「だってわたし、ビーチハウスになんて行ってないもん!」
「い、いや…西園寺はビーチハウスに確かに行ったはずだぞ?」
「それはボクが保証するよ、だって採取した足跡では西園寺さんで間違いないからね」

狛枝先輩の足跡採取がここで役に立つとは…。
何を考えて捜査しているかは全くわからない先輩だけど、本当にこういうときには役に立つというか、流石先輩というか。
すると西園寺先輩は朝の散歩の時にしかビーチハウスには行っていないと反論、…いくらなんでもそれは無理があるんだけど……!
と、とにかくまずは西園寺先輩の動向をしっかり把握しないと。

「西園寺先輩、これ…小泉先輩が持ってた手紙なんですけど…」
「は、手紙?…何それ、わたし本当に知らないんだけど…!!」
「つーかよ!俺達はそういや西園寺をダイナー前で見たぞ!なあ日向!」

左右田先輩曰く、15時半ぐらいに泣いている西園寺先輩がビーチハウスから駆けてくるところを見たとか。
…とにかく、今の話の流れだと西園寺先輩はあの手紙で小泉先輩を呼び出し、そこで殺した…ということになる。
…でも、あの西園寺先輩が?

「その証拠に現場にはグミが落ちていたぞ?西園寺、お前はよく好んでグミを食べていたな」
「わたしじゃないもん!グミなんて食べたことないし!…ほらあのお面の奴だよ、あいつが真犯人だ!!」
「西園寺さんの仰る通りです!これは『キラキラちゃん』による殺人で間違いありません!」

き、キラキラちゃん…?
ソニア先輩の説明をまとめるとヒーローものの仮面を被る自称正義の味方の殺人鬼、それがキラキラちゃんだとか…。
それにしても、また殺人鬼って、…もしかして希望ヶ峰は殺人鬼の温床なの?
と、とにかくキラキラちゃんの話は置いておくことにして、今は西園寺先輩のことをどうにかしなくちゃ…!
グミが現場に落ちている限り、西園寺先輩の容疑はほぼクロになってしまう。

「…ねえ、西園寺さんのコテージにはこの銘柄のグミしかなかったんだけどさ」
「あ、あれ…?それってどう見てもレモン味が入ってませんよぉ…?」
「えっそのグミって黄色いの!?ならわたしのじゃない!わたしのグミにレモン味なんてないもん!!」

ということは、このグミは西園寺先輩を犯人に仕立てあげるための罠、だったのかな…?
同じ銘柄しか食べてないって狛枝先輩も証言してくれているし、そのときだけたまたま違うのを食べていたなんて考えられないし。

「ふざけんな!グミの色が違っただけで西園寺の容疑が晴れてたまっかよ!まだ一番デカイ証拠が残ってるだろ!?」
「…ビーチハウスの足跡、だな」
「応ッ!あれは小泉が遺した最期の手がかりだからな!」

…小泉先輩が遺した?
終里先輩曰く、小泉先輩が最期の力を振り絞って…って、それは違う!
小泉先輩は即死のはずだから、あのドアを塞ぐことなんてできないはず!

「小泉先輩は即死ですよ、そしてドアを塞いだのは犯人が死体を動かしたから、です!」
「あの血痕から見ても、犯人が死体を動かしたのは間違いないな」
「…でも、あんなに血を流してる死体に触ったらさ、絶対に血がついちゃうよね?」

確かに、西園寺先輩は血で汚れていなかった。
それに、シャワールームは壊れているから洗い流すことも不可能だし、そもそも西園寺先輩は自分で服を着られないから着替えは無理だ。
…これなら流石に、西園寺先輩の容疑は晴れるかな。

「…だから、西園寺に血を洗い流す方法なんてないんだよ」
「ね、ねえ…それってわたしの容疑は晴れたってことでいいんだよね…?」
「ええ、もう大丈夫ですよ。西園寺さん」
「…ぐす、っ…だ、だから言ったじゃん…わたしがおねぇを殺すわけないって…!おねぇは着付けを教えてくれたり、すっごく優しかったんだよ…!うわああああん…!おねぇを返してよーーーッ!!」

西園寺先輩…。
先輩の容疑は確かに晴れたけど、次はその西園寺先輩を犯人に仕立てあげようとした真犯人を見つけなければならないのだ。

「まずはじゃあ…西園寺先輩が嵌められた罠について、話してもらっていいですか?」
「も、もう疑われないんだよね…?それなら話してもいいけど…」
「大丈夫ですよ、ゆっくり話してくださぁい…」
「うるさいゲロブタ!深爪こじらせて死んでしまえ!!」

…容疑が晴れればいつもの西園寺先輩らしく、そこから彼女の話が始まった。
今朝小泉先輩から声を掛けられ、14時に待ち合わせたらしい、しかししばらくするとポストには待ち合わせ場所をビーチハウスに変えたいという手紙。
それを信じた西園寺先輩は14時にビーチハウスへ向かったが、そこで何故か寝てしまった、…え、寝た?

