ、そのままじゃ心配だし…」

お酒のせいもあるだろうが、林檎のように真っ赤な顔をした柏木先生はどこか扇情的だった。
あー、違う違う…そんなこと言ってる場合じゃない、早くしないと終電もなくなる。
若桜先生が俺を煽ってくるがそれを聞き入れる余裕も今の俺にはなさそうだ。

「わー…本当にご迷惑をおかけしました…お先に失礼しますね…」
「向井くん送り狼になっちゃ駄目だからね〜」
「そんなことしませんって…!そ、それじゃ失礼します…」

外に出ると、夜風が当たって酔いもちょっとずつ覚めていくような気がした。
とりあえず、駅まで送れば平気かな…柏木先生はまだ少しふらつきながら歩いているので、だいぶ心配だ。

「あはは、向井先生今日は本当にありがとうございます…。わざわざ送ってもらちゃったりして、本当にもう…ふふ」
「柏木先生、本当に大丈夫か…?」
「だ、大丈夫ですよ!向井先生もまだちょっと酔ってます?」

多分、柏木先生は笑い上戸なのだろう。
先ほどから意味もなく、あははーとかうふふーとか言いながら子どものように歩き回っている。
それはそれで可愛いといえば可愛いのだが、どうもこの様子じゃ不安である。

「…あっ」
「わ、柏木先生…あぶな、」

俺が反射的に柏木先生の手を掴む。
躓きそうだった彼女はバランスを取り戻す、しかし俺が強く引っ張りすぎた為か柏木先生の頭は俺の胸にぽすんと収まる。

「あ、ああ…あの、向井先生」
「…………ちょっと、柏木先生落ち着いて」
「こ、こんな状態でおちつけませんって!」

柏木先生はかなりあったかいだとか、普通に胸が当たってるだとか、こんな密着した状態で俺の方を上目遣いで見てくるとか、本当にもういろいろ我慢の限界の部分はある。
…けど、駄目だ。これ以上はまだ、駄目なんだ。

「…い、いまのでちょっと酔い覚めました…わたしったら危なっかしいですね…ふふ」
「まだ…覚めてなさそうだけど、大丈夫そうか?」
「はい…!あ、ありがとうございます、本当にご迷惑をおかけしてすみません…!」

そう言って柏木先生は走って行った……あ、また転んだ。
先生がいなくなるのを見て、駅のベンチに座り込む。
…俺、よく我慢できたな。


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後日談、というか次の日。

「おはようございます向井先生!!!昨日は本当にすいません注意力散漫な馬鹿でほんともう!しばらくお酒は控えます本当に迷惑ばっかりでもう…あああと、とにかく!すみません帰りのことは忘れてください!!」

と一方的に電話を切られた。
俺も、あのことは胸にしまっておこう。


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06/30
先生メンツでお酒が飲みたい()

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