そんなこんなでパーティーが開始された。
辺古山先輩や九頭龍先輩、七海ちゃんがいないのは残念だけど。
花村先輩のおいしそうなご飯も、見てるだけでお腹が空くというか!
なんか、先輩達の中にこうやっわたしが混じって楽しんでもいいのかな、…わからないけど、でもすごく楽しいな。
海のときは日向先輩が楽しめなかったけど、今回はその日向先輩もばっちりだし。
突然パーティーだなんて言い出した十神くんの真相はわからないけど、それでもこうやってみんなで笑い合える環境を作ってくれた十神くんには感謝しなくちゃ。

すると、小さな機械音とともに、視界が真っ暗になった。
……て、停電?

「みんな落ち着いて、こういう時は落ち着かないと!!」
「ちょっと待て…俺が壁伝いで事務室まで……」
「停電って厨房だけじゃないのー!?」
「…おいお前何をしている!」

それからしばらくして、やっと電気が戻る。
…この島で停電なんて、なんか嫌な予感がするけど、まあモノミとかのミス……かな?
慌てていた雰囲気も戻り、再びパーティーをしようとしたのだが。

「あら?十神さんの姿が見えませんけど…」
「本当だ、アイツどこ行ったのよ…」

電気がついたのにも関わらず、
そこには十神くんの姿だけが見当たらなかった。
こういう時に、統率するのがリーダーじゃないのかなあ、なんてぼんやり思っていても彼はわたしたちの前に現れることがなく。
仕方がないのでパーティーを一時中断して、十神くんの捜索を開始した。

「…わたし、七海ちゃんに聞いてくるね!」

中はあの十神くんが隠れるような場所もないので、外に行った確率が高いだろう。
七海ちゃんに尋ねてみたが、どうやらパーティーが開始されてから彼の姿は見ていないようだ。
…そうなると、十神くんは絶対にこの旧館内にいるということになってしまうのだが。
大広間に戻ってみても、誰も十神くんの手がかりを見つけた人はいないらしい。
すると終里先輩が、急に不吉な事を言い始めた。

「…おい、なんか血の臭いがするぞ…?」
「血、って…」
「ああ、あのテーブルからだ…!」

終里先輩が指差したテーブルは、狛枝先輩が危険と称していたテーブルだった。
…なんだろう、この…気持ちは。
また、あんなことが起こるんじゃないかって、なんとなく思ってしまう。
…その考えを拭おうと、わたしはそのテーブルクロスを一気に捲った…そこには。

「い、…いやああああああああッ!!」
「嘘、だろ……?」
「十神さんが、…ッ!?」

そこで、十神くんが仰向けになっていた。
きっと停電で怯えたのかな、もう停電は直ったんだよ十神くん。
…だからさ、そろそろ起きても、いいんじゃないの……?

「十神クンが、…死んでる?」
「やだ、…意味わからない…ッどうして十神が!?」

また、起きてしまった。
この殺人が、この絶望が。
わたしは自分の体を支えることなんて忘れて、その場にへたり込む。
どうして、なんで十神くんが…。

「おやおや、どうやら殺人のようですねえ」
「モノクマ…!」

愉快そうに現れたモノクマが、学級裁判を開くと伝えた。
…あの学園生活からしばらく経って、殺人が起きたら学級裁判なんてふざけたことも刷り込まれてしまっていたので、わたしはそこまで狼狽えなかったけれど、先輩達はそうもいかなかった。
仲間を殺したクロを暴く、それはつまりわたしたちの中の誰かを、突き止めて処刑するということだ。

「…ボクはやるよ。裁判で、ボクらの中に犯人なんていないことを確認してみせる…!」
「ふゆ、ぅ…わ、私も…少しだけなら検死も、できますし、…だから、皆さんの為に頑張らせてくださぁいっ!」
「…そっか、やらなくちゃ、いけないんだよね……」

狛枝先輩や罪木先輩の発言で、学級裁判を開くのをだいたいの先輩が受け入れた。
…だって、やらなくちゃ自分達が殺されてしまう、そういうルールだから。
先程までと一転した雰囲気の中、わたし達は各自捜査を始めた。
……当然、霧切さんのような名探偵はいない。
あの学園生活を、こんな形で活かすことになるとは思わなかったけど、わたしは経験者なんだから…頑張らなくちゃ……!