「わたしだって寝たくて寝たわけじゃないよ!多分なんか嗅がされたんだと思う…」
「そ、それってドラッグストアの薬ですかねぇ…」
「十分にあり得ますよね、…あそこの薬は届け出が必要なのも放置してありましたし…」
「なんでお前らその辺ちゃんと対処しねえんだよ…!!」

と、とにかく西園寺先輩は何者かによって眠らされてしまい。
その後目を覚ますと何故かクローゼットにいて、扉を開けば小泉先輩の死体。
驚いて砂浜側の扉から出てきてしまい足跡を残した。
…っていうけど、もしかしなくても何か矛盾点が。

「…あ、あの…西園寺先輩は14時にビーチハウスに行ったんですよね?…でも小泉先輩が持ってた手紙は14時半に集合、…でしたよね?」
「時間が食い違ってるっすよ!」
「これって、もしかして両方とも犯人の捏造した手紙なんじゃないか?」

確かに、手紙の内容はほとんど一緒だし筆跡も似ている。
違うのは集合時間だけ、…そんなの明らかにおかしい。
つまりこれらは犯人によって捏造され、小泉先輩を殺し西園寺先輩を犯人に仕立て上げるための作戦だろう。

「じゃあさ今の話を信じて、もう一度考え直してみようよ」
「手紙のことっすか?」
「ううん、グミの方だよ。…ねえ、西園寺さんが目を覚ましたときって、そこにグミはもう落ちてたの?」
「え…?そういえば、無かった気がする」

つ、つまり。
犯人は西園寺先輩がビーチハウスから出て行った後、偽装工作を重ねたということ。
…その間、犯人はどこにいたの?
扉は砂浜側しか使えないし、まさかビーチハウスに隠れてた…?
と言っても、西園寺先輩だって一応いるわけだし隠れられる場所なんてないような気もするけど…。

「…いや、西園寺がよく調べてない場所…クローゼットの中になら隠れられる!」
「く、クローゼットって、わたしが閉じ込められてた場所じゃん!!」
「ボクもその意見には賛成だな!むしろ犯人は西園寺さんを見張ってたと考えるほうが自然だよ」

そ、それじゃ犯人は西園寺先輩のずっと側にいたってこと…!?
その度胸というか、よくもまあそんなことをしたというか…。
そうして、西園寺先輩が出て行ったのを見計らって偽装工作を始めたという、わけで…。

「…ちょっと待ってください、なら結局犯人はどうやって血を洗い流したんですか…?」
「シャワー以外のもので洗い流せばいいんじゃないの?」
「…シャワー以外、……冷蔵庫のドリンクか!」
「いや、それはありえない!」

珍しく辺古山先輩の反論。
あの冷蔵庫には操作時、色のついたものや甘くて洗い流すにはべとべとするものが多い。
そんなもので洗ったら逆に目立つし、だいいち冷蔵庫には水の類のものは存在しなかったらしい。
だが左右田先輩曰く彼は数日前ビーチハウスで水を飲んだとか。
つまり事件前は水があったのにもかかわらず事件後には消えている、…ゴミ箱には水が入っていたようなラベルのペットボトルの山。
…これで、犯人は血を洗い流したって、……待って?
だって、犯人は水で洗い流したってことは、濡れてるってことじゃない?
ビーチハウスにはタオル類のものはなかったし、そうなると…犯人は。

「…どうやら汐海さんも気づいたみたいだね、犯人の正体に」
「あ、…も、しかして、辺古山先輩…あなたが」
「…………一応聞いておこうか、何故私が犯人だと思うのだ?」

だってダイナー前を通ったとき、…辺古山先輩は水で濡れていた。
あの時は『ひと泳ぎしてきた』なんて言ってたけど、それだって嘘なの、かな…?
肝心の辺古山先輩は黙ったままだ、…これでは容疑も晴れないし、反論もなければ議論も進まない。

「ちょっと待てや!辺古山が犯人だと…?なら犯人はどうやってビーチハウスから出たんだよ!!」
「…扉から出られないならシャワールームの小窓以外考えられないよね」
「ハッ、あの高さを忘れたか?辺古山に届くような高さじゃねえんだよ!」

辺古山先輩は依然黙ったまま。
なぜか九頭龍先輩からの反論の嵐。
…そういえば昔まだ学園が平和だった頃、辺古山先輩と九頭龍先輩はすごく仲がよかった、とか聞いたことあるようなないような。

「あのね、その謎も辺古山さんが犯人だと仮定すると解けてきそうな気がするんだよ」
「あの時も辺古山が身につけていたもので何か脱出の手がかりになるもの、といえば…まさか竹刀か?」
「おお!やっぱり忍者じゃねーか!」

辺古山先輩はあのときも竹刀をきちんと身につけていた。
終里先輩が言うように、鍔の部分に足を立てかければ登れないこともないし、『超高校級の剣道家』である辺古山先輩なら…その程度動作もないことなのだろう。

「おいッ!竹刀を踏み台にしたら竹刀が残されちまうだろうが!!その点はどうすんだよ…!」
「九頭龍、どうしてお前が…!」
「い、いいから答えろ!どうすんだよッ!」
「…………、竹刀袋だよ」

竹刀だけじゃなく竹刀袋までも利用する。
本当に超高校級の名に恥じない才能がなければ決してできない芸当、…桑田くんもそうだったっけ。
日向先輩の説明のもと、その真実が明かされる。
立てかけて台にした竹刀を竹刀袋に結びつけることによって、その竹刀すらも回収する。
そうしてわたし達の前に辺古山先輩は竹刀を担いだまま濡れた姿で現れたということだ。
…本当に、辺古山先輩なの?

「…もういい、さっさと投票タイムを始めてくれ」
「そ、それじゃ…本当に辺古山が」
「ああ、だから投票を…」
「ちょっと待った!」

七海ちゃんが声を上げる。
何か気になった点があるらしい、…それもそのはず、結局辺古山先輩にとっては、あの動機は何の役にも立たないものだったのだから。
それなのに、何故…小泉先輩をわざわざバットで殺したのか?

「そうだな、…強いて言えば我が大義の為、と言ったところか」
「…は?」
「私は私怨で人を殺したりなどはしない、…目的は一つ、正義を守る為だ!」

………え?
わたし達は辺古山先輩の言っていることなんて全く理解出来ない。
思考も追いつかない中、彼女はつらつらと口上を述べていく。

「輝く正義を仮面に浴びて、醜き悪の五臓六腑をぶち晒す…正義、完了!」
「こ、これはまさか…!?」
「人呼んで『キラキラちゃん』とは…私の事だ!」

え?
ちょっと、待って…?
辺古山先輩が、『キラキラちゃん』?
すぐさまソニア先輩が注意を呼びかける。
彼女は正義の味方を自称するシリアルキラー、古今東西のヒーローもののお面を被って犯罪者を殺しまくる、殺人鬼。
モノクマがまたかと愚痴を零す。
今だけはその気持ちには同調する、…本当に、本当に辺古山先輩が殺人鬼…?

「…で、さっきの答えは?あなたはどうして小泉さんを殺したの?」
「悪即惨殺、…どんな状況であろうと、悪を見過ごすわけにはいかないのだ!」
「悪って、…まさか小泉おねぇのこと…?」

豹変した辺古山先輩はなおも正義について語る。
その不可解さに呆れ返る面々も、投票を急かす、…そうだ、こんなのはもう終わらせないと!
投票が終わり犯人は辺古山先輩、そうして学級裁判は終わろうとした。
しかしソニア先輩がもう少し話し合いたいと発言。
議論も何も、もう既に結論は出てしまっているのに…何を一体話すというのか?

「ソニアさんは辺古山さんが本当に『キラキラちゃん』なのか気にしてるんでしょ?だって彼女には決定的な相違点があるもんね」
「は、はい…実は『キラキラちゃん』はスペイン語を話していたので、…日本人ではないと思うのです」
「つまり、辺古山は偽物ってことか…?」
「ふっ…この仮面が剥がれる時が来たか……」

どうやら辺古山先輩は本物の『キラキラちゃん』ではなかったらしい。
…それでも、辺古山先輩が犯人であることには変わりない、のだけれど。

「もう遅い、お前達が今更その事実に気づいたところでもうどうにもならないのだ」
「…どういう、ことだ?」
「私はもう用済みだ、この仮面のように、道具としての役割を終えたのだ」
「道具…?」