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「…やるしか、ないんだよな」
「いいですよ先輩、…わたしがやります」

むせ返る鉄の臭い。
今までは死体を調べるのすら霧切さんに任せっぱなしだった。
…覚悟を決めて、その現場に目を当てる。
十神くんの側にあるのはナイフと、それから…暗視スコープ?
ナイフも何故か光っている、テーブルを内側から覗けばガムテープがほんのりと光っていた。

「これ、夜光塗料ですかね…」
「…多分、そうだと思うけど…汐海お前平気なのか?こんなの普通進んでやるもんじゃないぞ…」
「平気じゃないですけど、…先輩達よりは、慣れてるつもりですから」

こんなに近くで死体を見るのは初めてだったけど、…それでもわたしは十人程の死体を見てきたのだ、少なくとも、ここにいる人達よりは耐性もある。
今すぐ逃げ出したい気持ちはあった、だけどもう立ち止まってる訳にはいかないんだ。
部屋で気になるものといえば後はエアコンのタイマーとか、そういうものを一通り調べた後、わたしは大広間を出て行こうとした。

「あ、待って汐海さん」
「…先輩?」
「キミ一人じゃ危ないからさ、よかったら日向クンと着いて行ってもいいかな?」

わあ嬉しいご提案、…とかそんなこと喜んでる場合じゃなくて。
…確かに、一人で行動するのは危険かもしれないし、先輩達がついてきてくれるならそれはそれですごく幸せだった、…いや、幸せって表現はおかしいけどさ。
そんなこんなで事務室や厨房、倉庫や果ては十神くんのコテージまでも、捜索へと向かうことになった。

「…そういえばさ、汐海さんって十神クンと七海さんだけ敬語じゃないんだね」
「…随分細かいな狛枝……」
「ああ、それはですね…十神くんは昔会ったことあるんですよ…あと、七海ちゃんは友達なんです」

…まあ、この程度なら嘘にはならないだろう。
本当は全部言っちゃいたい気持ちも強いけれど、今そんなことを言ったって混乱をますます強めるだけであって。
そうこうしているうちに、学級裁判開始のアナウンスが鳴り響く。
わたしたちはモノクマロックから裁判上へと向かった、……また、この光景を見ることになるなんて。

こうして学級裁判が開始される。
わたしが先導して、みんなを助けないと…!

「…始めろって言われても、何から話し合えばいいんですかぁ…!」
「…まず、十神くんが殺された場所から話し合いましょうよ、やっぱりテーブルの下からなんて変ですから」
「誰かが殺した後、死体を移動させたんじゃねえか?」
「いや、テーブルの下の血痕に、引きずったような後はなかったはずだよ」

……あー、自分から発言したのってはじめてかもしれない。
確かにテーブル下で殺されたような血痕しか見つかっていないし、だいたい十神くんを引きずるのにもあの巨体では無理があるだろう。
次に凶器についてだ。
凶器はあそこに落ちていたナイフ…なのかな?
あれは十神くんのボディーチェックをかい潜ったとは考えられないし、事前に用意されていたものと考えるのが妥当だろう。
事前に用意なんてできたのは、……いやこれは後でもいいか。
でも、十神くんはどうして犯人がナイフを取ることがわかったんだろう、…しかも、事前にわかっていたわけじゃなくて停電中に。

「…暗視スコープを使えば十神は犯人の姿が見えるぞ!」
「いや違うでしょ、まるっきり逆だよ!だって犯人が使えば十神を暗闇の中で殺せるじゃん!」
「犯人が使ったって根拠はないだろ、あの暗視スコープは間違いなく十神が使ったはずだ」

あの暗視スコープなら、確かにこの暗闇はどうとも関係しない。
確かに、普通に考えれば犯人が使ったと考えるのが妥当かもしれないけど、あれは直前まで十神くんのジュラルミンケースに入ってたわけだし、十神くん以外に使えるとは思えない。