次に辺古山先輩は自分が道具であると主張を始めた。
先程から辺古山先輩の言っていることを理解できるものは誰もおらず、ただただその話を聞くことしか今のわたし達にできることはない。
聞くところによれば辺古山先輩は道具であり、凶器である辺古山先輩を使った人間こそが真犯人、だとか。
…その犯人は、狛枝先輩曰く今回の動機で一番強烈な動機となり得る人。
つまり、九頭龍先輩。

「ねえモノクマ、死体発見アナウンスのことなんだけどさ」
「なんだよ、嫌なところに目を付けるなあ!」
「あれの『3人以上』っていうのはさ、犯人を含んでるの?そうじゃないの?」

狛枝先輩が言わんとしていることはつまり、犯人が含まれていない状態の死体発見アナウンスならば今回は一人足りないということ。
…だって西園寺先輩と左右田先輩の二人しか目撃者がいないんだもの!
先輩の思惑は的中と言ったところか、今回は犯人を含んでいないようだ。
つまりそこには共犯者の関係にある人間が一人必ず存在する、…それが九頭龍先輩。

「…ねえ、どういうことなの九頭龍くん」
「……オレは、あのゲームをクリアしてから、それが真実が確かめるために小泉に写真を送ったんだ…」

だけど、そこから小泉先輩は九頭龍先輩を避けるようになった。
そんなの無理もない話だ、わけのわからないところで殺人が起きていて、しかもそれが自分に関係していると言われて。
…でも、その記憶もないんだから。
混乱して、避けてしまうのだって仕方ない。

「けどよ、オレだってギリギリまで信じてたんだよ、あのゲームが嘘だって…でも、あの女は…ッ!」
「…だからぼっちゃんは、隠し持っていたバットを私に渡して殺させたのだ」
「あ、ああ…?」

微かに残る違和感。
じゃあ、辺古山先輩は九頭龍先輩に命じられるがまま、小泉先輩を殺したの?
…九頭龍先輩は、そんなに残虐な人だったの?

「ぼっちゃん、…あなたはただ真実を言えばいいのです。私に命じて小泉を殺させたと」
「くっ…、」
「な、なあ九頭龍…お前はあの時あんなこと言ってたけどよ、…それは嘘だよな?だってそうだったら、こんなところで迷うはずないもんな…?」
「ぐ、っ……」

九頭龍先輩が悩んでいるのは、辺古山先輩の狙いの元自分だけ生き残るか、辺古山先輩を犠牲にしてわたし達ともう一度絶望に立ち向かうか。
…どちらにしても、辺古山先輩を失うことには変わりないけど。

「……わ、悪いペコ…、やっぱ俺には無理だわ…」
「…なんとなく、わかっていましたよ」

辺古山先輩は、九頭龍先輩のことなんて全てわかっていた。
幼馴染…というかずっと一緒にいたんだもの、それぐらいわかるんだということ。
九頭龍先輩は極道としては優しすぎる人…だけど辺古山先輩は、そんな九頭龍先輩を守る為に。

「さあモノクマ…処刑を始めろ、言っておくが私は絶望などしないぞ」
「うっぷぷぷぷ!どうかなそういう人程絶望しちゃうんだよ…?」
「ま、待てペコ…!」

最後の最後に、九頭龍先輩の悲痛な叫び声。
今まで彼がずっと隠してたこと、言えなかったこと。
それは全部、今言わなければ一生伝わらないこと。
だから、九頭龍先輩は。

「オレに必要だったのは、…そのままのお前だったんだ!なのにどうしてわからねえんだ!」
「ぼっちゃん…?」
「オレにはお前が必要なんだ…ッ!だからオレを置いていかないでくれよ、…ペコぉおおッ!!」
「ぼっちゃ、…ん…!!」

無情にも処刑が開始される。
…!!
辺古山先輩の処刑なのに、なんで九頭龍先輩も…ッ!
処刑では最後、辺古山先輩が九頭龍先輩を包み守るようにして終了した、…その甲斐あってか九頭龍先輩は瀕死ではあるがまだ息もある。

「で、でも…血が止まらないんですぅ…!!」
「モノクマ!あなたはルール違反は許されないはず、だから九頭龍先輩を殺してはいけないんだ…だから!」
「汐海さんの言う通りでちゅよ!九頭龍くんを助けなちゃい!!」

修学旅行のルールでは、あの時と同じくクロのみの処刑だ。
苗木くんを無理やり処刑しようとしたとき同様、モノクマがルール違反なんて絶対に許されない。
その結果九頭龍先輩はモノクマに連れて行かれ、裁判場から足を遠のけた。
また絶対に、九頭龍先輩の声が聞けると信じながら。


海と罰。罪とココナッツ(3)


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03/19


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