「のう、…十神の奴は何故暗視スコープを持っていたんだ…?念の為の警戒にしてはやりすぎじゃろう…」
「…みんな、これを見てくれないか?」
「十神クンのコテージにあった、脅迫状だよ」

今夜コロシアイが起こる。
誰かが誰かを必ず殺す。
…淡々と、そう書いてある。
誰の字だか、わからない…けど、見覚えもなくは、ない…。
こんな曖昧なことで発言したくないし、そっと胸の中に留めておく。
とにかく、これのせいで十神くんはパーティーを開くなんて言い出したんだろう。
そうして彼のリーダーとしての責任感を利用して、むしろこうなるように仕向けた、…相当頭の切れる人だ。

「そういえば、あの停電はどうして起きたんだろうね?」
「事務室でブレーカーを落とせば済む話だろ!だったら怪しいのは辺古山だ!」
「……わ、私は犯人ではないのだ…」

確かに、ブレーカーを落とすことが辺古山先輩にできるんだとしたら、十分犯人の可能性はあるだろう。
…でも、あんな高い場所、この中の全員が無理な気がする。
それに、辺古山先輩はどうやらトイレに篭っていたらしい、…そういえば弐大先輩がずっと空いてないって言ってたっけ。

「なら下剤を持った可能性はねーのかよ」
「えっ何々!?ぼくの料理にそんなものあるわけないじゃんかあ!」
「そうだな、…それだったら終里も腹を壊してるはずだ」

じゃあ辺古山先輩の腹痛は本当に偶然で、…だとしたらどうして停電が起きたのかな。
…そんな感じの、怪しい仕掛けはいっぱいあったはずだけど。

「…ボクが倉庫に行ったときは、アイロンが3台もついてたよ…なにか作為的なものを感じるよね?」
「人為的に引き起こされたということか…」
「あ、あとエアコンのタイマーも怪しいですよね!」

日向先輩が話をまとめると、つまりアイロンで消費電力ギリギリにしておいた状態で、エアコンのタイマーによって予定時刻ぴったりに停電が起きたというわけだ。
…でも、それじゃあ犯人に繋がる手がかりは何もない、パーティーに出席している全員に可能なことだ。

「…困ったね、ボクらの誰にでも可能みたいだよ?」
「折角ここまで議論を重ねたのにですか!?」
「そこで、…これは提案なんだけどさ、みんなはこんな風に思ったことはない?……誰かを殺して生き延びるぐらいなら、死んだ方がマシってさ」
「そ、それって…諦めて死ねってことですかぁ……!?」

狛枝先輩らしい提案だった。
…それでもわたしは生き残らなければいけないし、……そのための犠牲だって厭わない。
だってわたし達がここで死んだら何も残らない、今まで頑張ってきた全てが無に帰る。
…そんな絶望に、堕ちたりなんてしない。

「それは違う!………と思うよ?」
「な、七海…?」
「だって、犯人に関する手がかりならもう見つかってるじゃんか」

犯人に関する手がかり、…七海ちゃんが言うには小泉先輩の全員の見取り図が役に立つそうで。
それを見せてもらうと、…確かに卓上ランプの近くにいる人は一人だけ。
………それでも、絶対に違うと思っていた、人だった。


「……なあ、狛枝。お前が犯人なんじゃないのか?…だって、停電の時にあのテーブルの近くにいたのはお前しかいないんだぞ…!」
「そ、そんなのただの偶然だよ…!」
「でも、狛枝くんが犯人ならナイフを仕掛けるチャンスはいくらでもあるはすだよ?そんな偶然二回も重なるかな?」
「だから偶然だって…」

ただの偶然、そうだよそんなはずない、先輩が人殺しなんてするわけがない…!
…それでも、脳裏に先輩が言っていた言葉が思い浮かんだ。
『そうだ、奥のテーブルは危ないから』
きっと先輩は、掃除中にナイフを仕掛けたんだろう、それをわたしに悟られない為にわざと…?
違う!全部間違ってる、先輩がそんなこと、…絶対に、

「………あはっ、」


絶望トロピカル(2)


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03/07
学級裁判だけで8000文字オーバーです、狛枝くんこわい


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